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白銀物語 ‐the Journey to Search for Old Friends‐  作者: 埋群のどか
第1章:エルフの隠れ郷・シドラ
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第18話

「えっ……。」

「まさか、自分の住んでいる国が分からないなんてことはありませんわよね? それに、ここが何処だかご存知ですの?」

「え、えっと、それは……。あっ、シ、シドラです!」

「それはさっき私が言いましたわ。このシドラは、大国一つ分を優に超える大きさを誇る森林地帯であるジーフ樹海のほぼ中央に位置しますの。そんな場所に、クロエさんのような女の子がどうやって来たって言いますの?」

「あ、あの、それは……。」

「クロエさんの着ていた服は、このあたりの国では見た事もない素材と裁縫技術で出来ていましたわ。この国は外の国との交流はほぼありませんけど、それでもここまで技術に取り残されるほど係わりを断っている訳ではありませんの。ねぇ、クロエさん?」

「……。」


 クロエには、もはや反論する言葉が見つからなかった。不審に思われたくない一心からつい吐いてしまったしまった嘘だったが、サラによって完膚なきまでに論破されてしまう。

 クロエは目の端に涙の粒を浮かべながら、必死に理由を考える。もはや何を、どんな理由を口にしても手遅れとしか思えないが、そこに気付くことができないほどクロエは焦っていた。


「――ふふっ。」

「……えっ?」


 突然、サラが我慢しきれないと言うように小さく噴き出した。クロエは呆気にとられ、ポカンとサラを見つめた。サラはすぐに笑みを浮かべると、申し訳なさそうに眉を寄せる。


「ごめんなさい、虐めるつもりはありませんでしたの。つい言葉がすぎてしまって……。」

「いや、その、えっと……。えっ?」


 突如激変した場の雰囲気について行けず混乱するクロエ。目を白黒させるクロエを見かねたのか、サラはクロエを安心させるように微笑みを浮かべたまま説明を加えるのだった。


「まず……。転生者自体は珍しいですけど、ありえない事ではないのですわ。ですので別に隠さなくても問題はありませんの。まぁでも、人類種(ヒューマー)じゃないのは珍しいかもしれませんわね。私も初めて聞きましたわ。」

「えっ、あっ……、そ、そうなんですか……。で、でも……!」


 自らの秘密の一つが隠すほどの事ではないと知り、クロエは拍子抜けしたように間抜けな言葉を返してしまった。しかし手紙に書かれていたクロエの秘密はもう一つある。その事を思い出したクロエは、理由も分からないままに反論を上げた。


「その、ボクは転生の際に『魔王』ってロール与えられてて、それが、その、みんなと違うって言うか、その……。」

「うーん……。そのロールって言うのが何かは分かりませんけど、別にクロエさんは魔王ではなさそうですし……。魔王がこんな所にいる訳はありませんし、『罪の証』もありませんわ。気にしなくても良いと思いますわよ?」


 サラはクロエの顔、右目を軽く覗き込みながらそう答えた。それが何を意味するのか、クロエには分かる由もない。ただ一つ分かったのは、クロエの持つ紙に書かれている内容は意固地になって隠す秘密たり得ないという事だった。

 クロエはそこまで合点がいくと、ようやく安心したように大きく、それは大きくため息を吐いた。そして少し怒ったように口をとがらせる。


「意地悪ですよ、サラさん……。ボク、ほんとどうしようかと思ったのに……。」

「それに関しては、本当に申し訳ありませんわ。でもクロエさん。クロエさんもあんな嘘だってすぐわかる嘘言うんですもの。あまり感心しませんわよ?」

「う……。そ、それはまぁ、ごめんなさい……?」


 うまく口先で丸め込まれたような気がしないでもないが、何故か謝るクロエであった。クロエは釈然としない気持ちを抱えながらも、ごまかすように自らの前に置かれたカップを手に取る。今度は怪しむことなくカップを持ち上げ、軽く匂いを嗅いだ。


「(これは、何だろ? 匂いは紅茶っぽいけど、見た目は赤って言うより、橙色みたいな……。まぁ、紅茶の仲間か何かな、たぶん。)」


 口に少しだけ含むと、ハーブのような風味が口に広がった。少し癖があるものの、とても美味しいものである。味もやはり、クロエの記憶にある限り一番近い物は紅茶だった。クロエはこの飲み物を紅茶だと判断する。


