第十五話「後輩消滅!? 7」【本番当日】
しばらく探索を続けてみたが、あの布以外にめぼしい物は見つからなかった。
とりあえず、帰り際にはドアノブとチャイムについた指紋は消しておく事としよう。
「これで俺がこの家に入ったという証拠はほぼ無くなったはずだ……」
だが、これからどうするべきだろうか?
家の持ち主を捜すのが一番なのかもしれないが、どこに訊くのが一番だろうか?
「あらんらぁ~っ? 新井さんの奥さん、見てごらんなさいよ」
「あらあら、誰かしら、見かけない子よね?」
振り返ると、そこには買い物籠を手にしたオバ様が二人が俺の方を指さしている。
ご近所の噂話というのも、良い情報源になるかもしれない。
「あらあら、こっちを向きましたよ?」
「無視よ、新井さんの奥さん、最近の子供はキレると何をするか分からないんですのよ」
「あらあら、怖いわねー、怖いわねー」
それにしても人の事も知らず、見事に言いたい放題言ってくれるものである。
「あの、すいません」
「きゃ~っ! キレた若者が話しかけて来ましたわよ新井さんの奥さん!」
「あらあら! どうしましょう! 私達も刺されるのかしら!?」
言ってる割には、目を輝かせてるのは俺の気のせいか?
ともかく、こんな相手でも何か情報を得られるかもしれないので、交渉を続けてみよう。
「ちょっと、お訊ねしたい事が」
「何その口調、探偵か刑事さんのつもり?」
「いや、そういうつもりでは……この家についてなんですが」
「この空き家の事?」
「空き家? え? ここ、空き家なんですか?」
「そうよ? もうかなり前からじゃないかしら、ねえ新井さんの奥さん?」
「そうねぇ、かなり前だった気がするわね。いつからかは忘れたけど。不思議よねぇー」
「そうそう、不思議よねぇ~」
これ以上は無駄だな。
「せんぱぁぁーいっ、こんな所でなぁーにしてるのよ?」
背中にくっつく胸の感触。
「今度は後輩か」
「何よ、その言い方」
こんな大胆なアプローチをかけてくる相手など、一人しかいない。
「相手してもらえなくて寂しいからって、私に会いに来たんだろー?」
「後輩の家ってこの近くだったのか?」
「そだよ? って事は違うんだ?」
「ちと人を探しててな」
「人をぉ? なんで先輩が?」
「いや、それが……分からんのだが……とにかく、見つけねばならない気がしてな」
「理由も分からず人捜しねぇ、で、その人の名前は?」
「それが……分からんのだ」
「ええっ、理由も分からず、名前も分からず? いくらなんでも、そんなの冗談だよね?」
「いや、それが結構マジなんだよな」
全く、馬鹿な話だと俺も思う。
「まあ、新井さんの奥さん、見てごらんなさいよ。あのべったり具合」
「あらあら、大胆ねぇー。でも今時の若い子はあれ位じゃないとねぇー」
「後輩、とりあえず場所を変えようか」
とりあえず、これ以上オバ様方の前で、いや、公衆の面前でこんな所を見られるのはよろしくない。とか言って、別に人目のないトコでどーこーするつもりは毛頭にないが。
「はいはい、分かったわよ」
俺は後輩を背負った状態で、近くの公園へと向かった。
ってか、いつまでくっつくつもりだよ後輩!
「もう、ケチだなぁ」
「ケチで結構。そうだ後輩」
「何よ?」
「この指輪に見覚えないか?」
「指輪ぁ? どこどこ?」
興味津々の後輩に、俺は小指の指輪をそっと差し出した。
しばらくマジマジと見つめたり、触れてみたりした後、後輩は両腕を組んで複雑そうな顔をして溜息を漏らした。
「うーん、見た事ないなぁ。でも先輩って指輪するんだね。新発見にビックリだよ」
「いや、俺もその辺には驚いてるんだが」
「で、この指輪が一体どうしたの?」
「作った相手を探してるんだ。ほら、ここにイニシャルが彫ってあるだろ?」
「イニシャル……あ、本当だ」
「後輩の知り合いに、同じイニシャルの子とか、知らないか?」
「先輩……もしかして、これって私に対するイジメのつもり?」
「は?」
「私が先輩の事好きなの知ってるくせに、わざと嫉妬させようって魂胆でしょ!?」
「……馬鹿かお前は」
「でも耐えてみせる! 先輩の名に賭けて!」
勝手に人の名前を賭けの対象にするんじゃない。
「まあ、知らないならいいんだが」
「で、一体どこのどなたにもらったのよ?」
「いや、それを知りたいのは俺の方なんだよ」
「何よそれ、なんだか謎が謎を呼ぶ事件ね」
「いや、事件じゃないから」
それにして、今日はやたらと妙な出来事に遭遇する日だ。
後輩と別れ、俺は自宅に向かって歩いていた。
すっかり夜である。
普段ならとっくに家で寛いでいるというのに、俺の身体はボロボロだ。
これも全て、あの写真の女の子が原因である。
一体、あの子は何者だ?
俺の心をかき乱す、あの子は何者なのだ?
なぜ俺はあの子の事を考えると、ここまで落ち着かないのだ?
その原因を考えれば考える程、さらに冷静さを失い、ますます落ち着かなくなる。
何としてもあの子と一度会って、この悪循環を断ち切らなければ……。
「しかし、どうやってだ?」
これだけ捜索したにも関わらず、手に入った情報の乏しさに辟易する。
随分と俺も落ちぶれたものだな。情報収集なぞ前は即日には完遂していたぞ。
例えば後輩がカルチャースクールに通ってた時など……ん?
「なぜ後輩が、カルチャースクールに通ってたんだ?」
通ってたのは広瀬先輩のはずだぞ?




