END.未来に向かって!(仁科歩)
「アユちゃーん。朝ご飯出来たよ」
「はーい。今行く」
ヘアゴムで後ろ髪を束ねてから化粧台でチェックする。
このところ忙しかったせいで肌荒れがひどい。もう最悪だよ。
私はハンガーラックに手を伸ばす。そこには紺色のブレザーが吊るされていた。
クリーニングのビニールをとると、それは新品同様に仕立てられていた。
「はあ、行きたくないな。ガッコ」
たぶん、水鳥鮪くんがまだいてくれたら、こんな恐怖も味わわずに済んだと思う。
ねえ。私、本当に変われたのかな。
水鳥鮪くん。ネルウァさん。どう思う?
『おいお前、俺がいなくても大丈夫なのかよ。またいじめられたりとかするんじゃねーのか?』
『仁科歩さん。創造神が人間界に直接干渉することは、本来許されていません。おそらくこれが今生の別れとなります』
ねえ。私、どうしたらいいのかな。
もうみんなに会えないの?
ごめんなさい。やっぱり私には水鳥鮪が必要だよ。
「どうしたの? 昨晩のカレーが冷めちゃうよー」
お母さんが声を荒げる。
転移者(水鳥鮪)と転生者(佐伯あかね)のバトルは。
創造神の作為によるものだとは思うけど、2人とも無傷だった。
その証拠に、私の唇だって元通りになっている。
二の腕に受けたボールペンの傷は治ってないけどね、ネルウァさん。
「うん、すぐ行くよー」
階段を下りてテーブルに着く。
テレビ画面からは朝の占いがタイトルコールされていた。
カレーにちょっとソースをかけてからスプーンを取る。
お母さんのカレーはいつも薄味だ。
「あ、そうだ。アユちゃん?」
ゴミ出しの準備をしながら、お母さんは明るい声を出した。
45リットルのポリ袋がキッチンに集積されている。
「お友達が来ているわよ。早く食べなさい」
お友達だって? ざわざわと胸騒ぎがした。
朝の占いではうお座は最下位だった。
まさかとは思うが、こんなときに占いが的中するとは皮肉な話だ。
今日の運勢、間違いなく最悪だし。
そう洗面所で顔を洗う。
もう一度、水鳥鮪に会いたいよ。
鏡を見ながらそうつぶやく。
そしたら、『ありがとう』と『ごめんなさい』が言えるのに。
私はわざと時間をかけて、ゆっくりと玄関の扉を開けた。
ああ、やだなあって、重たい気持ちを引きずって。
「おはよう、仁科さん」
「よう、仁科」
「見直したぜ。根性あるな、お前」
「仁科さんって格闘技経験あるの?」
え? あれ?
その状況に戸惑ってしまう。
そこにいたのは、七瀬さくらを筆頭にしたいじめっ子集団じゃなかった。
彼らは袖手傍観していたはずのクラスメイトだ。
「ごめんね、仁科さん」
「悪いな、力になってやれなくて」
「スクールカースト崩壊だな」
「あの動き、どこで身に付けたの?」
「え、みんな。――どうして?」
そう固まってしまう。
なんなのよ、この状況は。
「私たちは仁科さんの味方だよ」
「なんかあったらすぐに言えよな」
「大したやつだぜ、お前はよ!」
「部活動やらないの?」
水鳥鮪くんが私に残してくれたもの。
それがもしもあるんだとしたら、ほんのちょっとの勇気だと思う。
どんなに怖くても、一歩踏み出す勇気が大事なんだ。
隗より始めよって、ネルウァさんなら難しい言葉を使うんだろうな。
それなら私は、私らしく生きることから始めてみようかな。
「ねえねえ、聞いてよー。私って二重人格でさ」
きっとまた会えるよね、水鳥鮪くん。
その日まで、私は強く生きるよ。
飯島りんって人と仲良くなれたらいいね。
そしたら私も、イケメンの彼氏連れて来て、びっくりさせてやるんだから。
主人公の仁科歩ちゃんの物語はこれでおしまいです! ハッピーエンドになって良かったです。
次回予告
END.(水鳥鮪)をやります。




