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悪友

思い出すのは幼少期の記憶だ。


ソフィアは頭がよく、数々の才能に恵まれた少女であった。

武芸に魔法、勉学に音楽……容姿にも恵まれて教養も高く、家柄までもが最高レベルと……他の令嬢たちはそんな彼女を見て思わずため息を漏らし、貴族の男たちは様々な思惑からこぞって彼女に求婚を持ちかける


しかし、こいつはそんな素晴らしいお嬢様などではない!


ある日、こいつは突然俺の家にやってくるようになった。

初めこそ、いや、結構初めから図々しい奴だったが、来る回数が増えるごとにその厚顔無恥にも拍車がかかり、人の家に来て腹が減ったと飯を作らせるのは当たり前、冒険に行きたいと渋る俺やアルフィを無理やり洞窟まで連れ出したり、しまいには、人の部屋に勝手に入り込んでベッドを占領したりしていた。


そこには社交界で見せていたような気品のある優雅な姿はどこにもない。


ベッドでくつろぐソフィアは脱ぎかけの二―ソックスに、はだけて肩が見えているドレス、足をブラブラしたまま勝手に人の娯楽本を読んでいて……だらけきっている!


「おい!?ソフィア……!?」


「あら、遅かったわね」


「遅かったわね、じゃないだろ!お前、いつの間に……!?」


身体を起こすと、ベッドに腰かけたまま、腕と足を組んで足で俺のことを指す。


「うふふ、いつからだと思う?」


「知るか!?不法侵入だぞ!」


大体、お嬢様のくせに行儀が悪すぎだ!!

そう叫ぶ俺を見て、ニヤリと口の端を釣り上げてお得意の悪役令嬢の微笑みを浮かべると……


「別に良いじゃない。だって、あたしたちは友達なんでしょ?」




ちょっと恥ずかし気にそう言うのだ。















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--------------

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「と言うわけで、俺は騎士団を辞めさせられなし崩し的に冒険の旅へと……」


「ふ~ん」


「ふ、ふ~んって……」


冒険者ギルドの丸テーブル。

俺達は飲み物を注文すると、一度落ち着いて話をすることにしたのだが……ソフィアは俺の話を聞き流したまま、お狐状態のコンの肉球を揉みもみして笑顔を見せている。


コンは未だに俺を殴ったソフィアに対して警戒心を持っているのもあり、迷惑そうな顔をしている。それを見て、ソフィアの口の端が更に吊り上がっていくのだからこいつのサディスティックな性癖は天性のものというか、治ることはないのだろうなと改めて実感する。


「ソフィア……お前、知ってただろ?」


「当たり前でしょう?ダールベルク家の諜報部隊を甘く見ないことね」


ソフィアの父は宰相だ。

何度か直接会ったことがあるがストイックかつ厳格な人物で、その仕事ぶりは荒を探す下克上狙いの貴族たちも思わず舌を巻くほど……。


ただ、自分にも他人にも厳しい人だからか城内や騎士団での評判はあまり良くない。敵も多いが、それでも彼が今の地位を確固たるものにしているのは、どんな反乱や不正の芽をも事前に察知し摘み取ることのできる件の諜報部隊の存在が大きいだろう。


そいつらを通してソフィア自身も俺たちの所在などの情報を入手していたわけだ。


「で……そのダールベルク家のご令嬢がわざわざこんなところまで来て、どんな用事なんだ?」


「別に大したことじゃないわ」


こいつの用事だというのだから、なんだかすごく嫌な予感がするが……










「あたし、殿下に婚約を破棄されたのよ」








「そうか、婚約を…………って、はぁ!?」


待て、こいつ今なんて……!?

コンの下あごを摩りながら大したことなさげに話すソフィアだが、これは大問題だ!!

ソフィアは殿下……つまりは俺たちの王国の王子と婚約している。それは親が決めた結婚ではあるものの、家柄はもちろんのこと、イケメンの王子と目つきは悪いが美人のソフィア、結婚は他の誰の目から見てもお似合いで、確定事項だった。


だからこそ、こいつが将来女王になった暁にはコネで特別手当の制度の一つでも作って貰おうとしてたのに!


没落どころか、破滅フラグがビンビンに突き立っている!!


「まさか、親父さんと喧嘩でもしたのか!?」


「まさか、父はいつも通りよ」


「じゃあ、なんでまた……!?」


「……まぁ、良いじゃないの。それよりも……」


ソフィアが俺の方を向くと、お得意の悪人面でニヤリと笑う。



「今日からあたしもアナタたちのパーティに入ってあげるわ。光栄に思いなさいな」



…………はぁああああああ!!??

















