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第八話「ワッショイ、生徒会委員」【前夜祭】

 私とクマが出会ったのは放課後の廊下でした。

 ……って、クマですか!?

 さすがの私もビックリです。

 犬とか猫とかハムスターならまだしも、まさか学校の中でクマさんに遭遇するなんて夢にも思ってませんでした。

 幸い、クマさんは私に背を向けています。

 まだこちらには気づいていないようなので、私は物陰からそっと観察しました。

 身の丈は先輩位でしょうか、クマにしてはそんなに大きい感じじゃないです。

 でも、それでもクマはクマ、油断したらご自慢のかぎ爪で屠られてしまいます。

 まだ幸い周囲に被害は及んでいないようですが、こんな所を徘徊しているようではいつ出てもおかしくありません。

 やはり、私の手で追い払うか屠るしかないでしょう。

 そう決断して、私はクマに近寄りました。出来るだけ物音を立てず、相手に気づかれないようにするのがスニーキングミッションの基本です。

 忍び足で距離を縮め、一撃必殺で倒すのがベストでしょう。

 ところがどっこい、運は私の味方にはなってくれないようです。

 なぜか突然クマさんが私の方に振り返ったのです!

 しかも、私の存在に気づいた途端、右手を大きく振り上げたのです。もうこれは間違いなく攻撃態勢ではないですか!

「先手必勝!」

 私はクマさんの顔に突きを喰らわせます!

 しかし、相手はまるで最初からその攻撃が分かっていたかのように回避です!!

「なんと!?」

 意外と俊敏ですよ!?

 はっ、そういえば、クマは時速四〇とか六〇で走ると聞いた事があります。それを考えればこの俊敏さも納得です!

 だけど、そこで諦める私ではありません。

 一撃目が駄目なら、二撃目です。先輩を何度も倒した回し蹴りの炸裂ですよ!

 ぐわんと風を切る私の蹴りが、クマさんの脇腹を狙います。

 大木を薙ぎ倒せる一撃です、喰らえばクマさんの骨など簡単にへし折れるはず!

「あらっっ!?」

 なのに空振り!!

 クマさんはバックステップで私の蹴りをスレスレで躱したのです!

 おっと、これはなかなか高度に訓練されたクマさんだったようですね。

「やりますねクマさん! だけど、だからといって見逃す訳にはいきませんよ!」

 使いたくはなかったですけど、ここは武器を使うしかありません。

 私はシャツの袖に仕込んだ特注ミニ千枚通しを両手の指と指の間に挟んで抜き構えます。

 もう長い間使ってませんけど、腕はまだ衰えていないはず。

「とりゃっっ!!」

 腕を振るうと同時に、右手で挟んでいたミニ千枚通しが一直線にクマさんの胸元へと向かっていきます!

 けれど、これではしゃがんで避けられてしまう恐れがあります。なので、私は一撃を投げると同時に、左手のミニ千枚通しを追撃用として足下目掛けて投げつけました。

 これなら、どっちかは命中間違いなしです!

「なっ!?」

 しかし、それは絶望に終わってしまいます。

 私の攻撃に対して、クマさんは背後から取り出した立派な鮭を上下に振っただけ。

 たったそれだけの動作で、ミニ千枚通しを全て鮭の身で回収してしまったのです!

「う、うわぁぁぁぁッッッ!?」

 ……おっと、はしたない声が出てしまいました。

 でも、思わずそういう声を出したくなるような状況ですね。

 今まで色々な戦いを見聞きしてきましたけど、こんな展開は初めてです!

「こ、これなら!!」

 私は袖に仕込んだ全てのミニ千枚通しを抜き取ると、クマさん目掛けて乱れ撃ちです!

 これではいくら鮭で防ごうとしても無駄ですよ!!

 今度こそ私は勝てると確信しました。

 さあ、この攻撃をどう受けるのですかクマさん!

 しかし、クマさんは焦った様子一つ見せず、飛び上がったかと思うと、空中で私の方に足を向ける形で横になった状態になって、まるで停止ボタンを押されたかのように浮いたままになりました!

「えっ!?」

 放たれたミニ千枚通しがクマさんの足に突き刺さるかと思えば、毛と弾力のある肉球が跳ね返し、それ以外は命中せずに壁へと突き刺さりました。

 乱れ撃ちを見事に回避し、クマさんは悠々と地面に着地です。クマさん、恐るべしです。

「……ど、どうしましょう」

 じりじりと這い寄るクマさん、残念ながらもう武器での攻撃手段がありません。

 肉弾攻撃を重視して軽量化を図った自分に、ちょっとだけ失敗したと思います。

「まだまだ」

「え?」

 あれ、この声は、どこかで聞いたような気がしますよ?

