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幕間 ブロンシュ・バルベル 後

「サンダー・スラッシュ!」


覚えたての技やった。

バリバリッと、黒い雷撃を纏わせてアイウルフを切り裂くと、すぐに周りの状況を確認する。すると、既に4体ものアイウルフを倒した人影が……。


「兄ちゃん!」


「おう、かっこ良かったぞ」


「にへ~!」


手を挙げてこちらに近づいてくると、ぽんと頭に手を乗せて優しく髪を撫でてくれるクロウ兄ちゃん。あれから暫く経ったけれど、ウチは自分でも驚くほどに成長していた。あんなに恐ろしかったアイウルフだって、一人で倒せるようになったのだ。


「兄ちゃん、今日の依頼はこれで終わり?」


「あぁ。ギルドに帰るぞ」


「うん!」


歩き出した兄ちゃんの隣にぴったりとくっつくと、お腹空いたなー、なんていつものセリフを呟いてみる。兄ちゃんはそうだなー。といつも通りのセリフで返してくれる。

外はまだ寒かったけれど、近くにいると心が温かかった。
















「出てけッ!二度とこの辺うろつくんじゃねーぞッ!」


報告を終えて懐も暖まったころ。パン屋から一人の子供が店主に蹴りだされるのを見かけた。地面に横たわったその身体は真新しい痣が出来ていて、纏っている衣服は汚く薄茶色に濁っていた。

周りの通行人はその子供を一瞥すると、何事もなかったかのように歩き始める……。厄介ごとには首を突っ込まない、この街はそういう街なのだ。


「に、兄ちゃん」


「はぁ、わかってるよ。お……」「触るなッ!!」


バシッと兄ちゃんの手が払いのけられると同時に、フーッと息を荒げて興奮したまま睨みつけてくる男の子。オレンジ色の髪はボサボサに伸びていて、その鋭い紫色の目は誰も信じていないと言わんばかりで……まるで少し前のウチみたいやった。


「ん?あ、お前!?」


「ッ……!」


兄ちゃんが何か言いかけると、弾けるように駆けだして人の群れを縫って走る男の子。そのスピードたるや、きっと外の魔物よりもずっと早い!


「兄ちゃんの知り合い?」


「知り合いも何も、あいつ、俺から財布を盗んだ奴だ!」


「え?」


「追いかけるぞ!」


「あ、待って兄ちゃん!!」


兄ちゃんも駆けだしていた。その足はさっきの男の子と同じくらい早くて置いてかれそうになったけれど、目を凝らして足を動かして必死にその背中を追いかけた






「はぁ、はぁ、兄ちゃん。どうしたん?」


「どうやらここに入ったらしい」


そこにあったのは廃屋となった教会であった。

兄ちゃんがガタの来ている扉を開けると、中は瓦礫だらけで、埃っぽくて、不衛生なかび臭い匂いがした。その奥から、ウアッ!と苦痛に悶えるような声が聞こえてくる。


奥へと踏み込むと、いくらか綺麗な個室が見えてきて、中には女の子が二人……。一人は裸になって痣を抑えて苦しんでいるさっきの長髪の子で、もう一人は心配そうにそれを見守っているリボンをつけたおかっぱの少女。どうやら、さっきウチが男の子だと思ってた子は女の子だったらしい。


「誰だッ!」


ウチらが入ってきたことに気が付くと、枕元に置いてあった錆びた短剣を持って歯をむき出しにする……。


「俺の財布を返してもらおうか」


「……」


チラッと短剣を持った少女がリボンの女の子をみた。その目も、ウチは昔見たことがある……それはウチが昔屋敷に居たころに最後に見た……。逃げろ。という目やった。そして、死んでも大切な人を逃がすと、覚悟を決めた目。


