第十四話「後輩消滅!? 6」【前夜祭】
今度の出現先は、マイベッドの中です。
「おや? 変ですね」
今までは必ず外だったのに。
今回はマイルームからスタートですか?
「はふぅ、それにしても、久しぶりのような気がしますね。このふかふかお布団の感触は……」
そうですよ、あれからずっと走りっぱなしだったから、さすがの私もすっかり疲労困憊ですよ。
「いやいや、その前にもしかしたら、夢オチなんて事はありませんか?」
そうですよ。
その可能性は否定出来ません。
大体、よくよく考えてみたらとんでもなく荒唐無稽な話じゃないですか。
時計をぐりぐり回したくらいで、自分の存在が消えるなんて。
「ふふふ、なーんだ全部夢だったんですね」
それなら、今までの展開も納得ですね。
「ふわぁぁ~……それにしても、安心したら急に眠くなってきちゃいましたね」
もうたっぷり眠ったかもしれませんけど、眠いと思うと言うことは、まだ私の身体にとって睡眠が不足しているという証なのです。
「じゃあ、あと五分だけ、五分だけ……」
そう思って、うとうとし始めた頃。
――ジリリリリリリリリリリリリリリリリィ!!!!
突然、脳天直撃の騒音が部屋中に鳴り響き、私は慌てて飛び起きます。
「うー……なぜに目覚ましが……?」
どうやら騒音の原因は、枕元に置いていた目覚まし時計でした。
「なんだ、まだ半ですよ……?」
おかしいですね。
いつもセットしている時間よりも少し早いじゃないですか。
「なんでこの時間帯にセットしたんでしょう」
入学したての頃ならまだしも、もう一年以上通ってるのですよ?
遅刻しないで通えるパターンは、とっくに身体に染みついてるはずなのに。
「うーん、まあ夢の謎さ加減に比べれば、これくらいのミステリーなんて些細なものですよね」
多分、寝ぼけていつもよりちょっと早く目覚ましをセットしただけでしょう。
……ってか、今、朝だったんですね。
「はふぅ……なんかその割にはやっぱり眠いし、身体も疲れてる気がしますよ。やっぱり、夢のせいですか?」
やれやれ、壮大な夢は観てて楽しいですけど、こうも疲れてしまうのは困りものですね。
「ふぅ、とりあえず二度寝でもして……ありゃま?」
その時、私は床に置き時計が転がっている事に気付きました。
「なんでこんな所に置き時計が?」
マイルームにある時計は、枕元の目覚まし時計と壁にかけている掛け時計以外は存在しないはずなのですが……はてさて、どうして時計がこんな所に?
「うーむ、見覚えのない時計ですね」
しかも、ちょっと時間がズレてます?
これはいけません、ちゃんと合わせないといけませんよ。
私は机に置いてある置き時計と時間を合わせて……あれ、こっちにも置き時計ですか?
「あれれ? これは一体どういうことですか?」
いつの間に置き時計が二つも増えてしまったのでしょうか?
しかも、瓜二つな位にそっくりです。
でも、こちらの方はちゃんと時間が合ってますね?
「うーむ、これは謎ですね」
突然現れた、瓜二つの置き時計。
片方は合っていて、もう片方はズレている……果たして、この意味とは一体?
「サンタさん……には少し早いですよね?」
彼なら、私に部屋に勝手に侵入して何かを置いて行くことは可能でしょう。
ですが、本当に彼ならば私の部屋には、一番欲しいもの……当然、それは先輩を置いてくれるはずです。
それなら、きっと小首を傾げず大喜びしてるでしょう。
さらに二人置いてくれれば、家用と外出用に別けて、それこそ天にも昇る気持ちで感謝の祈りを捧げるところ。
ですが、残念ながら私の家にやってきたのは、とても古そうな置き時計……。
「一つならまだしも、二つとか無駄にも程がありますよ」
全く、困ったものです。
「まあ、仕方ないですね。そういう事もありますか」
来る者は拒まずの精神が、何よりも大切だとお母さんも言ってますしね。
とりあえず手にした置き時計を、机の置き時計の時間に合わせて、私はまたベッドに潜り込もうとしましたが。
「ん?」
おや、どうやら先客が居たようです。
蒲団をめくると、ショートカットの女の子が私に背を向けて眠ってるではありませんか。
「こらこら、そこの人、私のベッドで寝るなんてどういう了見ですか?」
肩をぐらぐら揺らしてみると、先客さんは私の方に寝返りを打ちながら返事しました。
「もぉー……、誰ですかこんな朝早くに?」
「あらま?」
なんとびっくり、先客は私だったのです。
「あらま」
私もビックリしましたけど、もう一人の私も目を丸くしていました。
「「私が二人?」」
おおう、見事にハモりましたよ。
それにしても、一体何がどうなっているのでしょう。
私が二人?
なんでまたこんな妙な事になったのでしょう?
「私が二人という現象、一体どういう事だと思います?」
「うーん、そうですね、これは間違いなく」
「「夢ですね」」
はい、結論は出ました。
「なーんだ、夢ならしょうがないですね」
「ですよー。なので、もう一回寝ましょう」
さすがもう一人の私です、考える事は全く同じでした。
「という事で、寝ましょう。きっと夢の中で寝たら現実では目が覚めますよ」
「うむ、その意見には同意見ですね。寝ましょう寝ましょう」
ということで、私達二人は仲良く並んでベッドに横になります。
「んー……あと五分、あと五分」
そう言って、二人で蒲団を頭から被りました。
「……あれ?」
何かが頭に引っかかって、私だけすぐに顔を出しました。
「何だろう? 何か忘れてる?」
ふと部屋を見渡してみますけど、思い当たる節はどこにも見当たりません。
「どうしたんですか?」
蒲団を被ったまま、もう一人の私が問いかけます。
でも、その問いかけに私は答えられません。
「えっと、何か大切な事を忘れてるような気がしまして……」
「大切な事ですか?」
「ええ、とってもとっても、とーっても大事な事だったような気がするんですけど」
そうです、確かに何か大切な事を忘れてるような気がします。
「でも、なんだったっけ?」
思い出そうとしますけど、残念ながら寝惚けた頭では全く思い出せません。
「思い出せないならそのままでもいいんじゃないですか?」
「ですかね?」
「ですよ。その内きっと思い出しますよ。もしも思い出せなかったら、それはそれ程大した事じゃないって証拠ですよ」
「なーるほど」
確かに、昔どこかの誰かがそんな事を言ってた気がします。
「まあ、いいや。どうせ夢なんですし……あと五分、あと五分……」
この二度寝こそが、私にとって至福な一時だと思います。




