16.創造神
私は夢を見ていた。それも明晰夢を見ていた。
手足の指は末端までも自由に動かせるし、言葉だって普通に発することが出来る。頬をつねれば痛いけど、それは脳が痛みを偽造り出しているのかもしれないし、実際に寝ているはずの私の身体が動いているのかもしれない。それはともかくとしても私はこれが夢であることを自覚していた。見渡す限りが一面真っ白の虚構空間になっていたのだ。なんと想像力の乏しい夢なのだろうか。
「はじめまして、私はネルウァ。創造神の1柱です。人間偏差値は68で、あなたの創造主であります」
そう声を掛けられてはっとした。
先程まで虚無に覆われていたはずの空間に、一体の"神々しい何か"が出現していたのだ。
それはウェーブがかかった白い長髪に丸めがね、赤褐色の皮膚で、男性の姿をしていた。
私の心臓は早鐘を打った。
いきなり変な人が目の前に現れたら、普通に怖い。
「あの、だれ、ですか?」
「私はネルウァ。創造神の1柱です」
「創造神ってなんですか?」
「宇宙は約150億年前に起きた大爆発によって創生されました。その大爆発を創造り出したのが創造神です。正確にはその中でも白眉とされる五賢帝と、創造神の最高位である教皇が引き起こしたのですが、そこまで敷衍して説明するつもりはありません」
あまり踏み込むと、原子核反応による星の生成と進化、元素の創生論まで話が及びますからねえ。ネルウァはそう困ったように苦笑した。
私は頭が痛くなった。
「太陽系に話を絞ると太陽を創成したのが、アレクサンデル教皇。地球を創成したのがトラヤヌス。月を創成したのが私で……」
「わかりました。なんかもうスケールが大きすぎてよくわかりません」
「これはこれは、失礼しました」
「それでネルウァさん。あなたが私の創造主ってことは」
「ええ。あなたの祖先は私が創造りましたので、あなたの遠い親戚のようなものです。血の繋がりはありませんがね」
なんだか禅問答を受けている気分だ。このままでは頭がおかしくなりそうだ。
私は話題を切り替えることにした。
「あの、ネルウァさんはなんで私をここに連れてきたんですか? ここはあなたが創造った世界ですよね?」
「ご明察ですね。単刀直入に申し上げますと、あなたはこれから命を狙われることになります」
「は?」
命を、狙われる?
なんで?
いじめがエスカレートするってこと?
「詳細は省きますが、こうなってしまった責任は私にもありますからね。仁科歩さん、転生者に殺される前に逃げてください。どこか遠くへ逃げてください。水鳥鮪くんのためにも」