「ハッ、そんなもん全部使っちまった!」


「そうか……ヒール!!」


「うわ!!……?」


兄ちゃんが手をかざすと、咄嗟に目を瞑った少女の身体が緑色の光に包まれていく……。

光が収まると、少女の身体から真新しい痣が消えた。少女はナイフを持ったまま、何が起こったのかわからずに犬歯を出してぽかんと口を開けている。


「行くぞ、ブロンシュ」


「え?う、うん。でも兄ちゃん……」


チラッと、後ろを振り向くと、未だに短剣を手放さない少女とリボンの子……。


教会はもう見えないくらい離れたのに、しばらくその二人の姿が目に焼き付いて離れなかった。













目まぐるしく日々は過ぎていった。


兄ちゃんからは様々なことを教わった。

剣の握り方から始まって、魔法の知識に、お金の計算の方法、時には生活の知恵みたいなことまで教えてもらった。


手は剣の豆だらけになって、お金の計算は頭が痛くなりっぱなしで、魔法はどれも上手くいかんくて、自分には才能がないと思った。

屋敷に居たころならどれも途中で投げ出していたかもしれんけど……今は、兄ちゃんに見捨てられたくない一心でウチは一生懸命頑張った。


頑張ると兄ちゃんは必ずウチのことを褒めてくれた。そのウチより大きな手で、ポンポンって撫でてくれたり、甘いお菓子を買ってくれたり、ギルドの昇級試験の時には無理言ってほっぺたにちゅッてしてもらったこともある!どれもこれも、ウチにとってはたまらないご褒美だった。


でも調子に乗ったりすると、兄ちゃんはウチのことを強く叱った。ウチが魔法を使いすぎて倒れたときなんかは、じっとウチを見て、なんで俺が怒ってるのかわかるよな?という圧力をかけてくるのだ。


その時の兄ちゃんは怖かったけれど、ちゃんと反省して謝れば、そのあとちゃんといつも通りの笑顔で、甘えさせてくれて、怒ってるのもウチのためだってわかってて、なんだかそれがくすぐったくて、「家族」みたいで嬉しかった。


そして、F級の冒険者やったウチは、メキメキと力をつけて気付けばE級、ついにはD級まで昇格していた。



















「あら、これは『黒雷』のお嬢ちゃん。今日はどんなご用件?」


「こんにちはお姉さん!あんな、今日はどんな依頼があるかな~おもて!」


「そうね~。最近は魔物の活動も活性化していて依頼ならたくさんあるけれど……真新しい依頼は特にないわね」


「う~ん、どーする兄ちゃん?」


「今日は休みでもいいんじゃないか?」


「やね!ありがとう、お姉さん」


「ええ、またいらっしゃい」


そういってギルドの扉を開けて外へと出ると、兄ちゃんはニヤニヤと口の端を釣り上げてウチのことを眺めていた。


「ど、どうしたん兄ちゃん」


「いや。ブロンシュも随分逞しくなったと思ってさ」


「ウチが?」


「あぁ、ついこの間まで、俺の服の裾を握ってこーんなに小っちゃくなってたのに、今じゃ一人で大手を振って歩いてるしな」


「そんな小っちゃくなってないし!」


でも、そうかもしれない。

ウチは兄ちゃんと出会ってから、怖いものなしなのだ。だって、兄ちゃんは……!?

何かが迫ってくる!すっと剣の柄に手を掛けたが、お兄ちゃんが手でそれを制してくる。


「うおっと!!」


ドシンと兄ちゃんに向かって何かがぶつかった!

慌てて兄ちゃんはそれを支えていたけれど、それは、よく見たらいつの日か見たリボンの女の子で、兄ちゃんにしがみついた顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。


