モテなくて良かったわ!
セシリー「開いていただきありがとうございます」
前世の記憶を取り戻してから、二年がたちました。
兄、ノートンは12歳。弟、イースラは8歳。私、セシリアが10歳です。
ノートン兄様はより美しくなりました。
弟は女性に見間違えるくらい、可愛らしくなりました。
父と母は全く変わらず若々しいまま、きれいな顔立ちの劣化も見えません。
私も成長し、醜いアヒルの子のような容姿は……なんと遺伝子の強制力により美人になりました!
……
……
ごめんなさい、嘘を付きました。アヒルのままです。
アヒルのままというよりも、醜いアヒルの子は、より醜いアヒルとして成長をしています。
チリパーは治らず、子供体形をそのまま大きくしたような身体。
先週、キャンプで山に登った所、足をくじいてしまい、兄が私をお姫様抱っこしようとした時です。
12歳とはいえ、同年代の人よりも鍛えている兄に、そっとお姫様のように持ち上げられ……ませんでした。
ややぽちゃ。はい、ややぽちゃです。
私を背負おうとして潰れるくらいのややぽちゃです。
毎日走りこんだりしている兄が持ち上げられない程度のややぽちゃです。
……何ですかね?ややぽちゃと言ったらややぽちゃなんですよ?
「ハハハ、ノートンは非力だな。セシリアをお姫様だっこできるのはまだパパだけだな!」
そう言って兄の変わりに父が私を持ち上げようとして、ピタリと固まった。
私と目が会うと、父は汗を一筋流し……
「やっぱり辞めておこう。私がお姫様だっこできるのはママだけだから……」
私がジト目で睨むと、父はそそくさと母の元へと逃げていきました。
「姉様、僕がお姫様抱っこするよ」
弟も8歳。学園に入る年齢になり、私の事をおねえちゃん、から姉様、と呼び方が変わった。
くすぐったい感じもあったが、もう慣れてしまった。
弟のイースラーが、私の膝裏に手を入れ、そっと持ち上げようとした所で、私は冷や汗をかいた。
「こら、セシリー。ちゃんと歩きなさい。キーンもノートンもイースラも……セシリーを甘やかしてはダメよ」
母は回復魔法をかけ、自分で歩くように促しました。
残念そうなイースラー。
ノートン兄様でもできないのに、イースラーができるわけなかろうに……。
危険性を察知した母様、グッジョブ。
どうしてこんな事になってしまったんだろう。
同じ物を食べてるのに私だけが太……、ぽちゃになるのはおかしいと思う。
「セシリー、おいしいお菓子があるんだけど食べる?」
そう言って兄が私にお菓子を与える。
日課、いや一日に三回は、いくらかのお菓子を持って私の部屋に来るのだ。
「可愛い妹セシリーのために買ってきたよ」
そう言う兄に、ありがとうとお礼を言って、軽く抱き着く。
昔からお礼は私のハグだ。
以前よりも大きくなったので、兄を潰すんじゃないか?と不安になり一度ハグしなかった時があるが、
その時にノートン兄は『セシリーに嫌われた!』と大騒ぎした。
それ以降、私は意識して体重を脚に残したままハグするようにしている。
兄様に体重をかけて抱きつくと、兄様が圧死した。……そんな未来は選ばない。
兄が出て、私はお菓子の箱を開ける。
中には、兄に対する熱烈な愛が書き綴られた手紙が入っていた。
『可愛い妹セシリーのために買ってきたよ』
嘘つけ。どう見ても女の友達から貰ったお菓子だろ。
まあお菓子に罪は無いから食べますけどね……。
手紙は抜き出して、後でこっそり兄のカバンに入れておこう。
ケプッ
甘い紅茶と焼き菓子を全て胃の中におさめると、入れ違いに弟がやってくる。
「姉様、おいしいお菓子を貰ったよ。一緒に食べよう」
「イースラー、ありがとう」
「セシリー、おいしいお菓子を貰ったぞ、一緒に食べようか」
「お父様……ありがとう」
「セシリー、おいしいお菓子を貰ったわ、一緒に食べましょう」
「お母様……ありがとう」
私だけがぽちゃになる原因は、どう考えてもこれだった。
貰い過ぎだろ。どんだけモテるんだよ、うちの家族は。
そして、4人がモテ力により入手したお菓子の大半は私の胃袋に収まっている。
恐ろしい……。
でも、お菓子をいらないって言うと兄も弟も。父や母までも泣きそうな顔をする。
私本人は、学園に入ってから、誰からもプレゼントどころか手紙すら貰った事が無い。
友達、と言える人も居ない。
兄狙いや弟狙いだったらまず私と仲良くしてよ。
将を射んとすれば、まず馬を射てよ……。
でもまあ、私も人気があって、お菓子を貰い始めたらますますぽちゃが進行してしまう。
あー、モテないからよかったわ。よかったわ。本当に良かった……
……くすん。
セシリー「読んでいただき、感謝です!」