「それで、クロエさん。その紙にも書かれていましたけど、クロエさんは人類種(ヒューマー)ではないのですわね。」


 クロエが飲み物を口に含んだ姿を見て、内心喜んでいたサラが尋ねた。サラの質問に、クロエは改めて紙に目を通す。


「みたい、です。なんか、『魔族』って書いてありますけど、これどう言う事ですか? もしかして、何か悪い意味とか……。」

「いえ、そういう訳じゃないですわ。クロエさんは知らないでしょうけど、『魔族』というのは、人類種(ヒューマー)以外の知性を持つ意思疎通可能な種族全体の事を指すのですわ。人類種(ヒューマー)に近い外見の魔族のことを『亜人族(ニーア)』と呼ぶこともありますけど。」

「それじゃあ、ボクが何の種族かって言うのは……。」

「特定ができませんわね。私も全ての魔族を知っている訳じゃありませんけど、うーん……。クロエさんの特徴は、軽く尖った耳と赤い瞳、真っ白な髪、ですわね。人類種(ヒューマー)ではないことは分かりますけど、それ以上は……。」


 サラは困り顔で唸っている。クロエとしては自らに関わる事なので是非とも正体を知りたかったが、無理を強いるつもりはなかった。


「あの、別に大したことじゃないですし、ボクは気にしないですよ。」

「そう、ですの? まぁ、クロエさんがそう言うなら……。」


 サラはそう言いながらも、何か思い出すことはないか少し考えている様子だった。しかし自らのカップとクロエのカップの中身がない事に気が付くと、立ち上がりカップを回収した。クロエも「あっ、ありがとうございます。」とカップを手渡す。

 カップを両手に、サラは台所へ向かう。クロエはそれを視線で追うが、見る限り水道のようなものは見当たらない。

 カップを台所の一か所に置いたサラは、「あっ」と小さく声を上げた。クロエは先ほどの会話から何かしらの種族が思いついたのだろうかと少し期待する。


「忘れてましたわ。大長老の元に挨拶へ行きませんと……。」


 しかしサラが発した言葉は、クロエの期待した物とは異なるものだった。それに内心少し気落ちしながらも、気になったクロエはサラへと尋ねる。


「挨拶って、もしかしてボクの関係で、ですか?」

「ええ。クロエさんをこの郷へ保護する際に、この郷の長である大長老から挨拶に来るように言われていたのですわ。面倒ですけど、無視するわけにはいかなくて……。」


 サラは部屋の窓から外を、空を見た。森の木々で少し遮られているが、外は夕焼けの赤に包まれている。


「まだ明るいですわね。今のうちにささっと挨拶に向かいましょうか。おそらく大長老もこの時間帯ならばすでに公務を終えていらっしゃるはずですわ。」


 そんな気軽に郷の最高権力者に謁見できるのかとクロエは疑問に思わないでもなかったが、国どころか世界が異なるのである。自身の常識は通じないのかもしれないと思い直し、サラの提案に「わかりました。」と素直に返答した。


「それでは、さっそく行きましょうか。そんなに広い国でもありませんし、少し案内もかねて歩いて行きましょう。」


 サラが玄関へと向かう。クロエもサラの後に続いた。サラが扉を開けると、その向こうの景色はクロエの想像と異なっていた。地面ではなく、木々の上の方があるのである。


「わっ! すごい……。ツリーハウスだったんですね、サラさんのお家って。」

「私の家と言うより、この郷の家は基本的にこうですわね。クロエさんのいた世界では違いますの?」

「そう、ですね……。無い訳じゃないんですけど、かなり珍しかったはずです。少なくとも、ボクは初めてです。」

「そうですのね。では、どうぞ。」


 サラはそう言うと、クロエに向かって手を差し出して来た。クロエはキョトンとしてその手を見返す。サラはクロエが差し出された手の意味を分かっていないことを察したらしく、苦笑を浮かべた。


「この形の家が初めてという事は、降りるのも慣れていないでしょう? 滑ると危険ですし、私が支えますわ。ですので、お手をどうぞ?」

「あっ、えと……、あ、ありがとうございます。」


 少し気恥ずかしそうに一瞬ためらったクロエだったが、視線を下げ家の建っている高さを再確認すると素直にサラの手を取った。サラはクロエの手を取ると、ゆっくりと木の外周に沿うように設置された階段を降りる。


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