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半透明のケット・シー  作者: 七瀬渚
第5章/狼の遠吠え(R.Kashiwabara)
55/101

13.独りと独りだったから



ーーもうそろそろ、か。




おもむろに立ち上がったナツメがカーテンの隔たりを越えて向かった……夜。



夕食を終えて戻ってきたばかりのエドとマギーの目はモニターのスイッチに伸びる彼女の指を捉えて見開かれた。エドはすぐさま駆け付けて焦燥の声を上げた。



「おい!真っ最中だったらどうすんだ……」





……よ……っ!





時すでに遅く。ためらいさえしない動きの指先によって押されてしまった。


灯った画面の光が薄暗い一角を青白く照らした。わっ、と小さく声をあげて顔をそむけるエドと、反対にぐっ、と覗き込むマギー。





ーーそうか。




低い声がした。顎に手を当て見下ろしているナツメから。その隣でフリーズした機械のように静止しているマギーに気が付いたエドは、恐る恐る寄っていく。




「ナツメさん、これって……」



「……ああ」




三人の目はモニターの奥の白い面で止まった。ただただ、白い。その中に紛れるみたいにそれは、ある。素材の違うとわかる一欠片ひとかけが。




三人はすぐに部屋を出た。



その場所へ向かった。





カサ……



やがて乾いた音を立てて、拾い上げられた。罫線入りの白い紙を前にマギーの目は潤いに満ちていく。エドは口を開けて絶句している。



主を失くした静寂の部屋の中、ナツメが淡々と読み上げた。









ーーみんなへ。




散々お世話になって、沢山迷惑もかけて、振り回して、なのにこんな選択をして……ごめんなさい。



もう巻き込みたくありませんでした。



そしてもう、何にも遮れたくはなかった。



独りと独りで出逢った私たちは、お互いに一つの居場所しかなくて、それはお互いの中にしかないから



今宵、夜霧の中へ戻ります。




何処までも勝手な私たちを許してくれとは言いません。今から告げる想いを最後に、どうか私たちを忘れて下さいーー






「ジュリ……レイさぁん……!」



「馬鹿……野郎……ッ」




おいおいと泣きじゃくるマギーと絞り出すように唸るエドの前、ナツメがふっと瞼を閉じた。



ゆっくりと。だけどほんの少しの細動を帯びた声で続きを口にする。




もう姿を消してしまった、夜霧へ向かった二人の声が交互に聞こえてくるかのよう。








ーーありがとう。



ありがとう、みんな。





さようなら。



さようなら、みんな。






レイジュリ






ーー運命になりますーー



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