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ライバル系女騎士

まるで人形のように可愛らしい娘だ!


両親を訪ねてきた人たちはみんな口を揃えてそういった。


貴族や魔法使いたちがプレゼントにと持ってきたのは綺麗な絹のドレスに可愛らしい色のリボン。抱えきれないほどのぬいぐるみに美しい花束……。大人が持ってくることもあれば、私と同じくらいの年の子供が手渡してくることも多かった。そのほとんどが、純粋なプレゼントではなく大きな「力」を持っている両親との繋がりのためだと何となく、フロレンティーナは幼いながらに感じていた。みんな同じようなプレゼント、同じような言葉、同じような目、同じような……。


フロレンティーナ・フローレンスは退屈だった。




















絶対にパーティを抜けてやる!! ~幼馴染の女勇者パーティから抜けられなくなった件~
















「フレイム!」


ゴォ!とフロレンティーナの使った炎魔法が襲い掛かってきた巨大なカエルの魔物に火を放つ!


「アクア・スラッシュ!」


ザンっと、アルフィがブルーデュランダルから放った水圧でカエルを真っ二つに引き裂く。

二人は息のあったコンビネーションで現れる魔物たちを次々と屠っていく……。そんな中……。


「はぁ」


俺は、ダレていた。








魔法というのは本当に便利だ。

戦闘はフロレンティーナの魔法とアルフィの必殺剣で敵と対峙する前に速攻終了。遠距離技を持っていない俺の出番はほぼなかった。これだけ楽勝だと本当にこの旅についてくる必要があったのか大いに疑問だ。


「あら、おはようクロウ。身体に葉っぱが付いているわよ」


「ん、あぁそうか?どこに……」


「動かないで、じっとして」


野宿から目を覚ますと、フロレンティーナが指先を軽く光らせる。

それだけで、くるくると白い発行体が俺の周りを回転しながら宙に上っていき、消えたかと思えば身体についていた土ぼこりやごみが消えている……。


「はい、オーケーよ」


「ありがとな」


「えぇ」


今フロレンティーナが使ったのは、所謂"生活魔法"というやつだ。

照明を付けたり、モノを浮かせて運んだり、宙を浮いたりと……属性を問わずに皆が使える魔法のことをみんなは生活魔法と呼んでいる。


とにかく便利で、とりあえず魔法を収めるものはこれから勉強すればよいとされるくらいにである。基礎魔術と呼ばれることもあるほどだ。


とはいえ、俺のような治癒系の魔法しか使えないタイプとは相性があまり良くなくて……例えば、先ほどのゴミを取る行為にしても、魔法を使うよりも手で取った方が何千倍も楽である。魔法に慣れ親しんだ魔法使いくらいしか、まぁ使うことはないだろう。


「おはよう、クロウ!今日も一日がんばろう!」


そう言って、アルフィが何かが煮立った鍋の中身をかき混ぜる。

さて、今日行くところと言えば……


















「ほらほら!関所が見えてきたよ!」


アルフィの指差した先に、大きな石の門が見えてきた。

この門をくぐり、更に一際大きな橋を渡れば大都市サンザラク・プラノに行くことができる。あそこは凄い町なんだよなぁ。俺たちの町とは比べものにならないほど発達している。

しかし、関所を超えてしまうとますますパーティを抜けづらくなるぞ……いや、抜けたとしても帰ってくるのが大変なのだ。


「そういえば、アル。お前ちゃんと王様から手形はもらってきたのか?」


「てがた……?」


「え!?まさかアルフィ……?」


「おいおい!それなら町まで戻らないとダメじゃないか!」


手形とは、国をでて行っても良いという証明書みたいなものだ。これがないと、途中で聖騎士団の連中に止められて文字通り門前払いだ。


「……やけに嬉しそうね」


そりゃ!おまえ!そのまま帰ってしまえばこっちの……!


「あはは、なーんちゃって!冗談冗談。ほら、これ」


スルスルと、おっきなおっぱいの隙間から汗でくしゃくしゃになった一枚のスクロールを取り出す。っち、持ってやがったか。っていうかそれ、ちゃんと通れるのか?


