ツンデレの策
「ぐす、ぐす、ぐすん」
部屋のクローゼットにはいると、服を山のように被って隠れるようにしてうずくまる。
また今日もダメだった。
遊ぼって、ただそう一言言えればそれでいいだけの話なのに、変なプライドが邪魔して、口から出るのはお願いするなら遊んであげても良い、なんてそんな傲慢なセリフ。
いつもそうだった。アタシの言葉はチクチクしたトゲのように、みんなを傷つけている。
それ以上に、アタシは怖かった。
そのトゲを外した時に、逆に相手に傷つけられることが……、優しい言葉を口にしたときに、バカにされて笑われたりすることが。
だから、いつも言葉で突き放してしまう。
「なぁ、こんなところで何一人で泣いているんだ?」
「え?だ、誰!」
そんな時だった、アイツに出会ったのは。
いつものようにクローゼットで泣いていると、そうアタシに声を掛けて、ゆっくりとクローゼットの中に光が差し込んできた。服を払いのけて、私の手を取るとゆっくり外へと導いてこういった……
「君がベルカ?俺はクロウ。なぁ、缶蹴りのやる人数が足りないんだ。一緒に遊びに行かない?」
アタシは、すごく、すっごく嬉しかった。
久しぶりに誰かに遊びに誘われて。だから、だからつい、こう言ってしまう。
「べ、別に、あんたなんかと遊びたくないんだから!!!」
しまった、と思ったが、もう遅かった。いつものように口から飛び出す素直ではない言葉。
けれど、目の前の少年は驚いたように目を丸くした後、優しい笑顔で私の手を引く。
「ちょ、何するのよ!」
「え?だってそれって遊びたい、ってことだろ?」
「ふぇ!?」
ど、どうして!?
そう思うアタシを尻目に外へと連れ出すと、そこに居たのは別のアホ毛の少年とその後ろに隠れるようにして立つ金髪の少女。
それが、その鈍感な少年との初めての出会いだった。
絶対にパーティを抜けてやる!! ~幼馴染の女勇者パーティから抜けられなくなった件~
「さぁ、オートリーナ名物カボチャのスープよ。せいぜい豚のように卑しく食らいなさい!」
どんと無造作に置かれるオレンジ色のスープ。
普通の人が見たら怒りだしそうな塩対応ではあるが、これがこの店の平常運転。この対応を受けたいがために遠方からわざわざ来てくれるマニアックなお客さんもいるとかいないとか……。
「ちょっと!ボク達これでもお客さんだよ!」
「は、あんたたちみたいな貧弱パーティにはこれくらいがちょうど良いのよ。あんたたちが魔王何て倒せるわけないじゃないの」
「絶対倒すもん!……もぐもぐ、美味しい!!」
「本当、美味しいわね。前に食べた時よりももっと美味しくなっているわ」
「そ、そう?お、おかわりもあるんだからね!」
まぁ、対応はともかくもぐもぐ、確かに味は最高だよなぁ。ズズッ。
カボチャのどっしりとした旨味と、それでいて口当たりまろやかなこのバランス。何回食べても美味い。体の芯まで暖まる優しい味なんだよこれが……。と料理に舌鼓を打っていたら、扉の近くでベルカのやつがおいでおいでをしていたので仕方がなく席を立つ。
「ね、ねぇ、クロウ。それでどうだったの?」
「あぁ、カボチャのスープは相変わらず絶品だったよ。あれは、ベルカが作ったんだろう?腕を上げたな」
「え、えへ。そうなのよ。アタシ、あんたたちのために、って、そうじゃないわよ!!」
「悪い悪い。まぁ、聞いての通り、魔王を倒しに行ったほかの勇者がやられたらしくって、アルフィの奴ますますやる気になっちまって……」
「えぇ!?そんな……そんな強い人たちがやられたなんてますます危ないじゃない!?」
おろおろと困惑しだすベルカ。そのままのセリフをあいつにぶつけてやってくれ。きっと、あいつらの前では、そ~んな強い冒険者が負けちゃうんだから、あんたたちみたいな雑魚パーティじゃ絶対に無理だわ!!なんてこと言い出すに違いないのだろうが。
「考え直しましょう?ね?ね?」
何度も首を傾げて可愛らしくそういうベルカ。
「う~ん、俺はともかくあいつらが納得するかどうか……」
「……そう、そうよね。ナラアレシカ……」
「え?なんか言ったか?」
「いいえ!ごめんなさい食事の途中に。それじゃあ、テーブルに戻ってちょうだい」
「おう?」
なんだ?まぁいいや。スープも美味いけど、パリッとしたソーセージがまた絶品なんだよなぁ。へへへ。
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---二人部屋
「ん~、美味しかったね~!カボチャのスープ」
「そうね。あの接客態度さえなければいい宿なのよね、ここ」
「うん……そうだね」
ボスンと装備をはずしてベッドに横たわると、アルフィ・カーテスは宙に浮かべた自身の右手を眺め、口元を緩める。
今日は最高の一日だったなぁ。
待ちに待った水の試練に合格して……勇者と認められたあとでそのまま旅の準備にクロウの説得……あっという間で夢みたいで、疲れを感じる暇もなかった。
ずっと夢見てた……こうして広い世界に冒険に出ること。友達と……ティーナとクロウと一緒に!
