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聖騎士スヴィエート

負けた!負けた!負けた!!?


少女は、天賦の才を受け継いでいた。

聖女である母親譲りの並外れた魔力と聖騎士団長である父親から譲り受けた卓越した剣技の才。

少女は齢5つにして、ろくに鍛錬などせずとも、聖騎士団相手に圧勝してしまうほどの強さを持っていた。父であり、師である団長を除き、今までもただの一人にだって負けたことはなかった。


だというのに、9歳の時に、騎士団同士の親善試合であっさりと負けた。


相手は、隣国の団長……ではない。その息子。自分よりも3つも下の少年だった。


油断はしていなかった。手加減など、するはずもなかった。自分が負けるなどとは夢にも思わなかった。

だから敗北という初めての感触に拳を握り、打ち震えていた。


(くそ、くそ、くそ!父の前で負けてしまった!私は、こんなやつに、こんな……?)


尻もちをついていた私に手が伸びる。睨みつけようと顔を上げるとそこにあったのは、とても年の近い少年の手とは思えないほど、血まみれになり、豆の潰れた壮絶な手の平。


「っ!」


そして私は気付いてしまった。

彼は、私のようにただ才能に胡坐をかいて強いというわけではないのだと。むしろその逆。私の想像もつかないような、恐ろしい鍛錬と努力によって手にした剣技なのだろうと……。


「……おい大丈夫か?」


心配そうに声を出す少年。その目を見たときに、私は稲妻に撃たれたような錯覚を覚えた。


なんと優しそうな少年なのだろうか。


あんなに奢っていた私に笑顔で心配まで……その上他の子どもとは違い大人のような、利発そうな顔立ちをしている。

そして、はたと思い出す。


父は言っていた。お(スヴィ)に必要なのはともに学び合い、ともに競い合い、そしてともに笑い合える存在だと。

母は言っていた。もしも気になる相手が出来たら、何度でもあ、アタックしろと!!つまり、つまり、彼こそが……


「見つけたぞ、私の……好敵手(ライバル)!!」


「え”!?」


彼こそが、この少年こそが私の好敵手(ライバル)なのだ!

それから、毎日毎日、この少年に、クロウ・クライネルトに会うのが楽しみになっていた。彼の背中を時には追うように、時には彼に追い抜かれぬように剣の腕を磨いた。


そして、いつも顔を合わせればお互いの成長を確かめた合うように剣を交わす。


私はその一時が楽しくて、嬉しくて、苦しくて、切なくて仕方がなかった。





















絶対にパーティを抜けてやる!! ~幼馴染の女勇者パーティから抜けられなくなった件~












「改めて、私はサンザラク聖騎士団・副団長のスヴィエート・ラ・ルミエール。光魔法や剣の腕にはそれなりに自信がある……試しに少しだけ……私の実力をお見せしよう!」


そう言ってスヴィエートは刀身をきらりと光らせると、踏み込み、突然俺に向かって切りかかってきた!!?


「……っば!」


反射的に腰に帯びていた剣を抜いてスヴィの一閃を受け止めると、2合3合と剣を受けるたびに火花が飛び散る……!くそ、また早くなっている!それに、こ、こいつ馬鹿か!?いきなり何を考えてやがる!


キン!上段から振り下ろされた剣を受け止めると鍔迫り合いのような姿勢が続く。


「ククク、剣の腕は衰えてはいないではないか!クロウ・クライネルト!流石は私の見込んだ男だ!」


「い、いきなり切りかかってくるなんていい迷惑だぞ!」


真剣と書いてマジの試合になりかけているのに、光悦とした顔でよだれを垂らしそうなほど弛んだ顔……間違いない、俺は確信した。


こいつも変態だ!

フロレンティーナとは方向の違う変態だ!!


「お前は、どうしてそんなに嬉しそうなんだよ!?」


「!?……まさか」


彼女は驚いた、という表情を浮かべて数歩距離を取ると顔を引き締めて改めて俺たちの方へ向き直った。自分でも気が付いていなかったのか?だとしたら、重症である……。


「こほん、さて、剣術の腕についてはそこのクロウ・クライネルトにも劣ってはいないと思うが?」


「あ、うん!そうだね!流石はスヴィエートさん!よ~し、今日からよろし……むぐ!?」


慌ててアルフィの口を手でふさぎ、スヴィエートに背を向けると数歩離れる。こいつは、なんてことをしようとするんだ。


「んん!んに?んんん?」


「まぁ待て、アルフィ。冷静に考えてみろ。お前はあんないつ寝首を掻かれるかわからんようなやつをパーティに入れるっていうのか?」


「私はそんな卑怯なことはしない。騎士の誇りにかけて!!!」


うわ!この距離で聞こえてるし……。

……っていうか、ついさっきまさに、卑怯な不意打ちを受けたんですが……。


「そもそもスヴィエート、お前は副団長じゃないか。突然聖騎士団を辞めたりしたら団員や団長……お前の親父さんも困るんじゃないか?」


「大丈夫だ。クロウ・クライネルトに付いて行くと言えば父も納得するだろう」


「どうして?」


「決まっている。父は私と貴様が将来め、夫婦めおとになれば良いと考えているからだ」


ぶふぅ!!っと吹き出した。俺だけではなく、後ろにいた二人まで噴き出す音が聞こえてきた。相変わらずだな、あの糸目の腹黒親父さんは……。


「私はお前と一緒になど、その、ちょっぴりしか考えたこともないがな!ちょっぴりだぞ!