関所に出来ている行列の後ろに俺たちも並び始める。馬車に乗った行商人やら、羊を連れた羊飼いだの今日も実に賑わっている。並んでいる人を相手に串焼きや飲み物を売りだす人までいるくらいだ。この中に紛れてふらっといなくなれば意外と……そう考えていると、不意に何かが鼻腔をくすぐり、フワっと花のような良い匂いが……。


「ふぅ……」


「……おい、ティナ」


前に居たフロレンティーナが俺に向かって体重をかけてきたようだった。ひょいと飛びのけば、そのまま倒れていきそうなくらい無防備にだ。


「ちょっと、歩き疲れたの……もたれるくらい……ダメ?」


「……まぁ良いけど」


「フフ、ありがと」


そういってやると、嬉しそうに目を細めてそのまま魔導書を読み始めるティナ。もともと外にあまり出ないティナは俺やアルフィのペースに合わせて歩くだけでもかなり体力を消耗しているだろう、だったらこれくらいとも思うが……この調子じゃこっそり抜け出すのは難しいだろうなぁ。やはり、強制イベント的な何かに期待するしかないのだろうか……?


「ねぇねぇ、大都市についたらまず何する!?」


「何って、まずは情報収集だろ?」


魔王のアジトだとか、必要な武器の場所とか、仲間になってくれそうなやつを探すとか……。

アルフィはやれやれと手を上げて首を振った。


「クロウってやっぱり真面目だねぇ……ティーナはどう?」


「……そうね……新しい本が欲しいわね。いい魔導書が手に入るかも……」


「本か~!良いね!ボクは新しい防具が欲しいんだ!剣だけが一流でもしょうがないよ」


そういって、まだ見ぬ大都市へ思いを馳せるアルフィとフロレンティーナ。

そういえばこいつら、オートリーナより向こう側の世界に行ったことがないんだったか。

俺は親父に連れられて結構色々な都市に行ったことがある。帝国とか皇国とか……目的は騎士団めぐりとか、極秘の任務だとか、身体の治療だとか、お偉方への挨拶だとか……面白くもなんともないものだったが。まぁ姫とか鍛冶師とかその辺とコネができたのは素直に有り難い。


そして、これから向かう大都市とは女王が納める清貧な国の中心で、聖騎士団と言う、光魔法と剣と盾を中心に戦う騎士団がある。

隣国の騎士団同士、定期的に試合をして交流を深めているのだが向こうの騎士団の連中はプライドが高くて苦手なんだよなぁ。中でも俺がよく対戦していた「あいつ」は色々と最悪だったな。


「よし、次!」


ぱっと、顔を上げる。

銀色の髪をポニーテールにして、騎士鎧から溢れそうな大きな胸、半分前髪で隠れたキツそうな蒼い瞳……凛としていかにも女騎士の典型って感じのこの雰囲気。そうそう「あいつ」もちょうどこんな感じの……


「……げ!?」


「き、貴様はクロウ・クライネルト!!?」


「いいえ、人違いです。私の名前はトピーです」


「……この私が貴様を見間違えるはずがないだろう!」


くそ、流石に誤魔化すのは無理か。バッチリ顔をみられていたことが悔やまれる。それにしても、まさかこいつが当番の日だったとは……。


「元気そうだな……スヴィエート」


「フ、毎日3食食べているからな!」


いや、意味が分からん。っと!?いきなり抜刀をしたスヴィエートが俺に向かって白銀の剣を突き付ける!


「さぁ、抜け!クロウ・クライネルト!今日こそ決着をつけてやる!騎士としての誇りをかけて……この私と勝負しろ!」


そう高らかに宣言する。しかし……


「スヴィ、それは無理だ」


「なぜだ!?臆病風に吹かれたか!」


「だって、俺もう騎士じゃないし」


そういって職業カードを取り出すと、スヴィは首を傾げた後にひょこっと顔をのぞかせる。カードを読んでいって、職業欄を見たときにくわっと目を見開いた!


