13.独りと独りだったから
ーーもうそろそろ、か。
おもむろに立ち上がったナツメがカーテンの隔たりを越えて向かった……夜。
夕食を終えて戻ってきたばかりのエドとマギーの目はモニターのスイッチに伸びる彼女の指を捉えて見開かれた。エドはすぐさま駆け付けて焦燥の声を上げた。
「おい!真っ最中だったらどうすんだ……」
……よ……っ!
時すでに遅く。ためらいさえしない動きの指先によって押されてしまった。
灯った画面の光が薄暗い一角を青白く照らした。わっ、と小さく声をあげて顔をそむけるエドと、反対にぐっ、と覗き込むマギー。
ーーそうか。
低い声がした。顎に手を当て見下ろしているナツメから。その隣でフリーズした機械のように静止しているマギーに気が付いたエドは、恐る恐る寄っていく。
「ナツメさん、これって……」
「……ああ」
三人の目はモニターの奥の白い面で止まった。ただただ、白い。その中に紛れるみたいにそれは、ある。素材の違うとわかる一欠片が。
三人はすぐに部屋を出た。
その場所へ向かった。
カサ……
やがて乾いた音を立てて、拾い上げられた。罫線入りの白い紙を前にマギーの目は潤いに満ちていく。エドは口を開けて絶句している。
主を失くした静寂の部屋の中、ナツメが淡々と読み上げた。
ーーみんなへ。
散々お世話になって、沢山迷惑もかけて、振り回して、なのにこんな選択をして……ごめんなさい。
もう巻き込みたくありませんでした。
そしてもう、何にも遮れたくはなかった。
独りと独りで出逢った私たちは、お互いに一つの居場所しかなくて、それはお互いの中にしかないから
今宵、夜霧の中へ戻ります。
何処までも勝手な私たちを許してくれとは言いません。今から告げる想いを最後に、どうか私たちを忘れて下さいーー
「ジュリ……レイさぁん……!」
「馬鹿……野郎……ッ」
おいおいと泣きじゃくるマギーと絞り出すように唸るエドの前、ナツメがふっと瞼を閉じた。
ゆっくりと。だけどほんの少しの細動を帯びた声で続きを口にする。
もう姿を消してしまった、夜霧へ向かった二人の声が交互に聞こえてくるかのよう。
ーーありがとう。
ありがとう、みんな。
さようなら。
さようなら、みんな。
俺と私は
ーー運命になりますーー