……なぁ、こう話をしていては埒があかない。いつものように勝負をして決めるというのはどうだ?

私が勝てば、お前たちは私を連れて行く。私が負ければ、その時はお前たちの旅の荷物持ちをしてやろう」


「なに?よーし、って、それってどっちも俺たちの旅についてくるんじゃないか!?」


「……ふふ、ばれたか」


可愛い。じゃない、騙されないぞ俺は。

お前なんかがパーティに付いてきたら、絶対に面倒くさいことになるじゃないか……お前とその聖騎士団関連で!


スヴィエートは見ての通り、中身は変人だが顔は非常に整っており、程よく肉のついた太ももにアルフィといい勝負ができるパイオツとスタイルも抜群な美人である。当然、男女問わず人気があり親衛隊なんていう組織まで内部で作られている……そう、今、まさに後ろから刺し殺さんとばかりに俺たちを睨んでいる騎士団員の方々もまさにそれなのだろう。殺気だけで殺されそうである。


安心しろ、俺はこいつを絶対に連れていくつもりはない。

どうしたものかと悩んでいると不意に、くいくいっと服の袖を引かれた。

先ほどまで黙っていたフロレンティーナである。


「そろそろ行きましょう。さっきから騎士団の人たちや関所に並んでいる他の人たちの目が痛いわ」


「え?あぁ、そうだな。でも……」


「悪いがこの先に通すわけにはいかない。少なくとも、私が納得するまではな!」


っく、ここでも職権乱用か!!

仕方がない、適当に一騎打ちでも終わらせて……そう思っていたら、数歩前へと金色の髪が揺れる。……ティナ?


「勝負で決着をつけるんでしょう?なら正々堂々……ジャンケンで決着をつけましょう?」


「よし!って、じゃ、ジャンケンだと!?そんな適当な勝負ではダメだ!」


「仕方ないわね、3回勝負にしてあげるわよ」


「何!?3回……?って駄目だ駄目だ!3回でも10回でも同じだ!!」


やれやれ、とばかりに肩をすくめるフロレンティーナ。俺としても、ジャンケンなんかで同行が決まったら非常に困るんだが……。


「仕方がないわね。確かスヴィエートでいいかしら?私はフロレンティーナ・フローレンス・Ⅷ世。私があなたの相手をしてあげるわ」


「なんだと?……ふむ……フローレンスか。聞いたことがある。確か、生活魔法の基礎を築き上げたという大賢者の一人……まさかその?」


「……えぇ、そうよ。私は「その」フローレンス家の8代目。貴方が付いてこようがこまいが、どちらでも良いけれど、通してもらえないというのは困るもの」


そういって、指をはじくとボウっと指先に炎が宿る。


そうとも、フロレンティーナの一族はマジで偉大な一族なのだ!

長旅でも清潔感を保てる洗浄魔法や、部屋のススやほこりを一か所に集められる掃除魔法、夜間でも明るく過ごすことができる照明魔法などなど、こいつの一族は本当に素晴らしい呪文を日夜人々のために開発しているという!フローレンス家、素晴らしい!


……というのが世間一般的に知られるフローレンス一族の評価なのだが。

実のところ、そのような偉大な使命感からこれらの魔法が生み出されたわけではないらしい。


フロレンティーナの話では、なんでもその汚れを洗い出す洗浄魔法はもともと好きな人の「汗」を集めて飲みたいという恐ろしいほど変態的な思考から生まれたオリジナル魔法の副産物で、汗まで消滅してしまう昨今の洗浄魔法は「失敗作」だったらしい。

部屋の「ゴミ」を集める魔法もストーカー気味に惚れた相手の髪の毛や爪といった「宝物」を集める為の魔法で、夜間でも明るく過ごせる魔法は、好意をもった相手を見失わないために尾行するための……と、そう、こいつらの一族は揃いも揃ってド級の変態ぞろいなのである!!!


フロレンティーナは!フロレンティーナはそんな変態ではないと、そう思っていたのだが……この前の宿屋の一件からかなり疑わしくなっている。血は引き継がれていくものなのか……。


「良いだろう。フロレンティーナ・フローレンス・Ⅷ世。相手にとって不足ない」


「えぇ、勝負はどちらかが戦闘不能にするか、降参を口にした時に決する。それで良いわよね?」


「ああ、構わない」


少しずつ関所の列を外れていく二人……お、おいおい本当に二人が戦うのか?

