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「ただいまそーじぃ! えへへ~♪」
「そーじぃ言うな!」
結局鈴奈が帰ってくるまでベンチで休んでいた。……とんかつマジでヘビーすぎんだろ。
ツッコミを入れながら顔を上げたら、おしゃれな紙袋を持った鈴奈が上機嫌にえくぼを咲かせていた。
どうやら何かお目当てのものが買えたようだ。
「そーにぃそーにぃ! ちょっとお耳貸してー?」
「あぁ。なんだ?」
「 」
耳を鈴奈の方に傾けたら、そんなことを囁かれた。
ホント鈴奈があほすぎて不憫になる。誰かこのあほの子に恥じらいというものを教えてくれ……。
「アホな報告をするんじゃありません!」
「痛ーっ!? なんでチョップするのさー!?」
頭を押さえて涙目で反論してくる鈴奈。
むしろなぜチョップされないと思ったのか。
「鈴奈の将来に不安を感じて」
……鈴奈さんや、自分の胸に手を当てて考えてみなさいな。胸だけにな! なーんつって!
そんなバカなことを考えていたら……、
「……巨乳好きのくせにー!! でっかいおっぱい好きなくせにぃーっ!!」
鈴奈が叫んだ……人混みの中で。
ば、ばばばばっか!? なんてことを公衆の面前で叫びやがるんだ!?
やめてぇぇぇぇ!? 周りからの視線が突き刺さって痛いぃぃぃぃ!!
……いや、確かにでっかいおっぱいは好きだけども! けどなぁ、そもそも大きさうんぬんではなく……って今はそんなことを考えている場合じゃない!!
「すみませんごめんなさい許して下さい私が悪うございました!」
即頭を下げた。
プライドなんてかなぐり捨てて、年下の従妹に全力で頭を下げた。
「だっさぃ!! そーじぃだっさぃ!」
「すみませんホントすみませんそれとそーじぃやめろ!」
「う~ん? まだ自分の立場が分かってないのかなー?」
えくぼは確かにあるが、どこかふざけた笑みを浮かべた鈴奈が俺の頬っぺたをつつく。
痛い! 爪刺さって地味に痛い!
「分かっておりますとも……このそーじぃめに何なりと御用をお申し付けください鈴奈御嬢様」
もう泣いていい?
「御嬢様……えへへ~♪ それじゃっ! メロンパンアイス食べに行こーっ!」
正直まったくもって、1ミリも腹は減っていなかったが今は従うしかない。
やたらと強気になった鈴奈に腕を組まれ、半ば強引にメロンパンアイスの店まで連れていかれた……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後はふたりしてメロンパンアイスを貪った。
ちなみに俺は前回スタンダードなバニラアイスバージョンを食べたので、今回は期間限定のマンゴーアイスバージョンにした。……めちゃくちゃさっぱりしていて、俺個人としては美味しかったし、何より非常に助かった。
「鈴奈、食べるか?」
「えっ!? いいのー?」
鈴奈も期間限定という言葉にひかれてマンゴーアイスにしようか悩んでいたので、食べるか聞いてみたら、顔を綻ばせてこちらを見た。
鈴奈の方に俺のメロンパンアイスを向けて「いいぞー」と言ったら、すぐにかぶりついてきた。……鯉かよ。
「……お……」
「お?」
「美味しいー! さっぱりしてて! フルーティーで! さわやかで! ちょっと酸味もあって! けど甘みも強くて! メロンパンとの相性も悪くなくて! さっぱりしてる!」
……おい。「さっぱり」って2回言ったぞ?