落ち着いてベッドで横になったからか、少しずつ抗いがたい眠気が襲ってくる……。
あ、そうだ……。
「……ありがとね、ティーナ」
「?どうしたのよ、急に」
ゴロンと寝返りを打つと、薄明りで本を読んでいたティーナのことをじっと見つめる。長くてきれいなブロンドの髪も、僕とは違って本当に女の子って感じで可愛いなぁ……。
「ううん、魔王を倒す旅なんて本当に危険なのについてきてくれて……。きっと、ボクだけじゃとても旅に出ようなんて思わなかったよ……」
「馬鹿ね。友達として当り前でしょう」
「うぅ、ティーナは本当に良妻弁当だね」
「それを言うなら良妻賢母でしょ……まぁ、あなたやクロウに振り回されるのはもう慣れちゃったわ」
「そう、だね……えへへ、これからも、よろしくね……」
重い瞼を閉じると、だんだんと意識が遠のいていく。明日も、きっと……
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すぅすぅと静かに寝息を立て始めるアルフィを見て、フロレンティーナは読んでいた本を閉じると、魔法で灯りを消して、そっと布団をかけ直す。
「私は良妻賢母だなんていうような、そんなにいい女じゃないのよ。本当はね……」
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はぁ。今日は最悪な一日だった!!!
俺は倒れるようにベッドで横になると大きなため息をついて天井を眺めた。
騎士団はクビにされ、おまけに恐ろしく強いらしい魔王退治の旅に同伴させられるなんて……!!
もはや罰ゲームか何かに近い。
これからどうやってパーティを抜けよう……。次の街辺りで重い呪いにでもかかったふりを?
いや、フロレンティーナに見破られそうだな……アルフィに勘違いされて苦い薬草を食わされても困る。もっと楽な方法が良いが…………と、部屋で思考に耽っていると、コンコンと控えめなノックが聞こえてきた。
はて、二人のどちらかか?これからの進路についてはとりあえず、情報を集めに大都市にいくということで食事中に話し合ったはずたけど……。
「どうぞ」
「し、しししし、失礼します」
きぃと部屋が開いたと思えば、そこに居たのはピンク色の女の子らしいパジャマ姿をした宿屋のツンデレ娘・ベルカだった。
いつものツインテールはまっすぐに下ろしていて、枕を抱いたままゆっくりと部屋に入ってくると、振り返って戸を閉める。なぜ、枕を?それになんだか雰囲気が違うような……。
彼女はそのまま、ロボットのようにぎこちない歩き方をして俺の隣に腰かけると、先ほどまでの強気な態度はどこへやらモジモジと恥ずかしそうに話し始める。
「あのね、その……あんたたちって、多分アタシが止めても明日には旅立っちゃうんでしょう?」
「……まぁ、おそらくな」
「そう……そうよね。魔王だものね……噂では、その爪は大地をも引き裂き、操る炎は触れる前に魂ごと灰になるという。泣く赤ん坊ですら殺す、一切無慈悲・冷酷無残・極悪非道……そんな、そんな恐ろしい相手なのに……うぅ…」
そう言って目に涙を浮かべるベルカ……。
……てかまじ?魔王自体もそんなに強いの?
いや正直、昔から一緒にレベルを上げていたアルフィと魔法の天才フロレンティーナだ。
門番にはともかく、本体は弱いパターンでワンチャン勝てるんじゃないか?って思ってたのに……内容を聞く限りかなりヤバそうだ。
「魔王に会うまでに待ち構えているのは、未だに髪の一本すら通していないと呼ばれる門番に、空を飛び回るドラゴンの群れ、死んだ魔物が生き返ったと言われる恐ろしいアンデッドの軍団……それでも……それでもあなたは向かっていくのね!?」
「いや、俺だって出来れば行きたくないけど」
「え!?……本当?」
「……まぁ正直な。相手が悪すぎるし……」
「クロウ……自分は怖いのに、それでも挑むというの?この世界のすべての人々のために?」
「え?」
「そう、そうよね。あんたってそういう奴だもん」
潤みを帯びた目でこちらを見上げるベルカ。いや、どういう奴だよ……。
そんなこと一言も言ってないのだが、なんか勝手に良いように解釈された気が……。
って!ベルカの顔もほんのり赤く上気していて、ちらりと見えているパジャマの隙間から薄いピンク色のちっぱいがみえ……みえ……!