 でも、その声はクマさんから直に発せられたものでした。いくら分け隔て無くお友達を作る私でも、さすがにクマさんのお友達はいなかったと思うのですが。

「キレはいい、けど力不足」

 クマさんがそう言って自分の頭に手を当てて、スポッと持ち上げると、そこから現れたのはポニーテールの色白お姉さん。

「あっ! 会長!!」

「久しぶり、書記係」

 なんと、クマさんの中から現れたのは生徒会長その人でした!

 キリッとした太眉の無表情。この方こそが、全校生徒をまとめている長なのです!

「その会長が、なぜにクマさんに……?」

「暇潰し」

「暇潰し、ですか……」

「書記係も副会長も来ない、一人だけで退屈」

 あ、ちなみに我っていうのは、会長さんの一人称です。変わってますよね。

「退屈だからって……それにしても、会長、一体どこであれだけの体術を?」

「深夜の通販」

「つ、通販……ですか?」

 最近の通販はどうやらとんでもないものまで扱っているのですね。

「黒人がやってた、楽しそう、軍隊式。我もやってみたら、こうなった」

「それ、絶対に教えてる範囲を越えた何かを習得してますよね」

 というか、ぜひとも今度観せて頂きたいです。

「いいよ、我と一緒にやろ」

「え?」

 ぐ、偶然ですよね?

「違う」

「人の心も読めるんですか!?」

「少しだけ。一日十五分、続けると色々と目覚める」

「な、なんか凄いですね……」

 まあ、それはともかく、それにしても見れば見る程、会長の着ているクマさんの着ぐるみは毛並みもなんだか良くないし、モロ作り物って感じがします。

 ううう、早計だったようです。

「書記係、早計」

「お願いですから、私の心を読まないで下さい」

「善処する」

 それに、よくよく考えたらこんな都会の真ん中の、しかも学校の中に本物のクマさんが徘徊してる方がおかしいんですよ。

「人間、失敗して強くなる。書記係も強くなれる」

「あ、ありがとうざいます。頑張って強くなります……それにしても、そういう能力があったら便利でしょうねぇー……」

 先輩の気持ちとか、ぜひとも知りたい物が一杯ですよ。

「代理で読む?」

「いえ、結構です」

「残念、我はとても残念」

 キリッとした眉を八の時にして、本当に残念そうです。

「嘘じゃない、本当に我は残念だった」

「うううう……お願いですから、読まないで下さい」

「そんな書記係に朗報」

「朗報ですか?」

「生徒会室に副会長が来る」

「えっ、先輩が!? 本当ですか!?」

 そうそう、先輩は生徒会の副会長をされているのです。

 だから、私も迷うことなく書記係となったのですが、どうやら先輩はとってもお忙しいらしく、なかなか生徒会に顔を出さないので、私もいつの間にか顔を出さなくなって半年も過ぎてしまっていました。

「この半年間、我は一人でずっと軍隊式だけをしてきた」

「ううっ……その成果が、あれだったんですね」

 そう考えると、なんだか積年のなんとかみたいなものを感じてしまいます。

「大丈夫、我は副会長と書記係を怨んでない。おかげで、こんなにも立派な肉体を手に入れた。我は書記係と副会長に感謝する」

「感謝されても、素直に喜べないですよ、会長」

「多分、もうそろそろ副会長は到着してるはず。我もあとで行く、先に行って」

「あ、もっちろんですよ!」

 久しぶりの生徒会、なんだかとっても楽しみですよ。

「本日の議題は……熊と遭遇した場合の対処法」

「……え」

「書記係の対応は分かった。副会長の対応が楽しみ……くくくくくくっ」

 無表情のままガチガチと歯を鳴らす会長、怖いです。

「大丈夫、怖くない。それよりも書記係」

「はい、なんですか?」

「コンタクトを変えた方がいい。ズレかけている上に、左右に誤差がある」

「えっ!?」

 全然そんな感じはしなかったのに……ってか、どうして会長は私がコンタクト愛用者だと見抜いたのですか!?

「軍隊式」

「……だけでは納得出来ない領域ですって」

「それじゃあ、また後で」

「あ、はい。また後でです」

 ……なんだかドッと疲れが込み上げてきました。

 まさか、会長があそこまで超人的な能力を身につけてしまっていたとは……私ももっと鍛えなければなりませんね。

 まあ、それはともかく。

 今向かうべきなのは生徒会室。

 先輩との楽しい生徒会ライフが私を待っているのですよっ!

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