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第十五話「後輩消滅!? 3」【本番当日】

 そんな妙な事があった帰り道。

「後輩君?」

「あ、広瀬ひろせ先輩。病院帰りですか?」

「え? あ、う、うん、よく分かったね?」

「ええ、まあ。初歩的な推理ってやつですか」

 ただ単に、真新しい処方箋が握られているし、先輩の身体的特徴から、そう推理しただけなのだが……当の本人はとても驚いていた。

「後輩君、名探偵になれるんじゃないの?」

「まさか、いくらなんでも無理ですって」

 毎度思うが、広瀬先輩は何事も大きく飛躍する癖がある。

「後輩君なら出来ると思うよ。推理力だけじゃなくて、サバイバルの知識とかも豊富だし」

 はて、いつそんな能力を先輩の前で発揮しただろうか?

「ほら、覚えてる? 前に一緒に雪山で遭難した時の事」

「雪山で……遭難?」

「ええっ、覚えてないの?」

「いや、覚えてる、んですけど」

 そう言われてみると、確かに前に一度そういう事があったような……しかし、あれは先輩と一緒だっただろうか?

「一緒にスキーに行ってる時、凄い雪崩が起こって、一緒に飲み込まれたでしょ?」

 雪崩は覚えてる。

 雪山に来て早々に雪崩に巻き込まれて、俺は先輩を抱えて洞窟に避難したんだっけ。

「あの時は、私、もう駄目かと思ったけど、後輩君がすごく励ましてくれて……」

「あ、ああ……」

 手持ちの道具で火を起こして、救助が来るまでの間、寒がる先輩に自分のスキーウェアを着せて励ましたのだ。

 そうだそうだ、確かそんな流れだったはず……だが、なぜか妙に引っかかる。

「どうしたの?」

「いや、なんでもないです」

 だが、その引っかかりの原因が一体何なのか分からない。

「ふふっ、変な後輩く……けほけほ」

「先輩!?」

 ほぼ条件反射のように、俺は広瀬先輩の背をさすっていた。

「あ、ありがとう……ふぅ」

 少しずつ咳は弱まり、すぐに元通りになっていく。

「そういえば、後輩君って指輪するようになったんだね?」

「指輪? 何を言ってるんですか?」

 基本的に装飾品類は身につけない主義なのだが。

「だって、さすってくれた手に、硬い感触があったよ?」

「え?」

 そう言われて自分の手を見てみると、確かに左の小指にガラスで出来た指輪が装着されているではないか!?

「変だな、こんなの着けた覚えないのに……」

 それにしても、混沌とした色合いだ。一体、どういうセンスを持ってすればこんな奇っ怪な彩色を作り出せるのだ?

「それ、駅前デパートのカルチャースクールで作ったやつ?」

「カルチャー……スクール?」

 はて、そんな所に縁があっただろうか。

「ほら、指輪にイニシャルと日付が彫ってあるでしょ?」

 そう言われて見てみると、確かに指輪には俺の誕生日とイニシャルが彫られている。

 しかし、俺のはともかく、もう一人のイニシャルはなんだ?

「あそこで使ってるのと同じフォントだから、そうだと思ったんだけど……違うのかな?」

「いや、ちょっと分からないんですよ」

「そうなの?」

「ええ、指輪をしてた事も今気づきましたし」

「え、何それ。変な後輩君」

 楽しそうに笑う広瀬先輩には悪いが、俺は完全に上の空になっていた。 

「あそこの先生、小説家の先生なんだって、素敵だよね」

「え、そうなんですか? それは凄いですね」

 何かがおかしい。

 放課後が始まってから、起こる事全てがおかしい。

 あの瞬間から、何かが変わってしまったとしか思えない。

 だが、一体何が?

 何が変わってしまったというのだ?

「ねえ、後輩君、どうしたの?」

「あ、いや、なんでもないです。それじゃあ、先輩、また明日学校でお会いしましょう」

「え? あ……うん、わかった。また明日ね」

 強引ではあるが、俺はこうして別れると、一人で帰り道を歩き始める。

 広瀬先輩には悪いが、ちょっと考える時間が欲しかった。

「何かが起こっている。それは間違いではない」

 そういえば、この指輪も謎だ。

 自分から買ったり、身につける性格ではないのは自分自身がよく分かっている。

 だとすれば、これは誰かから送られたモノという事か?

「手掛かりは、カルチャースクールか」

 もしかすると、この指輪の制作者が分かるかもしれない。

 俺はすぐさま、駅前のデパートへと足を運んだのだが……。

「いったい、これは何の行列なんだ?」

 普段なら駅前のくせにあまり繁盛していないデパートなのだが、今日に限ってはなぜか入り口から長蛇の列が出来ていて、異様に賑わっていた。

 しかも、列だけでなく、その列を見ようとする野次馬まで集まっていて、中は混沌たる状況になっている。

「とにかく、上に行かねばならないのに……これだとなかなか進めないな……」

 人混みをかき分けながら、徐々に入口へと進んでいく俺。

 しかし、進んでも進んでも人が途切れる様子がない。

「まったく……一体何がこのデパートに人を呼び込んでいるんだ?」

 謎を究明するべく、俺は近くに立っている男に声をかけた。

「あの、すいません。何の行列ですか?」

「何ってサイン会ですよ、サイン会」

 鼻息荒く答える男の手には、なんとも立派な装丁のハードカバーが一冊。

 そこで初めて、俺は行列に並んでいる人全員が同じ本を持っている事に気づいた。

「あの小林賢太大先生が来てるんだよ!」

「小林賢太?」

 はて、どこかで聞き覚えのある名だが、誰だっただろうか。

「アンタ、知らないのかい? あの、超ベストセラー作家だよ!?」

「ほう、ベストセラー作家がこのデパートに?」

 この出版不況と叫ばれる昨今に、ベストセラーとはまた見事なものだな。

 俺は小説を書いたりしないので、その辺の詳しい事まではよく分からないが、脳内妄想を文にしてうん百万も稼ぐというのだから、なんとも夢のある職業である。

「あのさ、そろそろ行ってもいいかい?」

「あ、ああ、引き留めてすいません」

 俺は立ち去る男に一礼をし、とりあえずデパートに入る事にした。

 一応、サイン会に並ぶ人と普通に来店した人用に通路を分けているのだが、道路の線引きが明らかにサイン会の人優先のような引き方となっていて、肩をすぼめて通らなければ通れない状態。

 下手すると、サイン待ちの人に横入りだとクレームをつけられそうな程の狭さだ。

「それにしても、見事な人気だな」

 行列の隙間から作者の顔を伺ったが、温厚そうな雰囲気を滲み出した顔立ちである。

 これだけ多くの人の心を鷲づかみにするのだ。

 きっと、心暖まるハートウォーミングな作品を書いているのだろう。

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