「どうしてこの女がここに居るのよ……」


「あなたのその顔を見られただけで来た甲斐があったわ、フローラ」


外に出ていたアルフィ達と冒険者ギルドで合流すると、ソフィアの姿を見たアルフィとフロレンティーナが目を丸くしていた。フロレンティーナに至っては苦虫を嚙み潰したような顔をする。


「ソフィア!久しぶり!」


「えぇ、アルフィ。ごきげんよう……!」「うわあ!?」


挨拶をすると同時にアルフィに向かって持っていた槍を振り下ろすソフィア!?

慌てて躱すアルフィ。


「ちょ、な、何するのさ!?」


「それはこっちの台詞よ!?どうしてあたしを誘わなかったのよ!」


「そ、それは、だってソフィアは……」


「お嬢様だから?そんなことどうだっていいわ……って、あなた、また大きくなった?」


「え?身長伸びたかな!?」


「……宝の持ち腐れだわ」


「宝の……?食料は腐る前にお料理してるよ!」


腰に手を当てて胸を張ると大きく揺れるアルフィの大きくなったもの。いつも一緒に居ると気が付かないが、やっぱり成長しているのか。アレ……。

フロレンティーナが俺の方に冷たい目で説明を求めていたので、んんと、咳ばらいをして場を仕切る。


「その、なんだ、ソフィアはどうやら家出してきたらしくってな」


「え!?」「……また?」


「あぁ、だから「だから、あなたたちと一緒に魔王退治の旅に同行するわ」」


「えぇッ!?そ、ソフィアが!?」


「何よ、アルフィ。嫌なの?」


「い、嫌じゃないけど……地べたで寝たりするんだよ!?」


「魔物とも戦うし、命の危険だってあるわ」


しかしアルフィやフロレンティーナの心配をソフィアは鼻で笑うと


「それが何なの?自分の身くらい自分で守るわよ。あたしはソフィア・フォン・ダールベルクなのよ?」


そうソフィアが胸に手を当てて二人に向き直ると二人は困惑してはいるものの納得せざるを得ない空気に持っていかれている。こいつ、変なところでカリスマ性を発揮する。


ソフィアは婚約破棄の件をアルフィ達には黙っているようにと言ってきた。

アルフィたちにそんな失態を見せたくないのか、或いは何か別の思惑があるのか……。


「とにかく、アナタたちが嫌と言ってもついていくから。よろしく♪」


バサッと扇子を広げて口元を覆うソフィア……。

女勇者に変態魔法使いに男の娘狐に悪役令嬢……なんだかどんどんパーティが色物ぞろいになっていくんだが……。













「それで、あたしたちの次の目的地はどこなの?」


「目的地か……」


俺達の最終目的は魔王を倒すことだ。そして、今のままではそれが難しい。

アルフィもそれは感じ取っていることだろう。


だとすれば、俺達に出来ることは一つしかない。


魔王なんか放っておいて、静かに平穏暮らすこと……!


「そのことなのだけれど、一度私たちの家に戻りましょう?」


「え?」「お!!」「へ!?」


そう提案をしたのは意外にもフロレンティーナだった。


「クロウの手に入れた転移石に場所を記憶させておけば、何かあった時にいつでも戻れて便利でしょう?それに、私も少し家に用事があるの」


「それは良いな!」「いいえ反対よ!」


賛成する俺と、反対の声を上げるソフィア。


「せっかくなら、この帝国領のダンジョンに潜るのはどう?この先のカイサの街を拠点にダンジョンに通えば、腕を上げられて、宝箱からアイテムや装備も手に入るし一石二鳥じゃなぁい?」


「いや、ここは一度王国に行くべきだ。それにカイサの街ならもう転移石に登録してあるからいつでも行けるしな」


「……っというより、さっきから"転移石"ってなによ!?」


どうやら、ソフィアの知っている情報は俺が帝国領に居る!とかその程度のものだったらしい。カイサの街でブロンシュ達と出会ったこと、まして俺が転移石をもらったことなどは知らないのだろう。


「こういう時は、リーダーのアルフィが進路を決めるべきよ」


「え?ボク?」


「そうだな。アル。お前が決めろ」


「コン、クロウにツイテク!」


「アルフィ、アナタわかっているでしょうね…!」


……いかにアルフィと言えど、ここまで話を誘導すれば決断は一つだろう。


「えっと、じゃあボクは……!」
























今、俺はとても穏やかな気分になっていた。



ミャウミャウと、猫のように鳴くカモメたちと並走しながらガレオン船が大海原を突き進む。


この海の先には懐かしの王国領、そして見慣れた騎士団の連中もいるのだろう。

聞こえるのは涼しい風音に心地の良い波の音、男たちが歩く甲板の音に、そして……


「オロロロ!」


「ティーナ!?」


「うふふ、だらしないわね。フロ……オロロロッ!」


「そ、ソフィアーッ!?」


響き渡る、仲間たちの阿鼻叫喚の声……。

無理やり心を保たないと壊れてしまいそうだった。






……なんで、あの流れで"海の怪物退治"なんてことにッ!!?


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