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白銀物語 ‐the Journey to Search for Old Friends‐  作者: 埋群のどか
序 章:現代日本・A県
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第5話

 謎の声の言葉に、一同に衝撃が走った。ざわざわと声が漏れる。そしてとうとう声を荒げる者が現れた。


「おい! それはどう言う事だ!? 何故それぞれ別の場所に送られるんだ!?」


 一二三だった。その隣には不安そうな表情を浮かべる彩葉もいる。おそらく彼女たちは先ほどの黒江たちと同じように、転生先で行動を共にしようと話していたのだろう。

 明らかに穏やかではない声色であったが、謎の声は動じた様子もなく淡々と答えていった。


『理由は単純です。転生とは言わば異なる世界を連結させる行為。人間一人分ならば問題なくとも、瞬間的とは言え二人分以上の連結空間を発生させた場合、どのような事態が発生するか分かりかねます。皆さんをバラバラに転生させるのは、そう言った結果を防ぐためです。』


 謎の声の語った理由が真実なのかどうかは分からないが、転生を行うのは謎の声の側なのだ。その真相は知りようのないことである。

 皆が謎の声の返答に不安そうな表情を浮かべる中、一人の人物が声を上げた。


「おーい! 謎の声さんよ! 転生させる前にちょっと時間くれないか!? そんなに待たせないからさ! 頼むよ!」

『……良いでしょう。用が済みましたらまたお呼びください。』


 黄河だった。黄河は謎の声にしばしの時間をくれるように要請し、謎の声は了承、その場から消えた。黄河の意図するところがわからず、皆は黄河へと注目する。皆の注目が集まっていることに気が付いた黄河は再び口を開いた。


「……よし、ちょっとみんな集まってくれ。」


 黄河は皆を呼び集めた。黄河の呼びかけの真意は分からないものの、皆はとりあえずその呼びかけに応え緩く集まる。


「さっき聞いた通りさ、俺たちバラバラのところに送られるらしいじゃん。だからさ、向こうの世界に行ったら、どこかに集まろうぜ。な! 送られる所は別々かもしれねぇけどその後集まっちゃいけない訳じゃないんだし。」


 黄河のその提案に皆は驚いた表情を浮かべた。確かに別々の場所へ送られた後、集まってはいけないとは聞いていない。その事に気が付いた皆の顔に活力が戻り、銘々に話し始めた。


「うむ、それなら向こうの世界でも安心だな!」

「ん~、動くのめんどーだけど、みんなとずっと離れ離れは寂しいしね~。」

「そうね、ここでさよならって言うのも悲しいわ。」


 皆の反応は上々だった。知らない場所で目的もなく一人ぼっちになるというのは、想像するだけで不安である。黄河は皆の顔に明るさが戻るのを見て、満足そうに笑った。


「じゃあさ、せっかくだし今ここで、さっきの結果言い合おうぜ。そうすれば、再会したときに相手がわかりやすいし、合言葉代わりにもなるだろ。」

「それもそうだね。黄河にしちゃあ機転が利くじゃないか。」


 身長の高い女性が歯を見せて快活に笑った。黄河はその声に「うっせ!」と冗談めかして応える。ただし、黒江一人だけがその流れに目をそらしていたが。


「んじゃあ言い出しっぺの俺からだな。俺の属性は光、適性値は1000、ロールは『勇者』だ。どうだ!」

「適性値1000! ゼミじゃあ教授に叱られっぱなしのアンタがねぇ?」


 先ほども黄河に冗談めかした言葉を送った女性が、またも冷やかしを挟む。しかしそこに険悪な雰囲気は感じられず、どちらかと言えば仲が良いからこその無遠慮さがあった。


「うっせーな、そう言う天音はどうだったんだよ?」

「ウチかい? アタシは雷属性で適性値720、ロールは『音楽家』さ。」


 彼女、天音ミカは大学で軽音楽部に所属している。父親がミュージシャンであり、その才能を引き継いだ彼女の演奏は素晴らしい腕前である事を黒江は知っていた。その男前な性格に見た目も相まり、女子のファンがとても多い。


「やっぱミカっちは異世界でも音楽関係なんだねぇ~。」

「そう言う栞の結果だって、ウチからすれば納得さ。ほら、言ってやりなよ。」


 ミカに促された、どこか眠たげな雰囲気を漂わせる女性が「え~……」と、やや面倒くさそうな様子で自らの結果を語りだした。


「私はね~、土属性で適性値が800で~、ロールは『錬金術師』だよ~。」


 彼女の名前は土田栞(つちだしおり)。大学の美術部に属する彼女は、学生ながらにして人気を誇る現役芸術家である。彼女の父親もまた芸術家であり、ミカの父親とは父親同士で交流があり、ミカとは幼い頃からの付き合いがあった。

 芸術家一家で育ったのに一般的な私立大学へ入学したのは、ミカがいるからと公言している。彼女のファンの一人であった黒江は、以前にもそう話す彼女の話を聞いていた。


「錬金術師良いよね~。すごく便利そうだし~。戦いにも向いてそうだし~。」

「戦闘に向いてるとは、何故だ? 錬金術師は学者だろう?」

「え~? ひふみっち知らないの~? ほら~、両手をパンって合わせて戦う錬金術師の漫画あったでしょ~。」

「いや、知らんな……。そう言うのには疎くてな。」


 栞の言葉に疑問を投げかけたのは一二三だった。固い印象を受ける彼女は古くから続く家系の生まれであり、先祖は武士・軍人だったと話している。大学では剣道部に所属しており、ミカとは大学の女子の人気を二分していた。


