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第十五話「後輩消滅!? 8」【本番当日】

 いかんいかん。

 どうやら、疲労で記憶の混乱まで起きてるようだ。

「俺もすっかり柔になってしまったな」

 今日はちょっと早めに就寝することにしよう。

 そう決意して角を曲がると、電柱の脇で腹部を押さえてしゃがみ込む人の姿が目に入る。

「ん? なんだ……?」

 それだけなら、酔っ払いかコンタクト紛失者だろうと無視を決め込むのだが、視界に入った相手の容姿は、明らかにおかしい。

 尻からは、ヤジリの如き鋭利な尻尾が垂れるし。

 しかも、頭には羊のような角を生やし、脇には三つ又を抱えていた。

「おい、そこの方」

「お、俺か?」

「お前以外に該当する人物がいるか?」

 残念ながら皆無だ。

「で、なんだよ?」

「お前、正露丸持ってないか?」

「は? 正露丸?」

「実は、帰りに立ち寄った先でケーキ屋で片っ端から喰っちまって」

「そりゃまた、随分と食べたもんだな」

「持ってないか?」

「待ってろ」

 確か鞄の常備薬入れに、何錠か入ったケースがあったような気がするが。

「あったあった。ほらよ」

「おう、かたじけねえ」 

 受け取った男は目を輝かせて、俺の正露丸を奪い取る。

「それじゃあ、遠慮なく」

「おいおい、一気かよ」

「かぁーっ! やっぱりコレだな!!」

「くさっ!」

 強烈な正露丸臭に、俺は思わずのけ反った。

「おいおい、大袈裟な野郎だな。失礼だと思わないのか?」

「自分の口臭を嗅いでから言ってみろよ……ってか、お前は何者なんだ?」

「俺様か? お前、それって愚問だろ。俺様の格好見て一瞬で分かるだろ?」

「コスプレ狂か?」

「ちげぇーよ!! 全然ちげえよ!!」

「じゃあ、何なんだよ。悪魔か?」

「なんだよ、分かってんじゃんか」

 まさか、本気で言ってるのか?

「おうよ、その本気だ」

「なんで俺の思ってる事を?」

「だから、俺様は悪魔だって言ってるだろうが。普通の人間に、こんな芸当が出来ると思うか?」

 自慢げに胸張っているところを恐縮だが、一人だけ当たりがいるぞ。

「呼んだ?」

 ほら、登場しなすった。

 一体どこに潜んでいたのやら。

「違う、副会長。我を呼んだ、だから来た」

「まあ、それに近いかもしれないですけど。差引しても速過ぎですって」

「音速を目指す」

「いや、目指さなくてもいいですよ」

 会長なら本当に出来そうだから油断ならん。

 そして、頼むからこれ以上人間離れな進化を遂げないでいただきたい。

「副会長、さっきの探索は成功したか?」

「いや、色々と見つけましたけど、決め手はなしですね」

「残念」

「おいこら! お前らだけで話を展開するんじゃねーよ!」

「副会長、この悪魔は?」

「ほらみろよ! 一目で悪魔だって認識しただろ? これが普通の反応なんだって。お前が異端なんだよ!」

「食い過ぎで倒れてる所を正露丸で助けたんです」

「おぉいぃっ! また無視かよ!?」

「おお、副会長は良い奴」

「いや、それほどでも……あるかな?」

 とはいえ、悪魔を救った所で何もメリットはないんだがな。

「悪魔」

「何だ、下賎なる牝よ」

「副会長は内心で、恩返しを所望している」

「は?」

「あと、我は牝ではない」

「牝は牝だろ、性別的に見りゃあ俺様は何も間違ってないぜ? それとも何か? 実はお前は野郎だったってオチか?」

「違う。我は、歴としたレディ」

「なら牝でいいだろ」

「訂正せよ、あと謝罪」

「やだね」

「よろしい、ならば体育館裏に集合だ」

「ちょ、ちょっと会長!?」

 何不吉な会話を交わしてるんですか!

「この侮辱は、万死に値する」

 なんか、会長の周りにどす黒いオーラみたいなのを感じるのは気のせいか?

「おっと、どうやらなかなか出来るようだな。久しぶりに俺様も本気を出せそうだぜ」

 なんで二人だけでバトル漫画みたいな展開を繰り広げてるんだよ。俺だけ一人ぼっち置いてけぼりなんだが。

「副会長、安心しろ。存在は忘れてない」

 会長、なんで勝手に人の心をナチュラルに読みとってんだよ!?

「毎日十五分」

 またそれか!! もうその展開には飽きたよ!!

「副会長はワガママ」

「いや、ワガママとはまた違う気がするんですが」

「とにかく、副会長は悪魔を助けた。悪魔は副会長に恩返しして、当然」

「確かに一理はあるな。よし、なら俺はお前に一つアドバイスしてやろう」

「アドバイスだと?」

「お前が必死に捜し求めてる物に関してだよ」

「知ってるのか!?」

「いんや、知らないな」

「だったら、何をアドバイスするっていうんだ?」

「簡単だ」

 悪魔は俺の肩を叩いた。

「諦めちまえ」

「は?」

「悪いが、コレはお前には見つけられるようなもんじゃない。だから諦めろ」

「ちょっと待てよ」

 確かに、薄々は俺も感じていたが、そこまでストレートに言うなよ。

「いや、言うね。俺様は断じて言うね」

「諦めて、俺にメリットはあるのか?」

「ああ、少なくとも時間の浪費は防げるな。そんな見つかりもしない女を捜すよりも、手近な女を捕まえて腰振った方がずっと青春を謳歌出来ると俺様は思うぜ?」

「そんな事はず……」

「いーや、これ以上頑張って何も良い事ないって、それよりも何か悪い事でも企もうぜ」

「その発想はどうかと思うが」

「副会長、アドバイス、無視」

 いや、最初から真に受ける気など毛頭にないんだが。

「所詮は悪魔、無責任アドバイス」

「はっ! 無責任なのはどっちだ!?」

「黙れ悪魔!」

 会長、だから、なんで身構えてるんですか?

 なんで悪魔の方も身構えてるんだよ!?

「ここは引き受ける。副会長は、己の信じる道を貫き通すと良い!」

 そう言って、会長が俺に何かを投げ渡す。

「会長、これは?」

 それは古い置き時計だった。

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