第十五話「後輩消滅!? 6」【本番当日】
まあ、そこは出たトコ勝負だ。
俺の華麗なるアドリブでなんとか解決してみせよう、と待つ事十分。
「……留守なのかな?」
念のため、もう一度チャイムを鳴らしてみるが、反応がない。
おいおいおい、ここでまた暗礁に乗り上げてしまうのか?
「……スニーキング能力でなんとかならないかな」
例えば、鍵穴に冗談で針金を入れて回したら鍵が開いたりとか……したよ。
「え、何だこれ!? スニーキング能力の賜なのか!?」
「ザッツ・ライト」
「会長!?」
またスニーキングか!?
念の為、周りを見渡しても会長の姿はない。
気配を消してるのか?
「会長? どこなんですか?」
「副会長、我を探しても無駄」
「一体、どこにいるんですか?」
「この声は能力作動時、自動的に流れる仕組み」
「……なんでもありだな」
「副会長、どんな時に、能力を使ったのかは知らない。けど、きっと役立ったはず」
「まあ、確かに役には立ちましたけど」
悲劇の十五分の成果が、こんな所で発揮されるとは……もうちょっと派手な活躍を期待したのだが、スニーキングって隠密行動って意味だし、これが普通なのか。
「もしもまた使いたければ、来ると良い。毎日十五分しよう」
「いや、もういいです」
「最初の三ヶ月だけでいい、加入してくれたら洗剤をおまけで付ける」
新聞の勧誘かよ。
「我は、君の入隊を待っている」
今度は軍隊かよ。
「あと、このメッセージは、自動的に記憶から消滅する」
「は?」
ぶつっ。
「……あれ? 俺、何してたんだっけ?」
誰かと会話をしていたような気がするんだが。
一体誰と会話をしてたんだっけかな……まあいい、それよりも今はこのドアが先だ。
「運良く鍵が掛かってないとかないかな……?」
しかし、そんな都合の良い事なんてそうそう……あったよ。
「こんな展開で、いいのか?」
とはいえ、有り難い。この際、細かい事は気にせず行動を続けるとしよう。
そう決めると、俺はそっと家の中へと入ってみるが、人の気配はない。
「すいませーん」
念のために玄関から奥に向かって声をかけてみるが、返答なし。
「お邪魔しまーす」
俺は意を決して靴を手で持って、玄関から一番近い部屋に移動してみた。
中はタンスや机などの家具が設置されていて、一応人が住んでいた形跡は見受けられる。
「ここは……キッチンか」
隣は先の部屋より二回り大きく、豪勢なシステムキッチンとダイニングテーブル。そして、皿には出来たてのマッシュポテトが山のように盛られていた。
「夕飯か?」
流しに置かれたカップには、飲みかけらしい珈琲が湯気を立てている。
本当に、ついさっきまで誰かが居た様な状況なのだが、誰もいない。
「マリーセレスト号かよここは」
もしかして、俺、何か拙い所に来たんじゃないのか?
陽も傾いてきた事だし、逃げるなら早めの方がいいと思うのだが。
「いや、せっかくだ、もう少しだけ探索するか」
もしもの時は会長から仕込まれた、スニーキング能力で逃げ通してみせよう。
他の部屋も調べてみるが、やはり誰かがついさっきまで居ただろう形跡だけが残されていた。
「この家で、一体何が起こったんだ?」
三階にやって来た俺は、手始めに階段から一番近い部屋に向かってみる。
「ここも名無しか」
ドアプレートには「ちゃんの部屋」と書かれていた。
予想はしていたが、ちゃん付けする所からして、どうやら女の子の部屋らしい。
ドアを開けると、中はぬいぐるみや可愛らしい小物が鎮座し、勉強机には見覚えのある教科書が並んでいた。
「これって……もしかして、俺と同じ学校の?」
間違いない。俺が学校で利用しているのと全く同じ教科書だ。
となると、この部屋の主は俺と同じ学校の人間なのか?
あまり乙女の部屋を物色はしたくないが、こちらとしても何かの手掛かりが欲しい。
「もしも同じ学校の人間なら、学生手帳の類がどこかに……」
試しに勉強机の引き出しを開けてみると、そこには丁寧に畳まれた布が出てきた。
「この布は……?」
はて、どこかで見覚えがあるような。
う ぇ る か む ☆ 先 輩 ! !
その時、俺の脳裏に生徒会長の「不況」と同じように、文字が過ぎった。
「な、なんだ? 何なんだこれ?」
震える手で布を広げると、脳裏に浮かんだ文字と全く同じ刺繍が、俺の目の前に現れる。
こ、これもスニーキング能力の副産物なのか?
いやいや、そんなんじゃない。
俺は一度、この布を見ている。
だから、この布に何が書かれているのか、俺は知ったんだ!?
だが、どこだ。
どこでこれを見たんだ?
「最近? それとも遙か昔か……?」
布が真新しい所からして、それ程昔ではなさそうだが……いつ見た?
どうして俺は、この布を見ることになったんだ?
経緯が全く思い出せない。
「……なんだ、この妙な感じ」
なぜ俺はこの事を忘れてしまっていたんだ?