「ほら、一二三ちゃん。一二三ちゃんの結果もみんなに言わなきゃ。」

「そうだな。私の結果は、属性が鋼で適性値が770。ロールは『軍人』だ。」


 一二三の語った結果に、一同は心の中で頷いていた。まるで現代っ子という言葉から程遠い彼女の雰囲気に、鋼と言う属性も「軍人」というロールも似合いすぎていた。


「さっきも聞いたけど、一二三ちゃんの結果、本当に一二三ちゃんにぴったりね。」

「うむ、私も驚き半分納得半分だ。だが、彩葉の結果も私はぴったりだと思うぞ。」

「へぇ。彩葉さんの結果は何だったの?」


 黒江が尋ねた。黄河と浩、そして一二三と彩葉は高校時代からの仲であり、黒江が話しかけられる数少ない女子の一人なのである。

 しかし問われた彩葉の方は途端に顔を朱に染めて、少し慌てた様子で答えた。


「――へ!? あ、わわ、私の結果はですね……! えと、き、木属性で、適性値が900で、その、ロ、ロールが……、だ、『大賢者』でした……!」


 所々詰まりながらも語られた結果は、黒江の視点から見ても納得のものだった。彩葉はいわゆる文学少女といった見た目であり、大きめの眼鏡に三つ編みという、ある意味とても古典的な見た目だった。男性が苦手であるらしく、高校時代は休み時間になると図書室に籠って本を読んでいた。ボディーガードのように隣によくいた一二三の存在もあり公にはなっていなかったが、熱狂的なファンも少なくなかったと黒江は記憶していた。


「『大賢者』かぁ。彩葉さん頭良いもんね。ぴったりだと思うよ。」

「うゅえぁ!? あ、や、そ、その……、く、黒江くんがそういってくれるなら、その、う、嬉しいというか、その……」


 もともと赤くなっていた頬をさらに赤く染めながら、彩葉は顔をうつむかせた。男性が苦手であることを知っていた黒江は、彩葉に対し負担を強いてしまったかと心配になる。

 しかし、彩葉の様子を伺おうと足を出しかけた黒江の身体は、突然膝から崩れた。


「うわっ!? な、なに!?」

「何イチャついてんのよ、鬱陶しいわね。ラノベの主人公かっての。」


 黒江が体勢を崩したのは、黒江の背後で不機嫌そうに眉間にしわを刻む絢火だった。女性の平均身長程度しかない黒江よりさらに頭一つ分小さい彼女は、一見すると大学生には見え難い。そして、元々の性格故か馬が合わないのか、何かにつけて黒江と丁々発止の口やり取りをする相手であった。


「ちょっと、何するんだよ……!」

「ハン! 何で死んでまでアンタのラブコメ見てなきゃいけないよ。そう言うのは転生してからエルフ相手にでもやるのね。」

「エルフって、そんなラノベじゃあるまいし……。」

「魔法の世界へ異世界転生なんて、まんまラノベじゃない。ありえなくもないかもしれないわよ。」


 そう言って絢火は、挑発的に笑った。数世代前の先祖に外国人がいるらしい彼女の髪は、地毛で赤毛だった。幼い見た目で赤毛のロングと言う、ある方向へ特化した見た目をしている。


「で、絢火さんの結果はどうだったのさ。」


 蹴られたふくらはぎをさすりながら黒江は尋ねる。周囲はこの一連のやり取りに対し一切の疑問をいだいていない。それほどまでに大学内でよくみられる光景だった。問われた絢火は待ってましたと言わんばかりに自信満々に答える。


「良く聞いたわね。アタシの属性は火! 適性値は820でロールは『竜騎士』よ!」


 自身満々な態度なだけあって、語られたその結果は大層な物だった。黒江は思わず軽い嫉妬を覚える。自身の結果が目茶苦茶であるのに、絢火の結果はとても格好いい。つい憎まれ口をたたいてしまう。


「へぇー、凄いじゃん。でも、大変だね。」

「大変? 何がよ。」

「絢火さんの体格だと、乗れるドラゴンが滅多にいなさそうでしょ?」

「なな、何ですって!?」


 目を尖らせ怒りをあらわにする絢火。このように、二人のやり取りは決して一方的でなく、お互いがお互いに突っかかり合うものだった。そしてそれを収める役割を負うのも、毎度おなじみの人物である。


「……黒江、日笠(ひりゅう)をからかうのもいい加減にしておけ。」

「絢火、熱くなりすぎよ。汗かきそうだわ。」


 黒江を止めるのは浩であり、絢火を止めるのは長い黒髪の女性だった。どこか舶来の雰囲気を感じる絢火に対し、その女性はとても日本的で大和撫子然としている。

 黒江はその女性を見ると、途端に冷静さを取り戻した。絢火に対してはついつい子供のように突っかかってしまうのだが、落ち着き払ったその女性の所作を見るたびに、自分の幼稚さを見せつけられるかのような心境になるのだ。


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