1.大切だから、響くから
もしも
もしも、あなたと私が“普通”の出会いをしていたら?
同じ世界…そう、例えばフィジカルの同じ国、同じ町、あの場所で、何の偽りも無い同じ高校生だったとしたら…?
ーー許されないーー
あんな隔たりを感じてしまったのは私が令嬢だったから?あなたを極道の人だと思っていたから?
ーーううん。
きっと違うわ。もっともっと高くそびえ立つ『世界』の壁を本能的に感じ取ったから、だわ。
だってそれさえ無ければ例えどんな境遇であろうと、あなたは私を引っ張り上げてくれたはずだもの。私もきっといっぱい、いっぱい、限界ってくらいまで手を伸ばしたと思うの。それだけは自信があるのよ。根拠などなくたって。
そうして結ばれた若い二人は、きっと毎日一緒に帰るの。無口なあなたはほとんど喋らないけど、微笑み合うだけで満たされていくの。
時々寄り道なんかして。駅前まで足を伸ばしてカフェでお茶したりするの。
もっと親しくなったら、休みの日、家に招いてゆっくりのんびり過ごすの。お昼は私が作ったりして。くすぐったい新婚さんの気分を味わうの。
夏休みはもちろん遠出。一緒に海へ行って、手のひらに納まりきらないくらいの貝殻を拾って…
あなたに……
そこまで想像してみたところでぱっと閃く。静寂と情熱がまぁるく見開かれる。
ーー明けゆく薄ら白い空の中。
片側の身を預けるジュリの頬は染まっていく。気が付いて。
何だ。
今と同じじゃない。
そう、気が付いて。
きっとろくに眠ってもいないはずの彼の操縦は相変わらず滑らかで心地良い。蒼の機体、いやむしろ彼と、一つになって空を駆け抜けていくかのようで。
来世は鳥もいいなぁ。彼と一緒に生まれ変わって、同じ空を飛んでいくの。そんなことを夢見てしまう。
だけどあくまで夢。誰に教えられた訳でもないけれど、わかる気がするのだ。
魂は進化するもの。進化の最先端たる『人』に成ってしまった以上、更なる進化を目指すしかない。戻ることはないんだ、って。
窓へ触れて確かめる、星が消えていく過程。
闇を飲み込んでいく、光。私たちはきっと、あれに届くくらいの…進化を。
「ジュリ、眠っていいんだぞ」
届く彼の声に微笑んだ。一瞥した優しい青の眼差し、その残像に甘えるようにしてまた半身を預けたジュリの中で
響いていく。
ーーレイ。
何だか例えようのない不思議な感覚だった。愛しいその名、その響きは、遥か昔から奥底に眠っていたみたいで
ーーレイ。
あなたは生きてーー
虚ろに霞ゆく意識の中。それは確かに自身の中で響き続けたのだ。
――愛おしく――




