第十四話「後輩消滅!? 1」【前夜祭】
私が不思議な置き時計さんと出会ったのは、ちょうど放課後の帰り道でした。
道路のど真ん中にちょこんと置かれていたのです。
「これはまた珍事」
怪しいと思っても、つい近寄ってしまうのが、私の悪いトコだと先輩は言ってました。けれど、人間とは好奇心で生きている生き物なのですよ。
なので、私は迷うことなく置き時計を手に取りました。
「普通の目覚まし時計っぽいですね」
電気屋さんに並んでいて違和感のない、何の変哲もない置き時計です。
コチコチと音を立てながら針が動いてました。
「誰がどうしてこんな所に置き時計さんを置いたんでしょう?」
持ち主らしき人影はありません。
となると、この子は捨てられた子でしょうか?
「まだまだ使える子を捨てるなんて、なんて酷い人でしょう」
コチコチコチコチコチコチコチコチコチコチコチコチコチコチコチコチコチ……。
ほら、この通り、しっかりとまだ時を刻んでるじゃありませんか。
「あれ? でもこの時計、ちょっと進んでますね」
私の持っている時計と見比べてみると、若干置き時計さんの方が進んでいますね。
「駄目ですよ、正しい時を刻むのが時計さんの役割なんですから」
という事で、私は置き時計のリューズを回してずれた時間を合わせてみました。
「ありゃ」
失敗です。
ちょっと戻し過ぎちゃったので、進めようとしますが、ぴくりとも動きません。
「あれ? 変だな、戻らない?」
右には回るのに、左にはビクともしないです。
なんですか、アナタは一方通行なリューズさんなんですか?
「面倒な作りですねー……」
一体何を思って、こんな不便なリューズを導入したのでしょうか。
仕方がないので、時計を一周させましょう。
グルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグル……。
「あっ……」
また失敗です。
「ううう、結構難しいですね」
せっかく合わせるんですから、ピッタリにしたいです。
という事で、私は何度も失敗を繰り返し、やっと時間を合わせる事が出来ました。
「ふぅ、さすが私、寸分の狂いもないですね」
その為に何度失敗したかなど、問題ではないのです。
「時間も掛かってませんしね」
自分の持っている時計を見てみても、最初に時間を合わせた時から一分も過ぎて……ありゃ? もしかして、私の時計、止まってます?
「おかしいなぁ……、ちゃんとこの間電池交換したばっかりなのに」
試しに振ってみますけど、全く動く気配すらありません。
「仕方がない、帰ったら時計屋さんに殴り込みをしないといけませんね」
狂ったままの時計で、時間合わせなど出来る訳がありません。
家に帰ったら、すぐに直してあげるとしましょう。
そう思って歩き出そうとしたその時、ふと私は周囲に違和感を感じました。
「はて?」
でも、どこを見てみても、その違和感の正体が掴めません。
「気のせいですかね?」
多分そうでしょう。
その時、ふと通りの向こうから見覚えのある人物が歩いてくる事に気づきました。 「小林先生!」
そう、作家でカルチャースクールでガラス工芸の先生をしている小林賢太先生です。
先生もこっちの事に気づいて手を振ってくれました。
小林先生は先輩に続いて、親しくてもいいかなと思える殿方の一人ですね。
前の駄作のせいで作家生命は皮一枚らしいですけど、ぜひ新作で挽回して頂きたいものです。
「おお、キミか。久しぶりだね」
「今日もカルチャースクールで講師のお仕事ですか?」
「え? あ、ああ、そうだけど……あれ、知ってたの?」
「ほぇ? 知ってたって何をですか?」
「講師をやってる事は、まだ誰にも教えてなかったはずだけど……」
「何を仰ってるんですか、この間も会ったじゃないですか」
「この間って言っても、もう何ヶ月も前だろ? それに、あの時は……」
「何ヶ月? そんなにも会ってませんでしたっけ?」
変ですね、妙に会話がかみ合っていないような気がします。
私と先生が会ったのは、つい最近のはずなのに。
でも、先生の口調は嘘をついているようには思えませんし。
「まあ、いいや。知ってるなら、遊びに来なよ。場所も教えるし」
「あれ? スクールを変えられたんですか?」
「え? 変わった? 何をボクが変えたっていうの?」
「だって、前に駅前デパートのカルチャースクールで」
「今教えてるのはそこだよ?」
「ですよね?」
なんでしょう、全然会話が噛み合ってませんね。
「んんん? なんか変ですね」
「失礼な物言いになるけど、ボクからすれば変なのはキミだよ?」
繰り返すようですけど、やっぱり先生の口調から嘘だとは思えません。
「あっ、分かった。面倒だからってボクの事からかってるんだろう?」
「ち、違いますよ、私は別にそんなつもりで言ったんじゃあなくて」
本気で変です。
先生の言ってる事が片っ端からおかしいですよ。
「分かった分かった、じゃあ気が向いたら遊びに来てよ。いつでも歓迎するからさ」
そう言って、先生は私から去ってしまいました。
なんでしょう、一体何が起こったというのでしょう?
「でも、この会話って最近したよう……う?」
突然、視界がぐにゃりと曲がって、私は思わず腰を落として地面に手をつきます。
「え!? え!? えええええええええっ!?」
ところがどっこい、その地面もまるで熱せられたバターのように溶け出して、私を取り込もうとする……というよりも、飲み込んだのです!