マンゴー味がお気に召したのか、「おいしーおいしー!」と興奮気味に連呼する鈴奈。
瞳を輝かせて「もう一口くださいなー?」と言葉が続き、俺は全部食べてもらっても構わなかったのでそのまま渡した。
「全部食っていいぞー」
「ほんとー!? よっ! そーにぃ太っ腹! 鈴奈のも食べる?」
「いや、胃もたれが……」
「そーにぃほんとに、そーじぃ!」
ころころと天真爛漫に笑った鈴奈は、両手に花ならぬ、両手にメロンパンアイスを持ってご満悦のようだ。
交互にぱくぱくと食べていく様はなんだか見ているだけで癒される光景だった。
例えるならば、小動物が一生懸命エサを食べているような感じだ。
こうしておやつタイムは過ぎていき、あっという間に帰る時間となった。
今日は土曜で俺がいつも通り夕方からシフトだったので、一緒に帰ることに。
その途中でまずは俺がわざとらしく切り出した。
「そういや買い忘れた物があるから、さっき行ったあの店もう一回寄っていいか?」
「うん! いいよーっ!」
「……鈴奈はそこで待っててくれるか?」
「え? なんでー?」
「いいからいいから」
鈴奈を残して店内へ。
実は鈴奈がお手洗いに行っていた間に、欲しがっていたどデカいクマのぬいぐるみを買っておいたのだ。
本当はその場で渡そうかと思ったのだが、サイズが何と……全長2mもあり、断念して店に取り置きしておいてもらった。
買ったはいいけど、どうやって持って帰ろうか……。
店に入ったらプレゼント用ラッピングで可愛らしいリボンを頭に巻いた、どデカいテディベアがレジ横の棚に鎮座していた。なんちゅう迫力だ。
当然こんなバカデカいものを入れる袋なんて存在しないので、店員に手伝ってもらって背中に載せ、俺はテディベアをおんぶして店から出ていった。……意外と軽いな!
店から出るとまぁ、道行く人は皆驚いたようにこっちを見ていた。当たり前だった。
「それーっ! さっき見たおっきいクマさんだよねー!?」
人混みの中でも巨大テディベアを担いでいる俺はやたらと目立つらしく、遠くにいた鈴奈が興奮気味に小走りで近づいてきて。
そのまま俺の背後に回ってテディベアに抱き着いた。
「うわぁー! クマさーんっ! やっぱりおっきぃー! もふもふのふわっふわ! そーにぃふわっふわだよ!」
「分かったから一旦落ち着け」
俺がおんぶしているテディベアに飛びついておぶさろうとし始めたので、振り返って「どうどう」と宥めた。
「どったの? そーにぃが買ったの?」
「買わなきゃ持ってこれないだろうが……プレゼントだよ、鈴奈に」
「えぇっ!? ほんと!? うそじゃなくて!?」
目を丸くしてきょとんとした鈴奈。
よほど驚いているのか口がポカーンと半開きになっていて思わず笑ってしまった。
ここまで驚いてくれると俺も素直に嬉しい。
「本当だ」
「やったぁーっ! ありがとそーにぃ!」
「おう」
「……あっ! そーにぃちょっとそのまま動かないで!」
「なんだ?」
「鈴奈からもプレゼント! そーにぃの利き手って右だよね?」
「あぁ」
「らじゃー!」
そう言って背後に回った鈴奈が俺の右手首に何かを結んだ。
……おい! このままじゃ見えないんだが!? という俺の心の声を察したらしい鈴奈が前に戻ってきてから、自身の右手首を顔の前に掲げた。
よく見ると3色のストライプ模様で、組み紐のように見える。
「ミサンガだよ! これくらいのアクセサリーならエセ優等生のそーにぃでもいいでしょ? ちなみに鈴奈は白とピンクと水色で、そーにぃは赤と緑と黒色のやつだよー!」
「ミサンガってお守りだっけか?」
「うん! 自然に切れるまでは絶対に外しちゃダメだからね? 途中で外すと呪われるんだってさー!」
「マジか……」
ふざけんな! なんでそんな呪いのアイテムを勝手に装備させやがった!?
……まぁ、外さなきゃいいだけか。
クスクスと笑ってなんてことのないように言い放つ鈴奈。
「外さなきゃいいだけだよ? そーにぃそろそろ帰ろっか!」
「……俺、バイトだもんな」
テディベアを背負って、丁度帰路への第一歩を踏み出した時だった……。
「………… 」
「……なっ!?」
――どこからかふと掛けられたその声と忌々しき呼び名。
消し去れない黒歴史が疼いてすぐに振り返ったが、人混みの中、声の主を見つけることはできなかった。
……そういやここはアイツの縄張りだったな。
テディベアを背負っているからか、それとも冷や汗によるものなのかは定かではないが、背中を一筋の雫が流れていった。
今日はこっちを更新。
サボりすぎましたごめんなさい。




