第十五話「後輩消滅!? 1」【本番当日】
「せんぱぁぁーいっ!」
放課後の校門前。
いつもと変わらぬ後輩の声に、俺はとっさに身構えた。
キックか、パンチか、それとも別の攻撃か!?
ぽみょん。
「ん……?」
「もうっ、冷たいなぁー。もっと驚けよぉー」
今回やってきた衝撃は、今までに感じたことのないものであった。
なんだ、これは、新手の攻撃か?
だが、なんだ、この微妙に胸がときめく感じは……そう、これは遙か昔、俺がまだ幼き頃に感じた覚えのある優しき感触。
「これは」
間違いない、これは胸の感触である。
「こ、後輩。お前、む、胸が……当たって!!」
しかも、結構なボリュームを誇っている。
「なんだよなんだよ。いつものスキンシップじゃん? もう何年もしてるのに、今さら何を恥ずかしがるんだよぉ?」
それはそうかもしれないが、これ程に見事な胸を問答無用に押しつけるのは、健全な男子には刺激が強すぎるので、やめていただきたい……が、言って離れる後輩ではない。
毎回毎回、俺はこのなんとも見事でたわわな胸に翻弄されて……されて……胸だと? はてさて、後輩の胸とはこれ程までに立派なモノだったであろうか?
「いや、しかし、あの声は確かに後輩の声だったはず」
「なになに、どうしたの?」
俺の顔をのぞき込む顔は、確かに後輩であった。
それにしても相変わらず、見事なツインテールと誰もが羨むナイスな胸を保有しているにも関わらず、微妙に残念な顔立ちだ。
俺的には、豊満な胸よりもヒマワリのような笑顔を振りまく女の子の方が……ん?
「……妙だな」
「え? なにが?」
目の前にいるのは、後輩だ。
それは……間違っていないはず。
しかし、何かがおかしい。
なぜこれ程までに違和感を感じるのだ?
「どうしたの、具合でも悪いの?」
「いや、なんでもない」
だが、こうして心配そうにのぞき込む後輩には悪いが、彼女の顔を見れば見る程、俺の中で生まれる違和感は強くなる。
「変な先輩」
「だな、確かに俺もそう思う」
「じゃあ意見が一致したってことで、今から喫茶店でお茶でもどう?」
「お茶だけか?」
「今ならセットで買い物もついてくる」
「要は荷物持ちが欲しいだけだろ?」
「ご名答。もちろん、来てくれるでしょ?」
「はっはっはっ、ふざけるな」
「うわっ、酷い! それでも先輩なの?」
「好き好んで荷物持ちなんぞに身を落とす気など微塵もない」
「ケチ」
「ケチで結構。金持ちへの第一歩とは、無駄な浪費を止める事からだからな」
「ふーんだ、いいよーだ。もう先輩なんか誘ってやらないんだから」
「ああ、それで結構」
毎回そう言って、コロッと忘れたように来るくせに。
後輩の行動パターンなんぞ、すでに俺の脳内で完全にインプットされているのだ。
「ふーんだ! あとでごめんなさいって土下座しても、許してやんないんだからね!」
「分かったから、早く行け」
「いーだ!」
それにしても、成長の欠片もない後輩だ。
いつもと全く変わらぬやり取りを交わしつつ、後輩は校門を潜って外へと飛び出す。
そう、いつもと同じやり取りだ。
しかし、何だろう。この妙な違和感は……。
言葉では言い表せない、なんとも奇妙なこの感覚。
とはいえ、文字媒体で表現出来るかと言えば、これもまた不可能だ。
痒い所に手が届かないというような、喉まで出かかっている言葉が出てこない感じというような……とにかく、むず痒いというのが一番近いだろうか。
「あのー、すみません」
振り返ると、そこにはエプロンの肩掛けが片方だけ外れ、なんとも覇気のない顔付きをした男が小包を両手で抱えながら、俺の方を見ていた。
「俺に何か用ですか?」
「トイチカメラなんですけど、生徒会にお届け物に来たんです……」
「お届け物? 中身は?」
「写真です。もうかなり前の物ですけど、材料とか技術者の関係でずっと作業が遅れてしまって……本当に、申し訳ありませんでした。と、店長が申してました」
写真の割には、妙な単語がいくつかあったような気がするが、気にしない事にしよう。
人間はこういう類を気のせいだと思う事で、危機を回避したり悪化させる生き物なのだ。
後者でない事と祈りつつ、俺は生徒会室までこの男をお連れする事にしたのである。
「会長、お客さ……んが来てるんだけど。居ないな」
見事なまでの無人っぷり。
「はてさて、どうしたものか」
「あの、貴方でいいんで、受け取りのサインだけでももらえます?」
「それでいいのか?」
「ええ、こっちはちゃんと届けてサインさえもらえれば、後は写真が崩れようが何しようが知った事でないので、と店長も申してますし」
なんとも無責任な店長である。
「貴方はそれでいいと思ってるのか?」
「ええ、いいんじゃないですか? どうせオレ、バイトですし」
なんとも酷い返答である。
上がそんなのだから、部下もこうなるのだろう。なんとも嘆かわしい。
「あのー、サインしてください」
「分かった分かった。ここでいいんだな?」
結局、俺は渋々ペンを受け取り、サインして荷物を受け取る事となった。
多分、委員長か書記係が注文したのだろうが、こういうのが来るのであれば、しっかりと部屋で待機して頂きものだ。
「毎度ー。あ、そうそう、その写真は壊れやすいんで、丁寧に扱ってくださいね。と店長が申してました」
「壊れる?」
そういえば、先程も“写真が崩れようが”とも言っていたが……一体どういう意味だ?




