21.絆走者の極意
転生者は――相手の魂ごと乗っ取るため、身体機能にタイムラグを生じさせることなく、十全にそのパワーを発揮出来る。
転移者は――相手の精神を依代にするため、あくまでも身体は宿主のものとされ、その実力の半分も引き出せない。
ただし。
『絆走者の極意』は例外だ。
強い絆はときとして、その常識を超えるのだ。
「これで終わりよ!」
男の短パンからは、濃いすね毛がのぞいていた。
筋肉で固めた太い脚が、ゆっくりと私に照準を合わせる。
木造校舎には一条も光が差さない。私と転生者はにらみ合ったままだ。
わずかな体重移動で、床がみしりと鳴った。
風を切る音が、耳朶に響いた。
屈強な男の蹴りが飛んできた。
構わず前に出る。
足刀が、服を裂いた。
比喩ではない切れ味がその蹴りにはあった。
私は身体を回転させて、相手の側頭部を目がけて、跳んだ。
めしぃ、と。肋骨が折れる嫌な音を聞いた。
丸太の太い腕が、がら空きの胴部を打ち抜いていたのだ。
またしても、意識が、飛ぶ……。
ことはなかった。
私はそうなる前に、下唇を喰いちぎって、失神を阻止していたのだ。
口腔内で、肉片と血液の味が交じわった。
「きぇぇぇえええ!!!!」
男のこめかみを全力で蹴り抜く。
と、肋骨を中心にして全身に激痛が走った。
「ぎぃやあああああ」
私は叫んだ。男は昏倒していた。
木造建築に絶叫が反響し続ける。
私は他人事のようにそれを聞いていた。