魔術の天才・フロレンティーナと、聖騎士副団長のスヴィエート。この勝負、どっちが勝つのか予想がつかない。お互いに数歩距離をとると。あたりにはシンとした乾いた空気が生まれる。


「それじゃあ……」


「あぁ、いざ尋常に!!」


「ククーハコ・リーリヤム!」


「な!?」


試合が始まったと同時にピカっと、フロレンティーナの杖が光る。せこ!って、これも聞いたことがない呪文だが、い、一体どんな呪文なんだ!?


「んん!?んんんん!?」


光が収まると、スヴィエートはうまく喋れないのか口元を指さして唸っている。相手を喋れなくして呪文を封じるタイプの魔法か!?確かにスヴィエートは光魔法ならいくつか使うが……。


それじゃだめだ。


スヴィエートが霞の構えを取ると地面を蹴って一瞬でフロレンティーナに肉薄する!

あの速さ!ティナでは躱せないぞ!!?


刹那、スヴィエートが口を開く。


「この魔法は!相手の意思とは関係なしに口を開かせる魔法よ」


なに?突然そう言いだしたスヴィエートは、そう喋った「自分自身」に驚き、剣を止める。自分の意志とは関係なしに……まさか、操作系の呪文なのか!?


「フローレンスⅡ世が生み出したオリジナル魔法よ。まぁ、有効時間も短いしかなり危険な呪文なので世間一般には秘匿されているけれどね……さて、あまり長続きするものでもないし終わらせてもらうわね……参った」


「はい、これで私の勝ち」


不思議な感覚だが、今まではずっとスヴィエートがしゃべり続け、次いで、フロレンティーナが言葉を引き継いだ形になる。確かに、相手の口元を操作するだけでも、状況によってはかなり有効に使えそうだが……フローレンスⅡ世は、確か、相手の男に公衆の面前で情熱的なプロポーズをされて結婚した女性だと聞いたことがある。もしかしたら、いや、まさかそういう……

歴史の闇を感じていると、剣を構えたままのスヴィエートがプルプルと手を震わせる。


「ふ、ふざけるな!こんな勝ち方で誰が納得をするというんだ!」


「あら、きちんとお互いが勝利条件に合意したうえで始めた戦いよ。それに、私はフローレンス家の秘術まで用いたの、これは、まさに私にとって「誇りをかけた戦い」だったのだけれど?」


そうフロレンティーナが睨みをきかせると、スヴィエートも思うところがあるのか唇を噛んだ。


「そ、それは……そうか、そうだな。すまなかった……確かにフローレンス殿の言う通りだ。私の負けだ」


そういって悔しそうに頭を垂れるスヴィエート。

ぎゅっと拳を握ると、続いて俺の方をまっすぐに見る。


「負けた私がこのようなお願いをするのはどうかと思うが……しかし、しかし私は、どうしても納得が……。

できれば、決着をつけるならば、この剣で」


チラッと、俺の方を見るスヴィエート。その姿は、なんだか先ほど泣いていた時よりも更に小さく見えて……。はぁ。しょうがない……と思っているとフロレンティーナが前に出ようとする俺を遮る。


「そこまで言うのならアルフィと勝負してみたら?そもそも、私たちのパーティのリーダーは彼女なのだから」


「ん?え?なに?ボク?なんの話?」


さっきまで、暇だったのか近くにいた子供と一緒と地面にしゃがみ込んで絵を描いていたアルフィに視線が集中する。まったく話の流れを理解していないな、こいつ。


「……水の勇者・アルフィ・カーテスよ!お前に決闘を申し込む!!勝負は、相手が降伏を認めるか、剣を手放すまで行うこととしよう!」


「スヴィ、それはお前やめた方が……」


「それでいいだろうか!」


「うん。ボクはそれで良いけど……」


「では、いざ尋常に!」






























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スヴィエート・ラ・ルミエールは微笑んだ。

空を見上げ、手をかざし、かつてないほどの喜びをこの胸で噛み締めていた。

今日だけで2度も負けた。方法はどうあれ、あのクロウ・クライネルト以外の人間に負かされたのだ。こんなことは今までになかった、だが、負ける相手がいるというのは良い、なぜならそれはつまり……


最後の試合。私は剣を構えた彼女(勇者)を前に、勝てない、と一瞬で悟った。悟ってしまった。

それくらい力の差は歴然だった。そこには、いつも彼と相対しているときのような高揚感はなく。ただただ、足を震わせることしかできなかった。


こんな私がパーティに入ってもお荷物か……。ただ……できることなら……彼と一緒……。


あぁ、本当に負けて良かった。泣きそうな気持をぐっと心の奥に押し込んで、次に会う時は必ず勝って見せると、そう決意を新たに立ち上がると関所で待たせている人々のために騎士団の仕事に戻るのであった。


この敗北がきっかけで、後に彼女の運命は大きく変わってしまうことになるのだが、その時の勇者一行は知る由もなかった。

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