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白銀物語 ‐the Journey to Search for Old Friends‐  作者: 埋群のどか
第1章:エルフの隠れ郷・シドラ
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第29話

 翌日、クロエはシーラと共に魔法の勉強を受けていた。魔法に関する様々な事をシーラと学ぶ。すでにアレクサンドリアのダークエルフたちにはクロエの魔法に関する異常は伝わっていた。これから魔法や戦闘の訓練などを共にする以上、その事を秘したままでは支障が出る。ロール「魔王」についてはこれまで通り伏したまま、魔法に関する事だけ伝えることをサラやミーナ、サーシャと共に話し合って決めたのだ。

 現在行っている座学に関しても、魔法に関する基礎的な内容をクロエが学んだ後はクロエの異常に関し話し合う場とすると伝えられていたのだ。


「魔法は二種類に大別できます。シーラ、何と何でした?」

「え、えっと……。普通魔法と……、ねぇ何だったっけ?」


 ミーナの問いに半分まで答えたシーラだったが、途中で分からなくなり隣のクロエに聞いた。クロエは答えて良いか少しためらったが、そのまま答えることにする。


「確か、固有魔法ですよね?」

「その通りです。固有魔法とは、個々人ごとに発現する魔法です。同じ存在が二つとしていないように、一つとして同じ固有魔法はないとされています。一般的に魔法適性値が500を越える者が使えると定義されていますね。」


 ミーナが大きな板状の黒い岩に、細い棒状の白い石で文字を記していく。ミーナが書いたのは「固有魔法」と言う文字とその下に「適性値500以上から」。そしてその隣に「普通魔法」と書く。


「そしてもう一つの魔法、普通魔法は、適性値が100を越えれば使えるとされる魔法です。古代から数多く開発され、適性値で差は出るものの、その効果は誰が使っても同じです。また、普通魔法の中で特に攻撃に用いるものを区別して呼ぶことがあります。クロエ様、その名前は何ですか?」


 ミーナは「普通魔法」の文字の下に線を伸ばした。そしてクロエの方へ視線を向ける。ミーナはこのように講義と言ってもただ一歩的に話すだけではなく、クロエやシーラの理解を促すために問いかけることが多かった。

 クロエはパッと思いつくことができなかったので、事前にもらったメモ用紙をパラパラと見返した。そして該当する答えを見つけ答える。


「えっと、属性魔法です。」

「はい、正解です。属性魔法とはその名の通り、魔力に自身の魔法属性のバイアスをかけ、そのまま放つだけの単純明快な魔法です。しかし単純とは言えそこに込められる魔力の量によってはその威力は恐ろしいものとなります。」


 ミーナが再び文字を書き始めた。「属性魔法」の文字の下に、小・中・大・極大の文字を記す。クロエはその文字を見て先日の授業を思い返していた。


「(確か、極大魔法ともなると威力も半端なくて、極大魔法一発で国を滅ぼすことだって可能らしいんだっけ……? あれだ、核爆弾みたいだって思ったんだ。)」


 自らの前世におけるとある兵器を思い出しながら、クロエはミーナの講義を受ける。丁度その内容はクロエの異常について話題が及んだ。


「さて、十の属性と四の種類のある属性魔法ですが、その理に異を唱えたのがクロエ様ですね。」

「無属性、だっけ? あたしも初めて聞いたよ。それ何なの?」

「うーん、それがボク本人もさっぱりで……。」


 シーラの疑問にクロエは困った表情を浮かべた。ゲームなどを思い浮かべれば「無属性」という物は存在する。しかしそれだけならば新しい属性という事で説明は付くが、説明がつかないのがもう一つの異常なのだ。