(……でも、アタシも。何とかしてあなたを引き留めたいの。こんな不器用な私に、ずっと友達でいてくれたあなたを……)
「ベルカ?」
「ご」
「ご?」
「わああああ、ごめんなさい!!」
「っがッ!!!?」
ガン!と思いっきり花瓶で頭を殴られた!!?
チカっと瞼の裏が真っ白になったかと思えば、俺の意識はそこで途絶えてしまっていた……。
「ん……?」
チュンチュンと鳴く小鳥の声で目を覚ます。
なんだか、暖かくていい匂いがするぞ……。それに柔らかい何かが……。
「ん!く、くすぐったいわよぉ……!」
……ッ!!?
ばっと布団から飛び起きると、そこにはパジャマを乱しておへそが見えているベルカの姿が!?
ん、と目を覚ますと、そのまま顔を真っ赤にし、手を口元に当てて……。
「お、おはよぅ……あなた」
そうつぶやいたのだった……。
ま、まままま、待て慌てるな。これは何かの間違いだ。
あの後、すぐに宿の準備があると言って赤い顔をしたまま出て行ったベルカ。暫く放心した後、顔を洗ってそのまま賑やかな食堂でアルフィ達と合流する。既に朝食を取り始めているようだ……。
「あ、おはようクロウ!よく眠れた?」
「お、オハヨウゴザイマス。アルフィさん、フロレンティーナさん……」
「?どうかしたのよ、敬語なんて使って……」
椅子を引いて腰かけると、昨日の夜のことを思い出そうと試みる。
俺は確か夜……ベルカと話してて、それで……くそ、頭が真っ白になって、何も思い出せない。
けれどベルカのあの姿からして、俺はまさか……?
顎を引いて自分の股間を凝視すると、心の声で息子に問いかけてみる。
お前、まさかもう俺の知っている息子じゃ……ないのか……!?
「何おちんちん見て難しい顔してるのクロウ」
「っぷ!い、いや、なんでも」
そこへ、トテトテと、メイドっぽい白と黒の従業員服を着た……ベルカの奴がやってきた。
いつも見慣れていたはずなのに、今朝のこともあって思わずごくりと喉が鳴る。
「おはようベルカ!このカボチャの煮物美味しいね!」
「え、本当?あ、ありが……じゃないわよ!馬鹿!そんなのは豚の餌と一緒よ!」
「え~」「それより!」
「わ、私、実はあなたたちに言わなければいけないことがあるの!」
「朝からうるさいわね……」
「なになに?何の話?」
ゴロゴロと力強いカボチャの煮物を食べていたアルフィが手を休めてベルカの話を聞く姿勢を取る。
ベルカは、無い胸元を押さえて2,3度深い呼吸を繰り返し……
「わ、私のお腹の中には、こいつとの子供がいるのよーー!!」
びっしぃ!!と俺を指さして叫んだ!
なるほど、俺との子供が……
ってはぁあああああああ!???
「ちょ、ちょっと、まて、どういうことだよベルカ!?」
キッと、ファイヤーのように、こちらをにらみつけるベルカ。
「き、昨日やったこと忘れたのクロウ!?」
「き、キノウ!?やった!!!??」
「そう。あ、あんたと私はこ、子供を作ったのよ!?」
なんだとおおおお!!???何やってんだ昨日の俺っ!!??
「う、嘘ぉ!く、クロウとベルカが?嘘だよね?クロウ!?」
「嘘じゃないわよ、本当よ!ふ、二人で抱き合って熱い夜を過ごしたんだから!」
本当なのか!?それとも嘘!?
俺は意識がない間にそんな……うぅぅわからん!!
そこでハッとする……でもこの状況は……チャンス。じゃないか?
嘘か本当かはともかく、恋仲の女を残して旅に出るなんて古めかしいことをさせるやつはこのパーティにはいないだろう。ベルカは、なんだかんだ言ってしっかり者だし、胸は小さいけど慎ましく生きていくにはちょうどい……ぶ!
