表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/32

第十五話「後輩消滅!? 10」【本番当日】

「あの、その時計……」

「ん? これがどうかしたのか?」

 彼女が興味を示したのは、あの置き時計だ。

「いえ、その、それ、私の持っているのと同じだな~っと思って」

 そう言いながら差し出したのは、確かに俺の持っている置き時計とほぼ同じ……いや、そんなレベルじゃない。

「なんだよ……今、この置き時計って流行なのか?」

 短針の曲がり方まで完全に一致しているって事は、元々そういうデザインなのか?

 しかし、そんな事よりも俺が気になるのは……。

「なんでこれも時間がズレてるんだよ……何の為の時計なんだ?」

 そう、この置き時計も時間がズレているのだ。

「時間合わせてやるから、ちょっと貸してくれないか?」

「え? えっと、あの、その……は、はい……」

 怖ず怖ずと彼女が差し出す時計を受け取ると、俺は今度こそ一発で時間を合わせた。

「ほら、これで正確な時を刻む事が出来るぞ」

「あ、ありがとうございます……先輩」

「……先輩?」

 なんだ、何なんだ、このとても懐かしい感じは……。

「先輩? どうしたんですか?」

「い、いや……なんでもない……」

 心配そうに、彼女が俺の顔を覗き込む。

「そういえば、おま……いや、君の……君の……いや、貴女の名前は……?」

 そう言いながら時計を差し出すと、彼女は一瞬躊躇ったが、恐る恐る手を伸ばす。

 だが置き時計に手が触れた瞬間、彼女の細い手先がまるで砂のように崩れ始めた。

「私ですか? 私は……私の名前は」

 手先から手首、二の腕、肩、全身へと順番に崩れていく。

「ま、まて、崩れるな!!」

 必死に止めようとする俺を無視して、彼女は崩れていく。

「待ってくれ! 行くな! まだ行かないでくれ!」

 聞きたい事がまだ山ほどある。

 彼女なら、きっと知っている。

 彼女なら、俺の知りたいことも、知らないことも。

 彼女なら……彼女なら……彼女と一緒なら……!!

「頼む! 頼むから……頼むから……っっ!!」

 名前……彼女の名前はなんだ……!?

「ぱい……だ……い……」

 彼女の崩壊は止まらない。

「っっっっっっっ!!」

 彼女の名を叫びたくても、俺の喉は震えるだけで言葉にならない。

 誰か……神でも悪魔でも宇宙人でも誰でもいい!

 救いを……!

 この子を……この子を救う救いを与えてくれ!!


「   帰   っ   て   来   い   副   会   長   !!  」


 突然脳裏に響く会長の声と共に、目の前が白む。

 続いて恐ろしい鈍痛が全身を駆け抜け、俺は思わず肺の空気を全て吐き出した。

「ふごっ!?」

「大丈夫か?」

 視界が元に戻った時、目の前に居たのは会長だった。

 俺は仰向けにされていて、会長の背後には青い空が見えていた。

「あの、一体、何を俺に?」

「倒れてたから、気付けをした」

「倒れた? なんで?」

「それはこっちの台詞」

 上半身を起こして周囲を見渡すと、そこは学校の校門。

 そうだ、後輩に抱きつかれて、トイチカメラのバイトと会った場所だった。

「トイチカメラ……写真!」

「写真?」

「ほら、トイチカメラから届けられたダゲレオ写真ですよ!」

「ダゲレオ写真? 副会長、なかなか古いのを知ってるな」

「何言ってるんですか、会長が教えてくれたんでしょうが!」

「教えた? 我が?」

 胸騒ぎがする。

 何か、何か嫌な事が起きている様な。

 俺はすぐに起き上がって生徒会室へと向かった。

「……ない」

 あの写真がない。

「なぜだ? なんで無いんだ?」

 棚や引き出しを調べても、見つからない。

 大体、あんな大層な額縁に入ったものを、隠せるはずがないのだが。

「……嘘だろ」

 まるで最初からそこにはなかったかのように、写真は忽然と姿を消していた。

「あの写真は一体何だったんだ?」

 結局、何も分からないまま、俺の前から全て消えてしまったのだ。

「俺は一体、何に奔走してたんだ?」

 いや、これはこれで認めるべきなのかもしれない。

 人は常に何かを忘れる生き物だ。

 忘れるからこそ、新たな事を得る事が出来る。

 不器用な生き物なのだから。

 それは、認めなければならない。

 自分で認められなくても、諦めなければならない事もあるのだよ。

「疲れたな……ひどく、疲れた」

 帰ろう。

 なんだか、色んな事がありすぎた。

 とにかく、眠りたい。

 その気持ちだけが、俺の身体を突き動かしているようだった。

 俺は再び校門を目指した。

「副会長、捜し物は見つかったか?」

 会長はまるで俺を待っていたかのように、校門の前で仁王立ちしていた。

「いえ」

「何を探してた?」

「女の子……一人の女の子です。だけど、見つかりませんでした」

「副会長、諦めるのか?」

「いや、違います」

「違う?」

「最初から居なかったんだ。それに、いつまでも何かを追ったり探すのは、俺の性分ではない」

「副会長、違う」

「違う? 何が違うっていうんだよ?」

「諦めない心、奇跡を呼ぶ事もある」

 だとしたら、今回は呼ばないパターンだな。

 現に、奇跡なんて何一つ起きてないんだからな。

「最期まで、分からない」

「どうだか」

「振り返ると、現れる奇跡もあるかもしれない」

「そんな都合良い話があるわけないだろ」

「遅刻する奇跡もあるかもしれない」

「どんな奇跡だよ」

「後ろに居る」

「……え?」

 会長の言葉を真に受けて、俺は振り返ってしまった。

「副会長、ヒント出してるのに、気づかない。面白くて仕方なかった」

 そう、彼女だ。

 あの写真で見た彼女が、目の前に居る。

 彼女を見た途端、俺の涙腺は壊れてしまったかのように、涙が止まらなくなっていた。

「副会長、ボロ泣き」

「ええ……泣いてますね。でも……今はすっげぇ泣きたいんです」

 やっと会えたという安堵が、俺の胸をいっぱいにする。

 今さらながら、俺は誰を捜していたのか思い出した。

 彼女もまた、俺を捜していたんだと気づいた。

 一歩、俺が前に出る。

 すると真似するように彼女も一歩前に出る。

 そうして、お互いの距離は縮まっていく。

 彼女は照れくさそうに笑っていた。

 俺も照れくさく笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