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第十四話「後輩消滅!? 2」【前夜祭】

 飲み込まれた先は真っ暗でした。 


「おお、後輩よ、死んでしまうとは情けない」

「あら、悪魔さんじゃないですか」

 その真っ暗な中に現れたのは、これはまたお懐かしい。

 かなり前に正露丸を求めて地面で這いずり廻っていた悪魔さんです。

 だけど、今日は前みたいな格好でなくて、全身銀色のなんだか何十年か前のチープで近未来チックな出で立ちですね。

「どうしたんですか悪魔さん、そんなに御粧おめかししちゃって。結婚式ですか?」

「残念だな、俺様はこの間リクルートして、今は冥府の門番となったのだ」

 悪魔がリクルートとは、なかなか向こうもフリーダムな模様ですね。

 やっぱり、あちらでも不景気による雇用問題とかあるんでしょうか?

「ところで、冥府の門番といえば、ケルベロスの仕事だったのでは?」

 そうケルベロス。

 頭が三つで尾っぽが蛇という、素敵なお犬様です。

「あー、最近は動物愛護団体がうるさくてなー。アイツらは使えないんだわ」

「あらら、それはご愁傷様ですね」

「ご愁傷なのは、お前の方なんだけどな」 

「あ、やっぱりですか?」

 冥府という言葉からして、薄々は感じてましたけど、どうやら私は地面に飲み込まれて死んでしまったようです。

 でも、納得出来ません。私が何をしたというのでしょう!?

「悪魔さん」

「今はケルベロス代理だ」

「ケルベロス代理の悪魔さん」

「……もう悪魔さんでいい。で、なんだ?」

「私の死んだ理由は何なんですか? なんか、急に床が溶け出したかと思ったら、飲み込まれてここに来ちゃったんですけど」

「……また妙なルートを辿ってきたな。死んだ理由ねえ……ちょっと待ってろよ」

 悪魔さんはそう言って、携帯電話を取り出してどこかにかけ始めます。

 それにしても、冥府の世界でも携帯は普及してるんですね。恐るべし携帯普及率。

「もしもし、俺様だよ俺様、そうそう俺様、俺様。実はちょっと知りたい事があってな、最新情報でな、つい数分前に到着した、そうそう」

 悪魔さんはその後も饒舌に喋りに喋って、やっと電話を切りました。

「おう、分かったぜ」

「おお、分かりましたか」

 一体何が原因なのでしょう。ちょっとドキドキワクワクですよ。

「お前な、存在しなくなったんだよ」

「……存在しなくなった?」

 ぱーどぅん?

「だから、お前は現実に存在しないんだよ」

 ぱーどぅん?

「お前、俺様が人の心を読めるのを逆手にとって、遊ぶんじゃねえよ」

「あ、やっぱり読めたんですね。でも、その遊びに一応はノッてくれるアナタが好きです。あ、告白じゃないですよ? 私の心は先輩一筋なんですから!」

「誰がお前の言葉なんて真に受けるかよ」

 ムカッとさせる人、もとい悪魔さんですね。

「で、本題ですけど、つまり?」

「えっとだな。お前が居た時間の流れが、何らのか原因で変わってしまったせいで、お前はその時間の流れに存在出来なくなったんだよ。それで、お前はここに送られたって訳だ」

「なるほど……って、じゃあ、今まで私の居た世界はどうなってるんですか!?」

「地面に飲み込まれた時点で、お前という存在が消えた状態で継続されてるだろうな」

「で、でもいきなり人が一人消えたら、事件になるんじゃないですか?」

「安心しろ。消えた時点で、その時間軸に存在する全員の記憶からお前の存在は消える」

「そ、そんな……じゃあ、私の事を」

「誰も心配しないし、気づかない。その時間軸で、最初から居なかった事になるんだよ」

「で、でも、今まで一緒に居た人くらい」

 そう、先輩とか、先輩ならきっと!

「無駄無駄、そりゃお前が消えてすぐなら微かに覚えてるかもしれないが。一日もすれば、完全に上書きされて何も思い出せなくなるって」

「そ、そんなぁ……い、いつも一緒にいたのに!!」

「人の記憶なんてそんなもんさ。それに消えた時点でお前の消えた穴を誰かが埋める埋め合わせ効果が生じるから、その先輩とやらの隣には、誰か代わりに一緒になってるはずだぜ?」

「そ、そんなの駄目ですよ!!」

 先輩の隣を私以外の誰かが埋めているなんていけません!

