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17-1

またしても長くなってしまったので分割しています。17-2は明日更新予定です。

「城戸っち~! こっちこっち!」

「城戸くんこっちっす!」


 改札を出た瞬間に目に入ったのは、音がしそうな勢いで両手を振りながら飛び跳ねるタロと、仁王立ちで親指を立てた右手を後ろのカラオケ店へと向けた佐藤の姿だった。


 繁華街の駅前ということもあってか、どう見てもタロが尻尾を振る忠犬にしか見えないんだが……。

 そんでもって佐藤は相変わらず武人にしか見えん。……アレ完全にただの店のボディーガードだろ?


「すみません。お待たせしました」

「よっし! 城戸っちきたし、これで全員そろっ……あ、あとサプライズゲストさんだけだな」

「あっ! それはまだ…………乾杯は先に……」


 ふたりのもとへ駆け寄ると何やら意味深なワードが聞こえてきた。


 サプライズゲスト? 誰だよそれ? 俺の全く知らない人とかは勘弁してくれよ?


 どうもタロは口を滑らせたらしく佐藤に耳打ちされ納得すると、誤魔化すように入店を促してきた。


「うんうん……了解。じゃあ城戸っち中入るべ!」

「はい?」


 内心で首を傾げていると背後に立った佐藤に両肩を掴まれ、そのまま押されるようにして入店した。

 その際佐藤が呟いた「おっ……城戸くん結構良い身体してるんすね。これなら……」という言葉は聞こえない振りをしておいた。


 お、おいぃぃぃ!? 佐藤……まさかお前、木崎さんに洗脳されて目覚めちまったのか!?


 背中に一筋の冷や汗が伝ったのは言うまでもないだろう……。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 店員に通されたのは優に50人は入れそうな、随分と大きなパーティールームなる部屋だった。

 少し暗めの間接照明をメインに黒を基調としたシックなインテリアで統一された空間には、カラオケ機器以外に巨大なスクリーンとダーツとビリヤードが設置されていた。


 すげぇな! カラオケのパーティールームってこんな充実した設備整えてる店舗もあるのか。知らなかったわ。


「本日の主役の到着でございます!」


 驚きながら室内を見回していたら、スピーカーからタロの声が流れた。

 振り向くといつの間にやら手にしていたマイクを小指を立てながら握り「よっ! 拍手!」と皆を煽るタロ。

 それを皮切りに巻き起こった拍手の渦が室内を飲み込んだ。


 どうしろってんだよ……。


 そんな状況に照れくさいのと、どうすればいいのか分からずに立ち尽くしていると……、


「はい城戸くん」

「え? は、はぁ……」


 そう声を掛けてきた木崎さんが手にしていた物をテキパキと俺に身に着けさせた。


 ……おい、コレ。


 ――それは“本日の主役”と書かれた、たすきに鼻眼鏡だった。


「めっちゃ似合ってる!」

「ウケル!」

「城戸くん写メ撮らして~!」

「俺も俺も!」

「……あはははは」


 誰だコレ選んだやつ!? 花ヶ崎だろ!? ……ってアイツはクラス違うからないか。……やめろぉぉ! 撮らないでくれー! お前ら絶対後でネタにする気だろ!?


 本当は抵抗したかったがそれをこの場でやるとシラケてしまうのは分かり切っていたので、苦笑を浮かべながらされるがままに。

 そんな中ただひとつだけ気掛かりな点があった……それは水瀬だ。

 集団から少し離れたところでスマホを俺に向けている。百歩譲って写メを撮っているのはまだいいとして、その表情が「これをネタにどう脅迫しようかしら」と言わんばかりの不穏な笑みを浮かべているのだ。


 早めに釘を刺さないとな……。


「はいはーい。撮影会はそこまで! それじゃあ時間も勿体無いから乾杯いきまっしょい!」

「みんなグラス持ってくださいっす! 城戸くん乾杯の音頭よろしくっす! オッス!」


 横に立っていた木崎さんからグラスを渡され、タロにマイクを向けられ、佐藤に指名された。


 どうやら俺が音頭をとるらしい。聞いてないぞ!


「えぇーっと、ただいま今ご指名を頂きました城戸颯太です。大変僣越ではございますが乾杯の音頭を取らせていただ……」

「――マジメかっ!?」


 乾杯の音頭をとろうとしていたらツッコミと共に肩を小突かれた。初めて自己紹介をした時にされたものと同じツッコミだった。……まぁ、今回は小突きがあったが。

 あぁ、やっぱりあれはタロだったのかなどと考えていたら皆が一斉に噴き出した。


「城戸っちマジメすぎ! はい、かんぱーい!」

「えっ!?」

「「「「「かんぱーい!」」」」」

「やばっ! 城戸くんかわいい」

「いじられキャラってか、愛されキャラ?」

「ま、まさかの逆CPタロ×キド!? タロの俺様攻めに城戸くんの健気受け! ……ハァハァ、けど城戸くんにはぜひ誘い受けも……げへへ……ぐへへ」


 そして皆が笑い転げている間にタロがすかさず乾杯の音頭をとった。おいっ!? 結局お前がやるんかい!!