「ボクの異常、『魔法適性値なし』の意味も分かってないし。」

「……そうですね、それが分からないのです。」


 ミーナも困惑の声を上げた。黒板に「適性値無し」と記したが、その後にぐるぐると線を書きなぐる。これがいわゆるクエスチョンマークとなるらしい。

 三人揃えば文殊の智慧と言う言葉がクロエの前世ではあったが、この場では三人が悩んでも答えは出なかった。しかし、その解決策は思わぬ四人目から出る。


「……もしかしてですけど、『なし』と言うのは『0』の事ではなくて、『存在しない』と言う意味ではないですの?」


 サラだった。現在二人が受けているレベルの基礎知識はすでに習得済みのサラだったが、やる事もなく復習に丁度良いと離れたところに座りミーナの講義を聞いていたのだった。今まで聞くだけで言葉を挟まなかったサラだったが、ここに来て思わぬ光明を指し示した。


「今まで考えてましたの、『魔法適性値なし』とは一体どう言う状態なのか……。魔法適性値はこの世界に普遍的に存在する魔力を自身に取り込み、魔法へと変換する能力を疑似的に数値化したものですわ。その値が大きければ大きい程、魔力を効率的に魔法へと変換できる。ですけど、もしその値が無限だったら? 変換するまでもなく、魔力を魔法にそのまま変えることができたのなら、それはもはや魔法適性値が無いのと同義ですわ。信じがたいですけど、もしこの予測通りなら……?」


 サラの言葉にクロエとシーラは首を傾げた。しかしミーナは、ミーナだけはサラの言いたいことを正しく理解した。そしてあまりの動揺に持っていた白石を取り落とす。軽い音が静寂の資料室に響き渡った。


「……あり得ません。いくら何でも、それはあり得ないのではないですか、お嬢様。」

「ですけど、この理屈が真実ならクロエさんの魔法属性にも説明がつきますのよ? 魔法の属性は私たちの魔法属性の偏りをかけることで発生しますわ。でも、クロエさんに魔法適性値がないとしたら、そもそもそこに偏りをかける必要すらない。つまり、属性が存在しない。それ故の『無属性』と言う意味だとしたら……?」

「た、確かに……。」


 それからミーナとサラは、クロエとシーラを尻目に二人で話し合い始めた。矢継ぎ早に繰り出される会話の中にはクロエの聞きなれない単語ばかりが飛び交い、その内容を理解することは能わない。シーラも同様のようだ。しかし、二人とも一つの事は理解できていた。クロエの存在は、予想以上に異常である可能性があるという事だ。

 実に、たっぷり十分は話していただろうか。サラとミーナの議論が終結した。ミーナとサラは信じがたいという気持ちをありありと表情に浮かべながらも、導き出した結論をクロエへと伝える。


「クロエ様。お嬢様と話し合いましたが、やはりお嬢様の推論が合っている可能性が高いようです。……そこで、申し訳ないのですが、いまから少しお付き合いいただけないでしょうか? 調べたいことがございます。シーラも、申し訳ないですが今日の座学はここで終わりとします。それでもいいですか?」

「う、うん。あたしは嬉しいけど……。」

「ありがとうございます。それではクロエ様、こちらへ。お嬢様もどうぞご一緒に。」


 ミーナはクロエとサラを連れて足早に資料室を後にする。残されたシーラは怒涛の展開について行けず、しばらくの間ポカンと呆けていた。しかし窓の外からかすかな音を耳にした。それは複数人の人物が活動しているらしき音である。シーラは席を立つと、頬をポリポリと掻いた。


「……とりあえず、午前の訓練に顔出してこよっと。」


 一方のクロエ達三人は資料室を出て、現在は大長老の執務室に来ていた。執務室で書類を書いていたサーシャは突然訪れたクロエ達の姿にも驚くことなく三人を迎え入れたが、サラとミーナの語る話を聞いた後には流石に驚きを隠せずにいた。

 サーシャは話を聞き終えると三人を引き連れて部屋を後にした。そして廊下を歩き階段を登り、たどり着いたのは屋敷の頂上だった。


「ここは……?」


 これまでの空間とは異質な雰囲気を感じ取ったクロエが尋ねた。そこはまるで切り株の上のように垂直に切り拓かれた大樹の頂上だった。木の外縁から枝葉が伸び、まるで樹木のドームのようになっている。

