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白銀物語 ‐the Journey to Search for Old Friends‐  作者: 埋群のどか
第1章:エルフの隠れ郷・シドラ
34/48

第34話

今回短めです。

  ミーナは軽々と片手でハンマーを振るい血払いを行うと、再び【パンドラ】を発動させハンマーを仕舞った。そして代わりにハンカチのような布切れを取り出すと、クロエの頬に着いた血を拭う。


「んむ……、ありがとうございます。敵はこれで全部ですか?」

「とんでもない、まだまだ待ち構えておりますよ。……ほら、ご覧ください。」


  ミーナが城門の方を示した。クロエが目を向けると、ちょうど木で出来た簡素な城門と城壁が破壊されるところだった。土煙が舞う向こう側、そこにはおそらく城門を破壊した張本人であろう鋭い牙をむき出しにした巨大なゴリラのような獣物(ケモノ)が、正気を失った様子で鎮座している。そしてその背後には、まるで百鬼夜行の如く群れをなしていた。


「……うわぁ。」


  クロエがげんなりと言った様子で声を漏らした。しかしすぐに表情を引き締めると、先ほど猿のような敵に向けて投擲した刀「虚鴉(カラス)」を、伸ばした虚腕(カイナ)で回収した。

  クロエは虚腕(カイナ)を消すと、虚鴉(カラス)を二、三度振り血を払う。その様子を側で見ていたミーナが、ポソッと漏らすように呟いた。


「……まこと、凄まじい魔法ですね。」

「え? 何です?」

「ああ、いえ。何度見てもクロエ様の固有魔法は凄まじいものだと思いまして。」


  クロエの固有魔法【影操(カゲクリ)】は、その名の通り影に質量を与え自在に操る魔法である。形を成した影はクロエ自身には重さを感じさせないが、他者が触れれば同じ大きさの鋼鉄と同じぐらいの重量を感じさせる。また、クロエの想像通りに形をなすためその硬度も思いのままである。


「ありがとうございます。でも、慣れていないせいかもですけど、まだ虚腕(カイナ)虚鴉(カラス)ぐらいしか作れなくて……。」

「訓練あるのみですね。しかし、影に魔力を、ですか……。理屈はわからなくもないですが、私には出来ません。一体どうやって発動させているのですかね?」

「いやその……。こう、『ぎゅあああ』って感じで……。」


  クロエの説明にミーナが苦笑した。一般的に魔力を他の物体に流し込むことは可能であるが、それは専用の魔力を受け取れる何かに向けてに限るのだ。物体ならまだしも、「影」という概念にも近い存在に魔力を流し込むなど可能不可能の前に論点にすら上がらない考えだ。クロエの固有魔法習得の際にミーナも自身の影に向けて魔力を流し込んでみたが、当然のように同じことはできなかったのだ。

  また、この一見するとおそろしいまでの汎用性を持つこの固有魔法だが、いくつかの弱点もある。まず、生み出せるものはクロエの想像力に依存するものなので、クロエがその仕組みを把握していないものは作り出せず、ハリボテが関の山である。拳銃などの現代兵器を作り出したクロエだが、その機構を知らなかったが故にただの拳銃型の文鎮と化した。あまりに大きい物体や複雑なものはクロエの想像力が追いつかないのだ。故に、現在クロエが作り出せるのは単純な形の虚腕(カイナ)と、生前よく観察していた日本刀である虚鴉(カラス)のみである。

  さらに、【影操(カゲクリ)】で作り出した物体は元が影であるがゆえか、強い光に弱かった。目が眩むレベルの光を受けると作り出した物体は一瞬かすみ形を崩すか、もしくはそのまま消え去ってしまう。これはある雨の強い日、偶然シドラに落ちた雷の強い光でクロエの作り出した傘が消えたことから判明した弱点である。


「それに、この魔法めちゃくちゃ魔力使うんですよ。ボクでも多分、魔素が薄いところだとそんなに連用はできなさそうです。」

「二人とも! おしゃべりはそこまでですわ。敵が来ますわよ。」


  後方の木の上からサラの言葉が聞こえてきた。その言葉にクロエとミーナが敵の方を見ると、先ほどのゴリラのような獣物(ケモノ)をはじめとする敵たちがクロエたちの存在に気がついたらしく、ぞろぞろと幽鬼のようにこちらへ向かってきている。


「おやおや、お客様がおいでですね。クロエさん、おもてなしのご用意はよろしいですか?」


  ミーナが展開した【パンドラ】から、モーニングスターのような武器を取り出した。クロエも初めて見る武器であるが、その凶悪性はひしひしと伝わってくる。両手でなければ扱えなさそうな超重量級の武器だが、ミーナは闇森族(ダークエルフ)特有の腕力で軽々と振るっている。


「(……やっぱ、ミーナさんは怒らせちゃダメだな。)」


  クロエは打刀を片手で振り回しながら内心で冷や汗を流した。本来ならば大の大人でもそんな真似はできまいが、そこは【影操(カゲクリ)】の特性故である。刀を回し、肩関節を回し、自身の体に異常がないことを確認した。


「はい、大丈夫です。」

「それでは参りましょうか。お嬢様、後方支援をお願いいたします。」

「ええ、お気をつけて。」


  クロエとミーナはほぼ同時に走り出した。相手は多勢、こちらは無勢。しかしクロエの心中は絶望に染まっていなかった。何故ならば、クロエには強力な固有魔法がある。属性値無しという反則じみた特性によるほぼ無尽蔵の魔力もある。負ける要素が見当たらない。


「(ふふ、今まで辛い訓練を頑張ってきたんだ。さっきはちょっと油断しちゃったけど、もう油断はしない。ここらで一つボクの強さをミーナさんやサラさんに見せつけるんだ。そうすれば二人だってボクのことを認めてくれる。よし、やるぞ!)」


  決意を固めクロエは敵陣の中に突撃した。無謀にも思えるクロエの初陣が、本格的に始まったのである。


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