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帰郷

この世界の船旅は当初俺が思っていたよりもずっと快適である。


船は、どんな小さな船にも魔物に襲われないように魔よけのコーティングが施されている。

もしこれをしていないと、海中に潜む魔物たちに襲われ、たちまち船底には穴があき海の藻屑になってしまうだろう。この前戦った怪物クラーケンのような例外は居るだろうが、大抵の魔物は無視して漁や航海を続けることが出来る。


そして、このダールベルク家の船ともなると、普通の船とは違って推進力に風と水の魔石を使った高価な船舶用エンジンもどきまで搭載されている。

風がなくても一定の速度を保つことが出来る上に、いざとなれば魔物を水流で押し戻すこともできる。船の造りこそ古いものの、現代日本の船にも負けず劣らない安定性がある。


アルフィとコンの釣りに付き合ったり、ソフィアのストレス発散と称した試合に付き合ってやったり、フロレンティーナにパンツを盗まれたり、おっさんに貞操を狙われたりしながら、幾日の航海を経て、俺達は!ついに!クァーキサ王国のある『ベレン大陸』へと戻ってきた!



















「クロウ!港が見えてきたよ!」


「おー。そうか!」


見えてきたのはタテスカの港だ。

特産品は硬い魚の干物と海の魔物の皮で作った盾。カーサの港と葉比べ物にならないほど地味な港だが、ここから道なりに進めばすぐにでも俺たちの王国までたどり着くことが出来る。


「……」


ん?

風に吹かれていると、さっきまで隣で騒いでいたアルフィのテンションが急に下がった。

頬に手なんて当てて、いっちょ前に憂鬱そうな顔をしている。


「どした?」


「う、ううん。別に」


慌てて作り笑いを浮かべるアルフィ。

……こいつは昔からわかりやすいやつだな。察するに……


「魔王に負けたのにのこのこと帰ってきて良いのかな~とか、そんなくだらないこと考えてるのか?」


「えぇッ!?ど、どうしてわかったの!?」


「顔にかいてあるんだよ。敵戦力の報告をするのだって大事な仕事なんだぞ。アル」


「……」


ブロンシュだって言っていたが、そもそも魔王に挑む戦力と状況じゃなかった。少なくとも、俺はもう少しましな武具を手に入れなければ勝てる気が微塵もしなかったな。


それに、ここに帰ってきたのは邪な気持ちだけではない、ソフィアのことを含めて、この王国にも異変があるかどうか確かめる必要があると思ったのだ。


思い出すのはあの魔王の意味深な態度、各地での魔王やその部下の不穏な動き……。


ムギュー!!


うお!?

不意に隣に居たアルフィが俺に向かって飛びついてきた。柔らかい弾力が、胸板のあたりを押し返してくる!


「お、おい、どうしたんだよ急に」


「えへへ、いつもありがと!クロウ!」


「ん?……ああ」


なんでお礼を言われたかわからなかったが、ポンポンと頭でも適当に撫でておき、言葉の意味を理解したころにはアルフィはすっかり元気を取り戻していて、俺から離れるとボクも船を止めるお手伝いしてくる!と駆けだしていった。


























港に着くと出迎えがあった。


そこには、二つに分けた前髪に腰まで伸びた長髪を持つ背の高い美人、ノエル・フォン・カレンベルクと、子供のころからちっとも伸びていない身長と無邪気な笑顔が特徴的なリリー・フォン・カロリング……ソフィアの取り巻きA・Bであると同時に、俺の友達でもある。


「おかえりなさいソフィ!」


「おかえりーソフィ!……早かったね?」


「……余計なことを言うのはこの口かしら!?」


「いふぁふぁ!いふぁいよー!フォフィー!」


ソフィアがぐにぐにとリリーのふくふくの頬っぺたを引っ張るがリリーもそこまで本気で嫌がってはいない。どうやら俺たちが帰ってきたのはとっくに知れていたらしい。


「く、クロウくんも、お、おかえりなさい……」


「ただいまノエル」


もじもじと恥ずかしそうに出迎えてくれるノエル。ノエルを見ているとなんだか普通の女の子って感じがして安心する。俺の周りに居る女連中はどうにも『あく』が強くてなぁ。


「アルフィとフロレンティーナもおかえりなさいね」


「うん!ただいま!」


「わたしたちはついで、ね」


「そ、そんなこと……」


「見てみてノエル!可愛い狐が居るよ!」


「うぅ、ヘンなトコ、サワラナイデ…」


「喋ったああああ!!!??」


久しぶりのいつもの面々に、なんだかこっちに戻ってきたという実感がわいてくる。

後は、『あいつら』だが……途轍もなく不安だ。一体俺が居ない間、騎士団がどうなっているのか……。












船長たちに別れを告げて、貴族御用達の豪華な馬車に乗りこむとカッポカッポと街道を進む。


どうせなら港にも挨拶したいやつがいたのだが、王様の報告を先にした方が良いということで後にすることにした。まぁ、俺には既に転移石なる素敵アイテムがあるし、その気になればいつでも戻れるしな。落ち着いたら、一度ブロンシュ達のところにも戻らないと……って。