「おね、おねえぢゃ……えぐ!」


「どうした……お前の姉ちゃんに何かあったのか?」


兄ちゃんがそう聞くと、少女がコクコクと何度も頷いた。なんでもじます。なんでもじます。とそう繰り返して兄ちゃんの服を破けそうなほど強く握る。

兄ちゃんは一度だけウチのことを見ると、前と同じように教会へと駆けだした。












「ウアアアアア!!あがあああ!!ヒイイイイ!!」


教会の外まで聞こえている少女の声を聞いて、ウチらは一層足を速める。

部屋の途中まで赤い跡がぽたりぽたりと続いていて、部屋の中には……



血だらけで床に転げまわる少女の姿があった。


「ッ!?」


「しっかりしろ!……ッ!?ブロンシュはそこで妹を」「う、うん!」


兄ちゃんの顔が曇ったかと思えば、一瞬で険しい顔つきになる。

少女の怪我をはっきりとは見えなかったけれど、きっと酷いものだったのだろう。ウチらに傷を見せないように隠すと、すぐに顔まで手を伸ばして治癒の呪文を唱え始める。


「うあ、うあ……うぅ……ああぁ!!」


「こら、あが!!暴れるな。くそ、この怪我なんだ?全然治らないぞ……まさか、呪いか?掻きむしったせいか皮膚がめくれ上がって……!」


「お、おべえぢゃん、わ、わだし、たんじょびだから、ぐす、まっでろって、で、でも……」


「……どんなヤバい相手に手出したんだ!」


「ひひ、ひいいい、ぎゃあああああっっつ!!」


一層暴れだして、皮膚を掻きむしろうとする少女を兄ちゃんが馬乗りになって抑え込む。身体を揺さぶって少女は暴れながら鳴き声にも似た叫び声をあげる。


「いいいいい、いだいいいい、いだいいいい!!」


その声を聴いて、既に真っ赤だった少女は更に泣きじゃくる。顔は、赤を通り越して青紫色になり始めていた。


「……お姉ぢゃ!!おねえぢゃんし、死んじゃやらああああッ!プレゼント、なんて、いら、いらにあいのに!うぅぅ!」


「……だ、大丈夫や!兄ちゃんがすぐに治してくれるから。な」


泣き出す妹ちゃんの手をぎゅっと握って……まるで自分にそう言い聞かせるかのように言う。

……兄ちゃんは、お姉ちゃんを抑え込みながらヒールを唱え続けている。

いつもなら、パッと治るくらいすごい兄ちゃんの治癒なのに。今回は……


「はぁ!はぁうう……」「よし……ふッ……大丈夫だ、落ち着け……楽にしてろ……!」


はぁはぁと、暴れる獣のようだった彼女の瞳に少しずつ理性の色が宿り始める。

兄ちゃんは落ち着かせるために励ましの言葉を掛けながら、ヒールに注ぎ込む魔力の量を増やしていく……!その額には、玉のような汗が浮かんでいて……。


「に、兄ちゃん……大丈夫……やんな」


辛そうな兄ちゃんを見て、ウチは、仮にこれで兄ちゃんが倒れたりしたら、ウチはと、不安な気持ちでいっぱいだった。


「わからん。けど、やれるだけやってみる」


血色も悪くなり、魔力不足からか頭を抑えている兄ちゃんを見て、ウチもだんだんと心配になってくる。こんな辛そうな兄ちゃん初めて見た。再び呪いが進行したのか、鳴き声のようなうめき声をあげ始める彼女に兄ちゃんは治癒魔法ヒールを維持したまま、何度かカバンから不味い魔力の回復薬を飲むと、治療を延々と続ける……。


「ブロンシュ、俺の財布からお金持って魔力の回復薬買ってきてくれ。いくら高くても良い、ありったけだ」














丸半日が経った頃。

突然、緑色の光が収まると、兄ちゃんは立ち上がってフラフラとまるで倒れるかのようにして近くにあった椅子に倒れ込んだ。


「兄ちゃん!?」「お兄ちゃん!」


「だ、大丈夫だ。はぁ…………こっちが死ぬかと思った……ふぅ」


そう言って、兄ちゃんが指を指した先には。


「……ッ!!!」


すぅすぅと、規則正しい呼吸で眠る「お姉ちゃん」。

色々な感情があふれ出したのか、うううううッ!!と少女の小さな背中が震えていた。


ウチが背中をさすると、こちらに飛び込んできて、さっきあれだけ泣いていたのにまだ涙を流す。けれど、その涙はさっきまでとは違って、良い涙だと思った。

いつの間にか薄暗がりになっていた部屋の中に、女の子の泣き声はいつまでも響いていた。



















「お、目が覚めたか」


「…………オレ……生きてる……?」


ぼんやりとした意識の中、兄ちゃんたちの声だけが聞こえていた。

隣には、すぅすぅと呼吸をする妹ちゃんの寝息と温かい体温。意識を手放すと、すぐに夢の中へと戻ってしまいそうで、そんな曖昧な微睡の中だった。


「…………なんで助けた?」


「お前の妹が助けてくれって俺たちに泣きついてきたからな。おかげでこっちはとっておきの魔法薬まで何本も使う羽目になっちまった」


「……」


「身体はどうだ?」


「……まだ、ヒリヒリする。けど……あの地獄みたいな痛みは……消えた」


「ん、そうか…………後、お前、"目は見えてる"か?」


え?と思ったけど、暫くの沈黙の後


「…………片方なら、ぼんやり」


「左目に、やべー呪いを埋め込まれちまってたみたいだな。身体を壊死させるウィルスみたいなもんで、それが倍々に体中に広がってたからその前にこっちがヒールで細胞を活性化させて塗りつぶすみたいに……ってまぁ片方見えてるのが奇跡みたいなもんってことだ。暫く治療を続ければ、はっきり見えるようになるかもな」


