第十六話「後輩消滅!?」【延 長】
彼女は、後輩。
俺の後輩だ。
「おはようございます、先輩っ!」
なんて可愛く挨拶したかと思えば、不意打ちして俺に一撃を加え、何事もなかったようにヒマワリみたいな明るい笑顔を振りまく。
それを見ると、卍固めにしようという気持ちも一瞬で消える程、その笑顔は可愛くて。
そして、可愛いだけでなく。
その存在はとてもとても、俺の中で大きく育ってしまっていると、分かった。
そう、分かってしまったのだ。
「おかえり、後輩」
長い長い時間の中を、彷徨っていたような気がします。
でも本当は、一分少々だったのかもしれません。
真っ直ぐ家に帰っていたはずなのに、なぜここに立っているのか、自分でもよく思い出せません。
もしかして、夢遊病ってやつでしょうか?
でも、たとえそうだとしても、今の私には全く問題ありません。 だって、私の目の前には、先輩が居てくれてますから。
「はい、ただいまです、先輩」
なぜそんな言葉を交わしたのか、俺には分からん。
分からんが、そう言わなければならないような、そんな気がした。
そして同時に、この小さくて可愛い生き物を、しっかりとこの両手で抱き締めてやらなければと。
「せ、先輩……!?」
「俺がお前にこんな事をするなんて、ついこの間まで想像もしなかった……しなかったが……とにかく、今だけはこうさせてくれ」
「せ、先輩……えへへへ、もちろんですっ♪」
そう言って、後輩は俺の行動を素直に受け止める。
それをどう解釈すべきか?
いちいち言葉にする必要など、なかろう。
「なんだか、凄い冒険をしてきたような気がします」
「奇遇だな、俺もそうだよ……なんていうのか、無性に疲れたな」
「ねえねえ、先輩先輩。お耳を拝借してもいいですか」
愚問だ。というよりも、許可する前から人の耳元で囁いているのだから、何を遠慮する必要があるのだ。
「なんだ? 言って……ただし、鼓膜を直接振るわせるのはなしだぞ?」
「え? ふふふ、覚えてたんですか? 大丈夫ですよ。ちゃーんと普通にお口で言いますから♪」
まて、直接振るわせる時はどこを使う気なんだ?
ますます謎が深まりつつも、彼女は俺の耳元で囁き続ける。
「こういう疲れた時はご一緒に、パフェでもいかがですか?」
「パフェか……」
「ですです♪」
「いいな。ちょうど甘い物が喰いたかったんだ」
「それはまた奇遇……いえいえ、もうこれは奇跡ですね♪」
ああ、この笑顔。
この笑顔なんだ。
このひまわりみたいな輝く笑顔に、この俺は墜ちてしまったのだ。
「ねえねえ、先輩。今ここで読み終わったら、この物語ってとっても綺麗なエンドだと思いませんか?」
「は? どういう事だ?」
「ふふふ、なんでもありません。なんとなーく、そう思ったんです♪」
「なんだそりゃ?」
まったく変な後輩だ……いや、変なのはいつもの事か。
だが、変でも俺は構わない。
それが後輩……俺の後輩なんだから。
「せぇーんぱいっ!」
ギュッと痛いくらいに俺の腕に絡みつく後輩。
「んっ、後輩、ますます腕の力が強くなったんじゃないか?」
「えへへっ、分かりますか? さすが私の先輩ですね♪」
一体この細っこい腕のどこに、これだけのパワーを秘めているのだろうか。
「だが、そんなのは些末な事だな」
「ほぇ? どうしたんですか先輩?」
「いや、なんでもない。後輩の事を少しばかり考えていただけだ」
「ええっ、私の事ですか!? なんですか!? 何を考えてたんですか先輩-!?」
「ふははっ、それはな……秘密だ!」
「えええーっ! そんな事言わずに教えてくださいよ-! 先輩~! 先輩~~っ!」
まさに謎。
乙女とは、まさに謎な生き物なのである。