「……ソフィー。なんでわざわざ二人で馬車に?」


そう、馬車は2台来ていたのに、わざわざ、ソフィアは俺と二人きりになるように馬車に乗り込み、後ろからついてきている向こうの馬車には4人と一匹と不自然極まりない采配だった。

ソフィアはもったいぶるようにタイツを履いた長い脚を組みなおすと、ふぅと息をついて唇を湿らせる。


「これからについて話すためよ」


「……これから?」


「知っているでしょう。あたし、婚約破棄の件でとても家には戻りづらいの」


「まぁ、それはそうだろうな」


「だから、しばらくアナタの家に置いてもらうわ。良いわよね?」


「一泊銅貨50枚ね。夜まで休むなら30枚」


キッと恐ろしい目でこちらを睨みつけてくるソフィア。

……ほんの宿屋ジョークだろ。


「まぁ冗談はともかく。家に来ること自体は別に問題ないぞ。ただ……そろそろ勿体ぶってないで『あの女』ってのが誰か教えてくれよ」


「そうね……クロウには教えておこうかしら」


足を組み替えるとソフィアは立ち上がって俺の隣へと腰かけた。

顔ちか!と思っていると、向こうも俺の反応を見て意識してしまったのか少し頬を染めた。だが、咳ばらいをすると、そのまま耳元に紅を塗ったその艶っぽい口を近づけ……。



「あの女っていうのはね、お父様が不倫して作った庶民の娘よ」



…………へ?

いやいや、ちょっと待て、脳の処理が追い付かない。

あのクソまじめな宰相が!?本当だとしたら大スキャンダルである!


「今までは、下町で父の不倫相手の母親と二人慎ましく暮らしていたようだけれど、最近になってその母親が亡くなったらしいの。行き場のないあの娘を父は不憫に思って、城の宮仕えになれるように手を回した」


「……」


「そうしたら、その娘はマナーもまるでなっていないのにどういうわけか殿下に気に入られて、あれよあれよという間に二人は急接近、そして殿下のお気に入りとなったあの娘はあろうことか、あたくしの前で殿下とダンスまで……」


それは……辛かったな。

まさか愛する殿下を目の前で見せつけられるようにして取られたんじゃ……。


「だから、あたくしはここぞとばかりに殿下に婚約破棄を叩きつけてやったの♪」


……ん?


「うふふ、スカッとしたわ。殿下も焦っていたけれど、向こうが先に始めたことですもの。周りもみんなあたしに同情してくれていたし、父も殿下の相手が自分の不倫相手の娘となれば考えるところがあるだろうし……」


……んん?


「待て待てソフィー、お前から殿下との婚約破棄を?」


「えぇ、そうよ。もともとお互いそんなに好きでもない仲ですもの、相手に非を与えて婚約破棄まで成立させる……これ以上ない理由でしょう?ねぇ?」


片目を大きく開いて笑うソフィアは女の子がしていい顔じゃなかった!

本当に悪人面が似合うな。


「ってことは、あの女ってのはソフィ―、お前の腹違いの妹だか姉になるってことか?」


「ま……そう言えなくもないかしら?向こうもあたしをこれっぽっちも姉妹だとは思っていないけれど」


「そうだったのか……それでも……ちと勿体なくはないか?殿下と結婚ともなれば、未来の王妃さまだったのに」


「良いのよ。あたし、地位なんかよりも大事なことを知っているし」


そういって俺のことを流し見ると、なぜか満足気に笑うソフィア。


「……なんか似合わないなそのセリフ」


うっ!鳩尾に良いジャブを貰ってしまった。

しかし、例え宰相のコネがあったからと言って、あの殿下の心を射止められるとも思えない。

きっとどこかで惹かれる何かがあったに違いないだろうが、一体どこに……?


「うふふ。面白いのはここからよ」


「ん?」


「王国騎士団のゼノのことはもちろん知っているわよね?」


「当たり前だろ」


ゼノと言えば腹黒そうな眼鏡にワカメみたいな癖毛、声が石田彰みたいな感じの、あ、こいつ裏切るなってオーラを纏った俺と同じ部隊長の一人である。冷静に戦局を見極めるタイプで頭がいいからか嫌味も多いが、なんだかんだ付き合いの良い奴で俺は嫌いじゃない。


「その娘に告白したらしいわ」


「なんだって!?」


あの太陽光と水と本だけで生きていそうなあの男が告白を!?