「…………オレ……グス、妹の為だと思って、良い服着てる奴の財布を盗もうとして、そしたら、そいつ、人間じゃ、なくて……」


「人間じゃない?」


「そ、そして、捕まって、気が付いたら、目や体が、焼ける様に痛くて……」


「……」


「……ぐす、ひっく」


「痛かったよな?不安だったよな?……よく頑張ったな」


そんな兄ちゃんの優しい声が聞こえたかと思えば、しばらくして、少女は小さな泣き声を上げていたようやけど、ウチには聞こえへんくらい小さくて、静かで、押し殺すような泣き声やった。まるで、自分は泣いてはいかんのやと言い聞かせるかのような……


「…………何、すればいい?」


「ん?」


「何をすれば、お前に恩を返せる?」


「恩?」


「オレは借りっぱなしは嫌いなんだ!だから……」


「財布は返さないのにか?」


「ッ!?」


「はは、すまん。意地悪だった。そんな困った顔をするなって……そうだな、じゃあ……一つ、お願いを聞いてくれるか?」


「……」


そこから、兄ちゃんの声が小さくなったからか聞こえなくなって、そのまま意識が遠くなって、やがて兄ちゃんたちの声は完全に聞こえなくなった。





























すぅ、はぁ!と妹ちゃんこと、マリー・マルールちゃんと外に出て大きく深呼吸をした!

外はうっすら霞がかっていたけれど、昨日のこともあってかすごく空気が美味しく感じた。上り始めている朝日が、どこまでも気持ちいい。


「よし、買い物行こか、マリーちゃん」


「お買い物?」


「そうそう、快気祝いってやつや」


「お祝い?お姉ちゃんの!?」


「そや。兄ちゃんも頑張ったし、美味しいもん食べてもらわなな」


「うん!」


「後、マリーちゃんの誕生日のお祝いもな」


「え?……いいの?」


「もちろんや」


「やったー!」


そう言って手を繋いで街を歩いて、既に開いているパン屋さんとお肉屋さんに行って、一番いいやつ……は、ちょっと厳しかったから、5番目くらいに良いものを買ってきた。

単にサービスでもらったタレをかけて焼いた焼き肉やったけれど、マリーちゃんも、お姉ちゃんのジルヴィも美味しい!美味い!と喜んで食べてくれた。兄ちゃんもお腹が減っていたのかガツガツ食べていて、二人とお肉の取り合いになっていたけれど、なんだか昔の食卓を思い出してウチは嬉しかった。





















「えー、というわけで、お願い兄ちゃん!二人にも先生してあげてほしい……!」


「お願いします!」「……します」


「いや、何がというわけなんだよ……」


ご飯を食べ終わって、落ち着いてからそういうと、兄ちゃんはすっごく嫌そうな顔をした。

ガシガシと頭を掻いた後に、ちょっと座った眼をすると


「ブロンシュや、兄ちゃんはお前ひとりでも結構手一杯なんだが……」


「に、兄ちゃんに色々と教えてもらったら、二人もきっともうこんなことせずに済むはずやから!やから……」


「俺はボランティアで先生をやってるわけじゃないんだが……」


チラリと、ジルヴィとマリーを見る兄ちゃん。二人は不安そうに事の成り行きを見守っていたけれど、兄ちゃんと目が合うとマリーはお願いします!と真剣に頭を下げて、ジルヴィの方は、不安げに兄ちゃんの目をじっと見ていた。


それを見た兄ちゃんは思った通り、う~とか腕を組んだまま声を出し、やがて、はぁ~と盛大なため息をついた。

そして次には、わかったよ、表情を緩めて了承してくれた!ウチらは目を見合わせて喜びを共有する!


