〜夜霧〜
――懐かしい。
すぐにそう思った。
一人っきり見知らぬ場所で目覚めた。いや、生まれたという感覚の方が近かったのではないだろうか。
身体は赤ん坊じゃなかったけれど、私は限りなくまっさらだった。ただ怯えていた。
そこへ気配を感じた。ヒタヒタと歩み寄る足音が大きくなってきて、座り込んだ地面に振動まで与えてきて、全身はみるみる総毛立った。
この喉の奥から沸いて出た、フゥーッ、という唸り。何故だか視界は揺らいで、滲んで、ただでさえ見づらい辺りがますますよく見えなくて。
殺していた息、だけどやがて取り戻すことに。
現れたその姿は決して優しげではなく、むしろ鋭くて、捕食者と呼ぶに相応しいものだった、はずなのに。
息が通った。すぅっ、と自然に吸い込んだのは気体のはずだったのに、液体になって流れ出た。はらはらとこの頬へ降りて濡らした。
探し求めていた、例えるならばそんな気分。
彼の姿を程よく透かしてくれたそれは、柔らかな寝床のように思えて、意識が軽く、遠くなった。
受け止められた硬い感覚。ふわ、とかけられた毛布みたいな感覚。
包み込む優しい夜霧。
優しい匂い……
――半透明――