っていうか、そもそもあいつ、女になんて興味があったのか!?


「それだけじゃないわ。辺境伯の息子・アードルフ」


「まさか」


「そのまさかよ、コクったらしいわ!!」


キャー!と女らしい声を出すと、バシッと俺の背中を叩くソフィア!痛い!


アードルフと言えば鶏肉も骨ごとくってそうと有名な王国随一のワイルド系イケメンの代表格!

何度か演習で会ったことがあるが、ぶっきらぼうな態度とは別に、実は知的な魔法使い隊隊長というギャップに数多の娘たちがノックアウトされたという……。


アードルフまでがその娘の虜になったと……?


「さらに……」


「ま、まだいるのか!?」


「執事のフォルカに、殿下の従弟のクヌート……彼らも全員その娘に好意を寄せているとのうわさよ!」


フォルカ・髭の生えた殿下のお付きの昼行燈系の執事おっさんに年下系弟キャラのクヌート……。

そこに、爽やか系王子様の殿下と……完璧な布陣だ!それだけのメンツを相手取るなんて……


「なんていうか、スゴイなその子……」


「そうね、まさに魔性の女よ。とはいえ……」


「ん?」


「何でもないわ。そろそろ町が見えてきたわよ」


ソフィアが窓から外を眺めようとしたので、慌てて肩を掴んでこちらを向かせる。熱い吐息がぶつかり合うくらいに距離が近い。


「く、クロウ!?」


「いや、待て、そういう意味深なのは後々に響く。今教えてくれ」


ぎゅと胸のあたりを握ると、はぁと大きくため息をついてから俺の方に向き直る。


「……いいえ、大丈夫よ。別に、あたしの思い過ごしかもしれないし」


「……俺は、ソフィーの思ったことをそのまま知りたいんだよ」


念を込めてソフィアの目を覗き込んでいると、向こうは困ったように目をウルウルとさせキュッと口元を結ってから観念したようにため息をついて。


「……あの。殿下たちと居てもあまり楽しそうじゃなかったのよ」


そう言ってソフィアは俺をぐいっと押し返すと、そっぽを向いたまましばらくつま先でコツコツと俺の靴を軽く蹴ってきた。
























遂に俺は戻ってきた!!


見慣れた街並み、見慣れた道行く人、見慣れた王城!


どこもかしこも新鮮味の欠ける良い街だ。

馬車から降りると大きく伸びをして深呼吸をする。心なしか空気も美味い。


「ねぇ?城まではまだ道のりがあるわよ?」


「ん、先行っててくれ。なんか久しぶりだから歩いていきたくってさ」


そういうと、ソフィアは黙って馬車から降りて、御者に合図を送ると先に帰らせていた。

別に、付き合わなくてもいいのに。


「そう、それじゃあ最近出来た武器屋にでも連れて行ってあげようかしら?」


「え?なんだ、そんな店出来たのか?」


「えぇ、なんなら好きなの一つ買ってあげても良くってよ?」


まじか!!今日一テンション上がってきたぞ!

いや、でも待てよ、こいつに貸しを作るのは……うーん。


「ん?お前クロウじゃないか!?」


「ん?…………おー!久しぶりだなトピー」


門番として立っていたのは何の偶然か、父親が商人の元いじめっ子、トピーだ。

どういうわけか、俺にライバル意識を燃やして後追いで騎士団に入団してきたのだが、所属も何もかも違うし結局ほとんど会うことはなかった。この前軽く飯を食った時には親父の訓練が厳しいと延々と愚痴を聞かせられたっけか。ちっちゃなころは色々と因縁もあったが……今はすっかり丸くなった。いや


「お前痩せたなぁ?」


ちょっと前までブクブクに太っていたのに、親父に絞られたのもあって随分痩せたようだった。丸顔は変わらないが。


「まぁな……色々あって……あ、アルフィも一緒に居るのか?」


「いや?別の馬車だけど」


すると、露骨に肩を落として落ち込むトピー。


「そ、そうか……ところで……お前も大変だな」


「ん。まぁな、騎士団をクビになって魔王退治の旅なんて俺も嫌で……」


「いや、そっちじゃなくて」


「?」


「お前の部隊、解散したんだろ?せっかくいいチームだったのになぁ……」


そう鼻を触りながら話すトピーの言葉が脳の中を反芻する。


……まさかとは思って居た。

もともと個性のぶつかり合ったチームだった。



でも………………俺の居た騎士隊が……解散だと!!?



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