「その代わり、ちゃんと俺の言うことは…「やった~!ほらな~、言うたやろ!兄ちゃんは優しいから絶対引き受けてくれるって!」おい聞けって」


「言っとくけど、教えるのは精々読み書きや、冒険者としての生き方くらいなもんだ。それから先は……」


「ありがとうございます!クロウお兄ちゃん!」


「お、オレはお前のこと、あ、アニキだなんて、認めないぞ!」


「お兄ちゃんに……アニキ!?二人とも何言って」


「駄目……ですか?」「……」


「……う……」


じっと、兄ちゃんを見つめる二人の目線に、兄ちゃんはうぅ、もう好きにしろよと、うなだれた。

兄ちゃんって、本当頼られたりするのに弱い!ウチは嬉しなって飛びついて頬擦りした。


「お、おい。ブロンシュ」


「にへへ!わーい!家族が増えるよ兄ちゃん!」


そのままパチパチと拍手をすると、兄ちゃんもジルヴィも微妙そうな顔をしていたけれど、マリーちゃんだけは一緒に拍手をしてくれた!ええ子や……。


「二人とも、もう安心や!兄ちゃんは何でもできるからいっぱい頼ってええんよ!!」


「本当ですか!?」


「お前なぁ……俺の事一体何だと……」


「え?兄ちゃんは、兄ちゃんやろ?」


「……」


「あ!でもうち、兄ちゃんって、おとぎ話の"勇者"みたいやと思う!」


兄ちゃんがずっこけたのを見て、ウチは声を出して笑った。

でも兄ちゃんもウチらと同い年くらいやし、ウチも本当はダメもとでのお願いやった。

頼り切ったりしたらいかんのもわかってた。

けれど、けれど、やっぱり


兄ちゃんは凄かった!


兄ちゃんは二人の面倒もきっちり見て、ジルヴィの怪我が完全に治るころにはウチと同じように戦い方と勉強を教えてくれるようになった。


ジルヴィはもともと筋が良かったらしくてすぐにE級の冒険者まで上がった。それに、マリーちゃんは兄ちゃんと同じように珍しい回復魔法が使えるらしくて、簡単な擦り傷なら治せるようになった。……兄ちゃんと同じ系統でちょっとだけ、羨ましかった。


4人で一緒の家に住むようになって、おんなじ器のごはんを食べて、一緒に兄ちゃんをからかったりしながら笑って、たまにお風呂も一緒に入って兄ちゃんを困らせて……。


寝る前にウチがねだると兄ちゃんはおとぎ話をしてくれた。

桃太郎にシンデレラ、一寸法師に人魚姫……どれも聞いたことのない話ばかりやったけれど、ウチは兄ちゃんが話してくれるその話が、優しい声が大好きやった。ジルヴィは興味なさげな振りしてしっかり聞き耳を立てていて、マリーもウチと一緒になって途中で話を予測したりしながら笑って一緒に兄ちゃんの話を聞いてから眠った。



そんな日が、いつまでも、いつまでも。

ず~~っと続くと思っていた……

























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「ん……」


「やっと起きたか。仕事が山積みなんだぞ、ブロンシュ『団長』」


「"兄ちゃん"は……?」


「…………まだ寝ぼけてんのか」


左目に黒い眼帯を付けた、金色の長髪をもった艶のある褐色の女性……いや、先ほどよりも、成長した姿のジルヴィ・マルールの姿が目に映る。書類の山に、インクの臭い、そして、そこには夢で見た兄ちゃんの姿は……


「あぁ…………ごめんごめん。ちょっと、昔の夢見とった」


「昔のって……………まぁ良い」


あきれたようなジルヴィの声で、完全に目を覚ます。

そう、昔の話や兄ちゃんが居たんは……今はウチが……。


「そういえば、ギルドから手紙が来てたぞ」


「ん?なんや、また無茶な依頼ちゃうよなぁ。もう砂漠の横断はコリゴリやで……」


ピリリっと手紙の封を切ると中身に目を通していく。

それは、色々とお世話になったあの元受付のお姉さんからで…………ッ!!!?


眼を見開く身体が勝手に震えだす。それを見ていたジルヴィは不安そうにこちらを見る。


「……おい、大丈夫か」


「ジルヴィ!!?」


「ん?」


「出かけるで!!」


「出かけるって、おいッ!?」


嘘や嘘や嘘や!!?そんなはずない!そんなはず……!!

バクバクと心臓が爆発しそう。

滑るように階段を降りると、扉を開けて外へと駆けだす。

だって、だって、だって!!?




「"クロウ兄ちゃん"が、"生きてた"なんて!!?」




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