1.騒乱
初めに、神は天地を創造された。
「キモい。なんで学校に来たの?」
「お前を見ていると目が腐る。死んでくれない?」
「いじめられて当然でしょ。嫌なら早く死ねば」
朝起きるといつも思い出す。学校でのこと。
そして恐怖するんだ。これから起きることを。
将来に展望なんてないから、死ねるものなら死にたい。
「アユちゃーん。朝ご飯出来たよ」
「はーい。今行く」
ヘアゴムで後ろ髪を束ねてから化粧台でチェックする。うん、大丈夫だ。
そばかすが増えたのはたぶんストレスのせいだろう。でも、許容範囲。
ストレスが髪の毛に与えるダメージは大きい。そのせいで抜け毛も増えた。
でも、いいんだ。
今日を乗り越えれば冬休みだから。
私はそう階段を下りる。木製の板張りはミシ、ミシ、と音を立てた。
テーブルに着くと、仕切りのあるワンプレート皿が用意されていた。
ウインナーとキャベツの千切り。目玉焼き。そしてトーストが2枚のっている。
こんがりと焼き色のついた食パンにイチゴジャムを塗って食べる。香ばしいパンとイチゴジャムの甘みが口いっぱいに広がった。
「ホットミルクもどうぞー」
白磁のマグカップを両手で包むようにしてお母さんは持ってきてくれた。
「ありがとう」
私はそう言ってパンといっしょに流し込む。お腹の中から温まった。
母子家庭になってからだろうか。母は私に優しい。
目玉焼きを箸でつついていると、テレビ画面から朝の占いがタイトルコールされた。
どんな結果が出ても私の運勢は最悪だ。これで一喜一憂するのはお母さんくらいのものだと思う。
「今日もおひつじ座は運気が低迷してるわ。本当、嫌になっちゃう」
十二星座占いや血液型占いにそこまでの信憑性があるとは思えないけど、お母さんはいつもゲン担ぎでラッキーアイテムを鞄に入れる習慣があった。
ラッキーアイテムは思い出の写真。私は離婚する前にお父さんと撮った写真を入れるのかと思ったけど、実際に入れたのは私が高校に入学したときの写真だった。あのときはいじめられるなんて思ってもいなかった。
私は玄関口を出る時間が日に日に遅くなっていた。寒いからというのもあるけど、1秒でもいいから学校にいたくないというのが本音だった。
お母さんはそういうところに敏感だ。学校で何かあったの? いじめられてない? と心配そうな顔で聞いてくることがある。
私は答える。
「ううん、大丈夫。心配いらないよ」
迷惑なんてかけたくないから。私は今日も嘘を吐く。
終業式で浮ついた空気もあって、この日は女子トイレで暴行を受けることはなかった。
だけど私のケータイは不必要に着信を知らせる。
『なんで幽霊が学校に来てるんですかー?』
『ブス』
『くさい』
『めざわり』
『死ね』
そんな陳腐なメッセージや、性的な画像にどこで撮ったのか私の顔を合成した写真なんかが送られてきた。
私は無視する。
そして予定調和のようにして『既読スルーしてんじゃねえよ!』というメッセージが送られてきて終わり。
なんでもないようなことだけど、長く続けられるとメンタルが摩耗する。私、もう限界です。