「どうにかしてくださいよ!」

「無茶言うなよ、元を正せば、お前が蒔いた種だろ?」

「私が何をしたっていうんですか!? まだ何もしてないはずですよ!」

「随分と賑やかですね、どうかしましたか?」

「おや、その声は」

 また聞き覚えのある声だと思ったら、ランプの魔神さんではありませんか。

「魔神さん! どうしてここに? もしかして、助けに来てくれたんですか?」

「いえいえ、実は脱魔神しまして、今は派遣で神様をしてるんですよ」

「派遣で神様ですか」

 なんだか、急に神様という存在が時給千円位の存在に思えてきました。

「ええ、本当は閻魔になろうと思ったんですけど、何分倍率が高くて」

「閻魔の方が人気なんですか」

「来た人を片っ端から好き勝手に理由つけていじめられますからねー、ストレス解消の上にお金ももらえるからと好んで選ぶ人が多いんですよ」

「色々と間違ってますね」

 でも、そういう人達が居るから、世界は廻るんだと思います。

「まあ、そう言わないで下さいよ。ところで、今日はどうしてこんな所に? 老衰……には程遠いでしょうし、事故ですか? 病気ですか?」

「実は、私の存在が消えてしまったそうなんです」

「存在が消えた? それはまた一大事ですね」

 その割に口調が穏やかなのは、やはり神様だからですかね。

 言葉では言い表せないような貫禄があります。

「で、悪魔さんは自業自得だっていうんですけど、私には何の事だかさっぱりで」

「ふむぅ……ケルベロスさん、一体どういう事なんですか?」

「そいつが、時計で遊んでたんだよ」

「時計?」

 おや、魔神さんの顔色が少し変わりましたね。

 時計って……もしかして、あの置き時計の事ですか?

「そうだよ、お前が時間を合わせようって、回しまくってた時計だよ」

「あれが一体何だっていうんですか? 普通の置き時計じゃないですか」

「あれはなぁ世界の時そのもの……と言ってもピンとこないわな。まあ、コレを見ろよ」

 悪魔さんが差し出したのは、私がさっきまで持っていた置き時計でした。

「あら?」

 でもよく見ると、時計の動きがメチャクチャじゃないですか。

 一秒時を刻んだかと思えば、二秒戻って三秒前に進んで、また二秒戻ったり進んだり、止まったかと思ったらグルグル回ったりと言った具合です。

「過去に移動したのにも気づかず、うっかり歴史を変えちまったから、時計が狂ったんだよ。つまり、戻る為には、お前が存在した世界と全く同じ状態の時計に合わせる必要があるんだよ」

「普通に合わせるだけじゃあ、帰れないんですか?」

「あのな、お前の世界っていうのは、無数に存在世界の一つでしかないんだよ」

「小難しい話はいいんですよ、とりあえず戻る方法はどうすればいいんですか?」

「簡単にいえば、この時計を正しく合わせないと、お前を戻す事は出来ない」

「神様の権限とかでどうにか出来ないんですか?」

 そうですよ、代理とはいえ神様ですよ?

 ぱぱーっと神々しい光を放って元に戻すとか出来ないんですか?

「残念ながら、私の権限ではちょっと……」

「ええーっ、無理なんですかー?」

「力不足ですみません」

 がっかりです。

 でも、だからといって「はいそうですか」と状況を認める訳にはいきません。

 なんとしても、自分の世界に戻らなければならないのです。

「この時計を合わせるにゃあ、その時と同じ時に合わせないといけないんだが……」

「どうすればいいんですか?」

「簡単だ、お前がその時計を持って、向こうで合わせりゃいいんだよ」

「おお、確かに簡単ですね」

「言葉では簡単ですけど、歴史を変えてしまうような事をすると即アウトですからね。慎重にしないといけませんよ?」

「変えちゃったらどうなるですか?」

「歴史が変わるだけだ。そうなったら、そこで時計を合わせても本来お前の居た世界には戻れないし、お前が存在していた部分をまた誰かが代わりに埋め合わせる事になる」

「それは困ります!!」

 先輩との思いメモリーを、他人が占拠する事だけは何があっても許してはいけないのですよ!!

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