 そしてその幻想的な空間の中心に、やや不釣り合いな物体が鎮座していた。木製製品以外をあまり見かけないこのシドラにおいて、クロエの肩ぐらいまでの高さの綺麗に成形された石の台座だった。そしてその上には球状の透明なガラス玉のような物が浮いていた。


「これは『アルゴス』って言う装置よ。そうねぇ……。簡単に言うなら、使った人の魔法適性値とか魔法属性を調べるものなのよ。どこにでもあるような物じゃない、結構貴重な物なのよ?」


 サーシャが不思議そうな目で装置を見つめるクロエに気付き、場を代表して解説を入れた。クロエは改めて装置を観察する。見る限り、球が浮いているという点以外は何の変哲もないただのオブジェクトである。これをどう使えばサーシャの言ったような物が調べられるのか。クロエには予想もつかなかった。


「そうですね。まずは我々で使って見せた方が早いでしょう。クロエ様、どうぞご覧ください。」


 ミーナが一歩前に出た。つかつかと歩きアルゴスの前に立つ。そして装置の球の部分に手を当てた。

 すると次の瞬間。球が一瞬にして巨大に膨張、その大きさは人ひとりを優に大きく超えるものだった。しかしクロエが驚いたのはそこではない。その球の表面にびっしりと目が現れていたのだ。透明な球に切れ込みが現れ、そこからぎょろりと瞳が芽吹く。球の表面に現れたおびただしい目は、その全てがミーナを見つめていた。

 時間にして一分も経っていないだろう。しかし風の音以外聞こえない静寂の空間の中では、まるで実際の数倍も経ったかのように感じられる。突如として現れた目は、同じく突如として消え去った。目の消えた球は何事もなかったように元の大きさとなるが、全くの元通りとはならなかった。球は透明ではなく紫色に輝き、そして表面に文字らしきような物が浮かび上がっている。クロエの見覚えのある文字ではなかったが、転生者(ピース)特有の能力のおかげでそこに何が書いてあるか理解できた。数字だった。「480」と記されている。

 ミーナがアルゴスから離れた。それと同時に球の輝きが消え元の透明な状態に戻る。ミーナがクロエへと振り返る。


「このように、この装置の球に触れることで自身の魔法属性と魔法適性値が判明します。この珠が紫に輝いたという事は、私の魔法属性は闇。適性値は480という事なのです。今からクロエ様にもこの装置を使っていただきます。これを用いれば、何かしらの謎が解けるはずです。」


 皆の視線がクロエへ集中する。クロエの喉がごくりと鳴った。遂に自らの謎が明らかになる時が来たと思うと、真実を知りたい気持ちと緊張感がクロエの心でせめぎ合った。アルゴスへ向かって歩みだす足が、一瞬だけ止まった。しかし、謎を追い求める気持ちが競り勝ち、クロエの身体は装置の前へとたどり着いた。


「(鬼が出るか、蛇が出るか……。えっと、ここに手を置けばいいんだよね?)」


 クロエはアルゴスの球部分に手を置いた。一拍。球部分が先ほどと同じように巨大に膨張する。そして球のあちこちに切れ込みが発生し、そこからぎょろりと瞳がのぞいた。


「ひっ……!」


 そのあまりの不気味さに思わず悲鳴を漏らすクロエ。しかし、何とか球から手を離さずにこらえる。

 球の表面の目は最初クロエをじっと凝視していたが、ミーナの時の時間を優に超えても球に変化は現れなかった。それどころか、クロエを見つめていた目のうちの幾つかが、まるで狂ったかのようにぐるぐると視線をさ迷わせ始めたのだ。これまで以上に大きく目を見開き、クロエの全身を、まるであら捜しでもするかの如く、ぐるぐるぐると、視線をさ迷わせる。


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