「ば、ばばばば、馬鹿な!遊び人だと!?無職になったのか!?」


「その通り。俺はこいつら二人によって騎士団を首にされてしまったのだ」


「ちょ!人聞きが悪いこと言わないでよ!」


「その、ごめんなさいね?」


「あ、あぁぁ……なんてことだ、クロウ・クライネルト。今の貴様は騎士では……ない?では、私の好敵手ライバルでは……ない?」


「まぁ、そういうことだな。俺はお前とはもう「二度と」騎士としての「誇りをかけた戦い」とやらは出来ないわけだ。いやぁ、残念だなぁ」


「ならば、ならば……」


俯いたまま、わなわなと体を震わせていたスヴィが顔を上げる。



「これから、私は!誰をライバルにすれば良いのだ!!!」



そして剣を落としてわーんと泣きはじめた。号泣だった。綺麗な顔をぐしゃぐしゃにして鼻水まで垂らしているマジ泣きだった。アルフィが困ったようにおろおろとし始める、フロレンティーナは額を抑えてヤレヤレとため息をつく。



こいつの名前はスヴィエート・なんたらかんたら。俺の、自称・永遠の好敵手ライバルだ。



初めて会ったのは親父に連れられて、聖騎士団を訪れた時だった。


聖騎士団長の娘として、紹介されたこいつはその時すでに聖騎士団の中で負けなしの天才少女であった。大人に混じって試合をし、自らの父以外には圧勝できてしまうほどの卓越した強さ。しかも、それを当然のものと享受していて、試合が終わった後もずっと冷めた目で相手を見る……その目がなんか気に食わなかったので……。



めちゃくちゃにボコった。あれは流石にやりすぎだと思うくらいに圧勝してやったね。



お得意の素早い攻撃を全て防ぎ、剣を巻き上げて、相手が地に伏すようにたたきつけてやったのだ。


だが、あの時の、地面からこちらを見上げるこいつの目を今でもよ~く覚えている。俺はてっきり悔しくて涙を流すだろうと思っていたのだが、意外にも、そう、意外にもこいつはその蒼色の目をキラキラと輝かせて……


「見つけたぞ……私の好敵手ライバル!!」


っと、笑っていたのだ。


そこからが俺の地獄の始まりである。


俺が聖騎士団に来るたびにスヴィエートは俺に突っかかってきて勝負を挑んでくるようになった。剣の試合はもちろん、やれ、私の方が1つ多くパンを食べた!だの、やれ、私の方が一秒はやく訓練場についた!だのと、小さなことでもすーぐに張り合ってくる。


無視して流せばよかったのだがあの時は俺も幼かったため、イラっときて張り合ってしまったのだ。俺の方がパンの大きさが大きかったとか、先に木剣を持った方が勝ちだったとか、そんなくだらないことで限界まで訓練を行い、限界まで一緒に風呂に浸かり、限界まで夜遅くまで起きていた。


そんなことを聖騎士団を訪れた際にはず~っと続けていたのだから、今のあいつが号泣するのもなんとなくわからんでもない。


「まぁ、これからは無理に競わなくていいんだぞ。良かったじゃないか」


「ぐぅ……やぁ……ぐす」


ぽんぽんと子供をあやすように頭をなでてやると、うぅグスっと涙で濡れた目でこちらを睨みつける。まぁ、この腐れ縁ともおさらばというやつなのだ。最後くらい笑顔で別れてやろう。


「じゃあな、スヴィ。俺たちは行くから。関所の手続きをしてくれ」


「……ぐす、やらぁ……勝負するのぉ……」


「やらぁ、じゃないだろ。お前も騎士として誇りを持っているなら、きちんと業務はこなさないと」


「……ぐす、騎士としての……ほこり?」


「そう、誇りだ」


「……そう……だな、ん。すまない。取り乱した」


ごしごしと俺がハンカチを渡してやると、それで目元を拭って壊れそうな笑みを浮かべる。


……なんて顔してるんだよ。

………………。


「……それで、貴様たちはこの先に何しにいくつもりなんだ?」


……はっとした。やばいと思った。だがアルフィのピンク色の唇は俺が止めるより早く言葉を発していた。


「スヴィエートさん!ボク達ね、魔王を倒しに行くんだよ!」


「……なに?魔王!?」


見る見るうちにスヴィの顔に生気が宿っていく!

あぁ、やばい、やばい、やめてくれ!!!



「よし!なら、私も連れて行ってくれ!!!」


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