4.登校
早くも始業式の日が来てしまった。もう嫌だ、学校行きたくない。
お腹が痛いから休むってお母さんに電話してもらおうかな。
でも心配されちゃうし、だから制服に着替えて、重たい足を引きずってでもいくしかない。
「どうしたの、アユちゃん。顔色が悪いわよ」
食パンにバターを塗っていると、お母さんがお米を研ぎながら聞いてきた。
この時期に水仕事をするとあかぎれになりやすい。それでもしっかりと家事をこなすのはさすがだと思った。
「ううん、平気。ちょっと寝不足なだけだよ」
私は食パンにチーズものせてオーブントースターに入れた。ダイヤルをひねると稼働音がして、中がオレンジ色に光った。
「そう? 悩み事があったら言いなさいよ。たったひとりの家族なんだからね」
そうだった。たったひとりの家族なんだ。
私が死んじゃったら、お母さんは悲しむはずだ。
熱している最中のオーブントースターを、ちょっと開けてみる。
バターはじゅわじゅわと食パンの上で泡立ち、チーズもきつね色でこんもりと盛り上がっていた。こうばしい香りが鼻孔をくすぐる。
私は食器棚からお皿を出してテーブルに置く。テレビでは朝の占いをやっているところだった。
「おひつじ座は何位かしら?」エプロンのすそで手を拭いて、お母さんがやって来る。
私はダイヤルをひねって残り時間を短くした。チーンと甲高い音が鳴る。
オーブントースターから食パンを取り出して、受け皿にのせた。こんもりと膨らんだチーズが、どんどんしぼんでいく。
こんがりと焼けたトーストをかじるとサクッという音がした。パンの耳はサクサクだし、それ以外の部分はやわらかくておいしい。
食べ進めると、チーズがにょーんと伸びた。バターのふんわりした味わいと、チーズの濃厚な甘みが、口の中で絶妙なハーモニーを奏でる。
私はテレビに視線を移した。占いは終わっていて、お母さんも米研ぎを再開していた。
テレビのニュースではいじめ問題が取り沙汰されていた。
当初その学校はいじめの存在を否定していたが、市教育委員会の調査によっていじめの事実が発覚したというものだった。
記者会見に応じた校長と副校長は、この不祥事を深く陳謝していた。
私はそれを見て、いじめが起きても学校は助けてくれないのだと知った。
自分でなんとかしないと。そう力強く掌を握る。私は胸が高鳴っていくのを感じていた。