突然、ベルカから裏拳が飛んできた……。
「何か失礼なこと思ったでしょ」
普通に心を読むな!しかし、そうか、ならあえて
「……その、昨日のことはあまり覚えてないんだが、そうだとしたら、俺は責任を取らないと……」
「え!いいの!?」
「えぇ!な、何いってんのさクロウも!!?」
「……」
全く身に覚えはないが。どうやら俺は、昨日寝ている間に初めてを終えてベルカと恋仲になった。そういうことだろう。ベルカは手を合わせて明るい顔を浮かべ、アルフィの顔は絶望に染まっていく。
「そんなぁ……ボク……ボクだって……」
「ほ、ほれみなさい!だから、近々アタシはこいつと結婚するんだから!それで、それでね、宿屋を大きくして、それでそのあとも子供を産んで、3人くらい産んで、やきうチーム作ってペットには犬を飼って、それからそれから」
あの、ベルカさん。なんだか、話がおかしな方向に進んでいる気が……。
「テードウ!!」
「うわ!なにすんのよ!!」
ピカっと、先端の光った杖をベルカに振りかざしたフロレンティーナ。その光が移るようにしてキラキラしたオーラに包まれ、光るベルカ。い、一体何を……。
「もう一つ、テードウ!!」
「うお!!?な、なにしてっ!?」
今度は俺に向けて撃ってきやがった!
思わず身構えたが、特に痛みがあるというわけではない。なんだこの魔法。聞いたことがないけれど……。
「……あれ、何ともないわね」
「いいえ、もう終わったの。今のは相手が性交渉をしたことがあるかどうかを確認することができるオリジナル魔法よ」
「なんですって!?」
なんだって!?なんだ、その変態的且つ限定的な魔法は!?大体そんな魔法いつ作ったんだ!?
「クロウ、あなたはいつも通り童貞だったわ」
「ど、どどどど、童貞ちゃうわ」
「ベルカ、あなたも処女だったわ」
「ふぇ!!?しょ?」
顔をトマトよりも真っ赤に染めていくベルカ。
ベルカ、処女なのかそうか……それに、息子が卒業をしていなくて安心したような、残念なような……。
「よって、二人の間に子をなすことはあり得ない。目的はわからないけれど、これでもまだそんな嘘をつきとおすの?ベルカ」
「……うぅ」
びしっと、ベルカを指さすと、ベルカは握り拳を作って顔を真っ赤にしながら目に涙を浮かべて叫ぶ。
「そ、そんなことないわよ!お、おんなじベッドで寝たもん!あかちゃん、できちゃったんだもん!」
……え?
「同じベッドで寝たら、赤ちゃんが?」
「そ、そうよ。ママが言ってたもの」
……どうやらベルカは盛大に勘違いをしているらしい。
ため息をついたフロレンティーナがベルカの耳元で何かを話し始めると。もともと真っ赤だった顔色が髪の毛以上に真っ赤に染まり、やがて鼻血を吹いてその場に倒れた。
「ばかー!あんたたちは……いつでも帰ってきて良いんだからねー!!」
「またねー!ベルカ―!」
ぶんぶんと色々な意味で涙目になっているベルカを後にし、俺たちは次の街へと向けて歩き出した。
「……しかし、あの魔法どこで使うために覚えたんだ?」
「馬鹿ね、あんな魔法あるわけないでしょ。あれはただの光る呪文でカマかけたのよ。それよりも相手がベルカとはいえ、眠らされるなんて少し隙を見せ過ぎよ?気をつけなさいよ」
「あ、あぁ。すまん」
なんだ、そうだったのか。
ウェーブのかかった金髪をファサっと靡かせるとすまし顔で答えるティナ。まぁ、そうじゃないかとは思ったよ。だってそんな変な魔法使えたとしても誰が得を……ん?
「いや、待てよ?お前俺にあの呪文使った時。確か「いつも通り」って言ってたよな?まさか、その呪文はやっぱり本物で、いつも俺の貞操の確認をしてたりする……?」
「……」
「二人とも!見てみて!風車があるよ!」
「まぁ、本当ね!!行きましょうアルフィ!」
「え?あ、どうしたの?ティーナ!?いたたた、痛いって!」
……真面目な奴が一番むっつりとは言うけれど、もしかして、フロレンティーナって結構危ない魔法使いなんじゃ……。
「勇者と風車って似てるね!なんか」
「そうね、うふふふ」
!?俺を流し見てその赤い眼を細めたフロレンティーナ。その目は今まで見たことのないような…
ゾクリと息子が縮んだ気がした!
やっぱり、こんな変態がいるパーティはすぐにでも抜け出してやる!