END.九仞の功を一簣に虧く(ネルウァ)
最新の研究によると、宇宙は138億歳だといいます。
これは宇宙背景放射から算出された数値ですが、じゃあネルウァは、138億歳以上ということになりますね(笑)。
「左様でございます。アレクサンデル教皇。水鳥鮪は更生し、飯島りんにも笑顔が戻りました。人間偏差値も上昇しています」
「σοουκα、γκοκουροου。τοκοροντε……
(そうか、ご苦労。ところで……)」
ネルウァはアレクサンデル教皇に謁見するため、アルテミス神殿に訪れていた。
大理石の床にひざまずいて話を聞くが、顔を上げることは許されていない。
2名の側近が首筋にサーベルを当てているからだ。神殿を移動するときも目隠しをさせられた。
警備は厳重であり、そこには一部の隙もない。
「χαντογκα、βατασινοοουιοσανντατουσουρουτουμοριρασιι。
(ハドリアヌスが、私の王位を簒奪するつもりらしい)」
「なんですって。だれがそんなことを」
「τομποκερουνα。κισαμαμοκα?
(とぼけるな。貴様も共犯か?)」
「いえ、なんのことかさっぱり……」
「ντεχα、μοννταινακαροου。τοουχεντουιχοουμο
(では、問題なかろう。これから民衆を集めて陶片追放を行う)」
「陶片追放……」
ネルウァは聞きなれない言葉に記憶をまさぐった。
陶片追放とは、僭主の出現を防ぐための市民投票だ。
これに選ばれてしまうと10年間に渡り創造神界を追放されてしまうのだ。
「お言葉ですがアレクサンデル教皇。ハドリアヌスは野心だけはありますが、まだまだ青二才です。教皇の地位を脅かすとはとても思えません」
「χαντογκαριουσιτα。ματιγκαιναι
(ハドリアヌスが転生者を利用し、奸計を巡らせていたのは自明の理。いわゆる儂を出し抜こうとしたことに間違いはない)」
アレクサンデル教皇はにべもなかった。
相手の表情はわからないが、硬質のステッキが大理石を叩く音がした。
目の前には、わら半紙と羽根ペンが出現していた。
「σαακακε。τοουχιουντα
(さあ書け。投票権を与えてやろう)」
ネルウァは唸った。
このアルテミス神殿ではいかなる創造力も無効化される。
なにを想像しようとも、なにも創造することは出来ないのだ。
そうは言っても、教皇のみが持つことを許された『ケリュケイオンの杖』だけは別格であるが。
「承知しました」
そう羽根ペンを動かしたときだった。
ネルウァはあることに気が付いた。
「これは、火事ですか!?」
神殿の中が以上に暑いのだ。
無機質に伸びる石柱が燃えるような赤みを帯びていた。
「放火? 神殿内部では創造力を行使出来ないはず。外部犯だとしても衛兵がいるはずですが?」
「χαντοντα。ματιγκαιναι
(やはりハドリアヌスの仕業か。これほどの創造力を有するのは五賢帝しかいない)」
こうしてハドリアヌスの創造神界の追放が決定した。
しかし、それは根本的に間違っていたのだ。
放火をした犯人はハドリアヌスではないし、創造力を無効化する神殿の魔力も消失していた。
創成法第230条――人間界への直接介入を禁ずる。
この法律を犯したため、創造神界は破壊神の手により、静かに侵食されていたのだ。
「創造と破壊は表裏一体。宇宙は急速に膨張し、歯止めが利かない状態にある。まずは創造神を破壊して、宇宙を消滅させるとしようか。宇宙はビッグバンに始まり、ビッグクランチによって収束する」
有名になりたい若い羊飼い――破壊神見習いの『ヘロストラトス』は、黄色い乱杭歯をのぞかせてほくそ笑む。
「そのまま灰燼に帰してしまうがいい。教皇もろともな」
――この先の物語は、神のみぞ知る。
デウス・エクス・マキナ。
ラテン語で「機械仕掛けの神」を意味します。
意味としては、神みたいなやつがいきなり出てきて、話をムリヤリ収束させることですが、この場合は真逆でしたね。破壊神のやつはハッピーエンドにする気がないのでしょうか? これは作者も想定外です。
ともあれ、これが最終回なのです。
ご要望があれば続編も書けますが、その場合はだれが主人公になるのでしょう。
わからないですけど、最後にちょこっと出てきた破壊神はすぐに殺されそう……(笑)