 手に持っていたグラスにタロが「かんぱーい!」と自分のグラスを軽く合わせた瞬間、隣から恐ろしい言葉が聞こえてきた気がする。……横目で見やると荒い息遣いで目を血走らせた木崎さ……暴走妄想女子がセクハラオヤジのような下卑た笑い声を漏らしていた。


 ア、アカン……誰かこの人隔離してぇぇぇ! ヤバいよヤバいよ! 目付きが完全にイっちゃってるよ!!


 暴走妄想女子から距離をとろうとゆっくりと後退していたら、背後に立っていた佐藤にぶつかってしまった。……あ、終わった。


「あっ城戸くん乾杯っす!」

「は、はい」

「はぁぅぅっ!? ここでキド×サトキター! 筋肉受けに眼鏡攻め! ふたりの合言葉はグラスをぶつけた、チー……」

「――言わせねぇよ!?」


 佐藤は何も悪くない。ただの厚意でグラスを合わせてきただけだからな。

 だがそれは暴走妄想女子からするとただの燃料なんだよ。

 なにか誤解を招きそうな発言を暴走妄想女子がしようとしたので、思わずツッコミを入れてしまった。


 あ、やっちまったと思っていたら俺の言葉を更に遮って何者かが言葉を発した。


「ごめ~ん! 遅れちゃった!」

「おぉーっと! ここで本日のサプライズゲスト――我学園の誇り、現役トップ人気読者モデル……花ヶ崎紗英ーっ! よっ! 拍手!」


 その声に目を向けるとサングラスにマスク姿で顔バレ防止の定番スタイルを決めた花ヶ崎が出入口に立っていた。

 一番に反応したのは事前に知っていたであろうマイクを持ったタロで、次いでほぼ同時に皆からどよめきと歓声が交ざりあった声が上がった。


 なっ! 主役の俺より拍手でかいやんけ!? 主役の俺より盛り上がっとるやんけぇぇぇ!?


「紗英ちゃん!?」

「紗英様ー!」

「ど、どうして花ヶ崎様が!? 拙者は幻覚を見ているのか!?」

「みんな~ごめんね。本当は城戸くんの歓迎会でクラスの集まりだったんだよね? ワガママ言って参加させてもらっちゃったんだ~」

「うおぉぉぉぉ最高!」

「紗英なら皆大歓迎だって!」

「みんなありがとー! ……ぷっ!? ……あっはっはっは~!」


 サングラスとマスクを外した花ヶ崎は俺を見つけると小さく噴き出してから、天真爛漫にころころと笑った。


 ……おい。なんでコイツも参加してんだ。ってやっぱり花ヶ崎かコレ選んだの! くそぉ、許さん!


「……ふぅ。城戸くんやっぱり似合ってるじゃん。たすきと鼻眼鏡」


 しばしの間笑い終えると、目の縁に溜まった涙を拭い「ウチの見立てに間違いはなかったね」と、どこか偉そうに言葉を続けた。


 選んだのはやはり貴様か花ヶ崎ぃぃぃ!!


 引き攣りそうになりながらも、なんとか愛想笑いを浮かべてぎこちなく返答する。


「アリガトウゴザイマス」

「う~ん? ありがたみが感じられないな~?」


 腕を組んだ花ヶ崎が目を細めて徐々に迫ってくる。その何とも言えない威圧感に頬が完全に引き攣りかけた時だった……、


「ヘイピーポー! とりあえずしばらくはフリータイムだYO! カラオケ、ダーツ、ビリヤードは自由にプレイしてエンジョイしてくれYO!」

「よっしゃ! ダーツやろうぜ~!」

「ねぇ、ビリヤードやってみよ?」


 ナイスタロ! 城戸颯太はクールに去るぜ。


 タロの進行でフリータイムに移行し皆が思い思いの行動をし始めたので、俺もこのタイミングで花ヶ崎から逃れようとビリヤード組に便乗しようと口を開いたのだが……、


「では自分もビリヤー……」

「ちょっと城戸くん借りるね~」

「うぃ!」

「オッス!」

「ハァハァ……」


 ニコリと微笑んだ花ヶ崎に肩を掴まれ強制連行された。


 ちょい待てぇぇぇ! 俺なんも返事してないから!? なんでお前らが代わりに返事してんだよ!? しかも木崎さんに至っては未だに暴走妄想女子モードで、返事でもなんでもねぇ!?

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