ダブル婚約ですか?
開いて頂きありがとうございました。
辺りが暗くなりはじめた頃、イースラーはやつれた顔をして戻ってきた。
「おかえり、どうなった?」
王子の婚約者にされてしまったと虚ろな目で言う可愛いイースラー。
「男だって言わないから」
「言ったよ、男なんだろうって聞かれて、そうだって答えたら何故かますます喜んで」
なるほど、王子は男色だったのか。
中々婚約者が決まらない、と言っていたのはこのせいだとすれば納得だ。
何となく納得したものの、私の名前を使って婚約されたのは頂けない。
この国は聖教国。聖教の教義で、同性愛は厳しい処罰を受ける事になっている。
それは王族でも変わりは無い。
なるほど、貰い手が現れないであろう私を隠れ蓑として目を付けたのは策士というしかない。
自分で言ってて悲しくなってきたわ。
『人違いだし、すぐに帰ってくるだろう』
そう楽観的に考えていた家族に不安が生まれる。
ビュリ家の方針は、王子に協力するか協力しないか。
王子の意向に従い、イースラーを令嬢セシリアとして嫁がせる。
その際、私は次男イースラーとして一生家の中から出られない生活になる。
まあ貰い手がなさそうだし私はいいんだけど、ビュリ家は王子に協力して
聖教教義を違反に荷担する事になる。
メリットで言えば、ビュリ家は王族と関係を持てる事になる。
イースラーは王子の寵愛を受け、ビュリ家は王家との強い繋がりを得る。
デメリットは王子がイースラーに飽きた場合だ。
結婚まで手を出さない、というしきたりもイースラーは男だから関係ない。
王子は証拠が残らないイースラーを好き放題に弄ぶだろう。
飽きたら結婚後に王子は騙されたと主張する。
イースラーを男だと告発してしまえばイースラーは教義違反で処刑され、
心に傷を負ったと言えば王子は苦手な女性との婚約話も無くなり、男を囲って好き放題に生きられるだろう。
私が王子で女嫌いなら間違いなくそうする。
王家と繋がりを持ちたくて、容姿が優れているイースラーを女装させて王子にあてがい、王家を騙し聖教の教義に違反。
そういう事になればビュリ家は一族全て処刑されてもおかしくない。
処刑されない方がおかしい。
どう考えても王子の思惑に乗るデメリットが大きすぎる。
とれる方法は一つだけ。
「王城へ行き、イースラーが弟だと説明しよう」
そしてやってきました、王城。
豪奢なお部屋で待機している私、イースラー、お父様。
「謁見を願い出るから、セシリアとイースラーはここで待ってなさい」
そう言ってお父様は私とイースラーを置いて、ドアから出ていく。
不安そうに震えるイースラー。
男の婚約者になり、死刑されるかもしれない不安を抱える涙目で震えるショタ、イースラー。
「イースラー、大丈夫だから」
「でも、これで誤解が解けても次は姉様が婚約者でしょう?姉様が取られるのも嫌だよ」
それは無い。
私がイースラーにそっくりな美少女令嬢だったら人違いで通じるかもしれないけど、
イースラーの容姿に釣られて婚約者になった後で私が現れたら詐欺だと訴えられるよ。
婚約破棄が妥当だと思う。
そんな事を考えていると、ドアの外から騒がしい声が聞こえてきた。
『メルヴィナ様、ここは使用中です』
『うるさいわね、どきなさい』
ドアが開けられ、そこに居たのは同じくらいの年齢の女の子だった。
「お兄様と婚約した方であってるかしら?」
イースラーの前で睨み付けるメルヴィナと呼ばれる少女。
「あのお兄様が婚約したって言うからどんなのかと思ったけど、普通でがっかりね。
私はメルヴィナ、リスカお兄様の異母妹よ」
そういってメルヴィナはイースラーに見下したような態度をとる。
メルヴィナは整った顔をしていたが、冷たそうな印象を受ける。
態度も悪いし、メルヴィナは今回の婚約を気にいらないんだろう。
「何よ、その顔は……私に文句でもあるの?」
水量の少ないケトルのように、即座に沸騰したメルヴィナは手を振り上げ、震えているイースラーを叩こうとする。
イースラーは悪くないじゃん……。という事で、鍛え上げた身体の私がそっとメルヴィナ姫様とイースラーの間に身体を入れた。
ペチン。
身体を鍛えた事の無い令嬢の攻撃なんて、ダイエットで筋肉量を増やしてきた身体には全く答えない。
「あ、ご、ごめんなさい……」
そして私の方を見て、メルヴィナは涙目で謝る。
兄を取ろうとした令嬢は許せない。でも関係ない人に暴力を振るう事を泣きながら謝るメルヴィナ。
「あの、貴方を叩くつもりは無かったの……ごめんなさい」
そう言って、メルヴィナはハンカチを私におずおずと差し出す。
鬼のような形相で手を振り上げるメルヴィナと、不安そうに心配しているメルヴィナ。
ギャップ萌えってこういう事か。
「気にしないでいいよ、メルヴィナ様。兄を取られると思ったんだよね、今回は婚約を解消して貰えるように来たんだから」
そしてメルヴィナの頭を撫でてあげる。
前世が女子高生だったため、こういう小さい子の暴力も可愛らしく感じてしまう。
「メルヴィナ様はお兄さんの事が心配だったんだよね。優しいね」
「や、優しい……?」
「そうだよ、メルヴィナ様は、お兄さんが変な人と婚約するのが嫌だったんだよね?
自分が嫌われるかもしれないのに、お兄さんを守ろうとして行動できるのはメルヴィナ様が優しいからだと思うよ」
メルヴィナの目をじっと見て、私はそう言った。
そう言うと、メルヴィナは顔を赤くして俯いた。
自分が感情で行動した事に恥ずかしくなったのかな。
「ふーん、貴方はビュリ家の人よね……顔はお世辞にも綺麗とは言えないわね」
「メルヴィナ様くらい綺麗だったら良かったんだけどねー」
そう言うと、メルヴィナは考え込んだ様子をして、私の手を掴み、来なさいと言う。
そしてメルヴィナは勝手知ったる我が城。どこかの部屋のドアを叩き、入ってと促される。
「メルヴィナ様、どうしました?一緒に居るこの子は?」
そこに居たのは、ナイスミドルな渋みがかったオジサマ。
内政で手腕を発揮し、聖教国でお札にもなっている公爵家の宰相が居た。
「コナーおじさん、メルヴィナもビュリ家と……この方と婚約したい」
は……?
読んで頂きありがとうございました。




