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9 ※後書きあり第8回心理学用語解説コーナー『ラベリング・エフェクト』

 先に言わせて下さい!


 鈴奈ちゃんはただ無邪気なだけなんです!

 幻滅される方がいないことを祈ります……。


 後書きに心理学用語解説コーナーあります。

「そーにぃおやすみー! 宿題みてくれてありがとねー!」

「そーきゅん夜這いならいつでもウェルカムよ!」

「おやすみなさい」


 娘の目の前で何言ってんだこの母親は。

 客間という名の俺の更衣室と化した一室に布団を敷いて寝床が完成。

 鈴奈と潤さんと分かれ扉を閉め、布団に横になるとい草の仄かな香りに包まれた。この香りには鎮静効果があるらしく部屋に居ながら森林浴をしているのと同じ効能があるらしい。

 畳に布団。これぞ日本人。普段フローリングにベッドなのでなんだか旅館にでも来たような気分になった。

 い草の香りの鎮静効果で呼吸は深くなり、ベッドのように仕切りがないのでノンストレスで広々と手足を伸ばしていると、ほろ酔い気分も手伝ってか微睡みの世界へと意識を持って行かれそうになった。


「あっぶね」


 思わずそう呟き這いつくばるようにして鞄へと移動し中からスマホを取り出す。

 するとメールの受信を告げる青色LEDのイルミネーションが暗闇のなか鋭く点滅していた。水瀬と花ヶ崎に対する対応をどうするか決めようと話していたため、その内容のメールが来ているだろうと予想はしていた。

 だがメールボックスを開くと予想外なことに未読メールが12件も入っていた。その内の1件は母親からの「迷惑掛けるんじゃないよ」というものだったが、他11件は水瀬を含む連絡先を交換したばかりのクラスメイトからだった。


 ざっと目を通して見たが要するに「初メールしてみましたー」的な内容のものがほとんどだった。

 そのなかでタロから「金曜日の歓迎会はカラオケに決まったYO! 時間は18:00スタートだYO! 場所はここだYO!」という添付ファイル付きのメールが来ていたので確認してみたら、今日映画を観た繁華街の駅前のカラオケ店だった。

 取り敢えず全てのメールに当たり障りのない返信をしてから水瀬のメールを開く。


 【From】水瀬愛理

 【Subject】無題

 【Body】明日の放課後時間あるかしら?


 明日はバイトも無いし、“親父の所”に行くのは明後日だから大丈夫か。

 因みに俺のバイトのシフトは基本的には月、木、日曜日。水曜日は定休日で土曜日は鈴奈と隔週交代で勤務している。


 【Body】OK。花ヶ崎の対応か?


 そう返信をして目を瞑ると一瞬で眠りの淵へと落ちていったが、握っていたスマホが無機質に振動し意識が再浮上した。ダメだ。もう限界。


 【Body】随分と返信が遅かったじゃない。えぇ。そうよ。他人に聞かれてはならない対応協議になると思うからできれば学校外で話し合いたいのだけれど、城戸くんそういった場所に心当たりはある?

 【Body】ある。ねる。おやすみ。


 当に限界に達していた眠気をなんとか抑え付け、短文のメールを送信したところで海溝のように途方もなく深い微睡みの底へと意識を手放した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 物音の消えた未明の室内。唯一の音は颯太の規則正しい寝息だけだった。

 そんな空間に控え目なノックの音が響いた。――2度、3度と等間隔に打ち鳴らされたノックは室内から何も反応が返ってこないことを確認すると鳴り止んだ。


「そ……そーにぃ? 起きてる?」


 次いでドア越しに消え入りそうな囁き声とさほど変わらない静かで遠慮がちな声が木霊した。微かに震えを孕んでいるその声音にはうっすらと怯えのような色が差していた。


「……開けるよ? 入るからね?」


 寝入っているであろう颯太に配慮してか必要最低限のドアノブが回る音だけが鳴り、ドアが開く。

 恐る恐る部屋に足を踏み入れてきたのは愛用の羽毛枕(ダウンピロー)を手にした鈴奈だった。

 カーテンの隙間から零れる月明かりを頼りに鈴奈はネコのように無音で颯太のもとへ来ると、膝を折り顔を覗き込むようにして耳元で囁いた。


「そーにぃ、一緒に寝ていい……かな?」


 寝る前に観たホラー映画のワンシーンが『フラッシュバック』し、どうにも寝付けなかった鈴奈。

 どうすれば眠れるのか、と考えれば考えるほど逆に頭は冴えわたり、それに伴い恐怖もひたひたと押し寄せ余計に寝付けなくなり颯太のもとを訪れたのだ。

 何故颯太のもとを訪れたのか? それは颯太と一緒にいれば恐怖心が紛れることは既に体験済みだったからだ。

 ホラー映画を観ていた際あまりの恐怖に颯太にしがみ付くようにして鑑賞したところ、不思議な安心感から眠ってしまったのだ。なのでまた颯太の隣にいれば眠れるのではないかと思い、今に至る。


 穏やかな寝息を立てる颯太。そんな寝顔を見てきっと返答は無いはず、と思いぎこちない手付きで布団を捲ろうとしたところ……、


「んぁ……」

「――っ!?」


 と颯太が言った。

 返答なんてないと思い込んでいたのでひどく驚き、息をするのも忘れ動く事もできなかった。心臓の鼓動がやけに大きく感じる。

 人はあまりに予想外のことが起こると声も上げられず、身動ぎすら取れないのかと身を持って体感した。


「……起きてるの?」


 念のためたっぷり30秒ほど颯太を観察してからそう声を掛けてみたが、やはり返事はなかった。

 どうやら先程のは単なる寝言だったらしい。「もうっ! なんであんなタイミングで言うかなー」と鈴奈は小声でひとりごちた。起きていないのならばそれに越したことはないからだ。


「し、失礼します?」


 ゆっくりと颯太を起こさないように掛け布団を捲り、愛用のダウンピローを隣にセットして横になる。


 ――数分間目を瞑ってみたものの全く眠くなる気配がなかった。おかしい。さっきは抱き付いた途端に眠くなったのに、と思い返したところでハッとなった。

 ……そっかー。抱き付けば眠くなるのかな?


「そーにぃ?」


 声を掛けてみて返事がないことを確認してから固い動作で颯太の腕に両腕を絡める。

 またしても心臓の鼓動が大きくなった気がしたがついさっき経験したものとは全く別物だった。さっきのは驚きからのもので今のこれは……。

 早鐘のように脈打つ心臓。部活をしている時よりも早く大きく動いている気がする。腕越しにこの鼓動が伝わってしまうのではないかと心配になった。……だがここまできたのだからと開き直って更に身体を密着させ、肩に顔を埋め、足を絡めた。


「……えへへ……」


 颯太の身体からは鈴奈と同じボディーソープの香りがしたが、わずかに感じ取れるものもあった。


 ……そーにぃのにおいだ……。


 顔を埋めてにおいを嗅ぐ自分があまりにもいやらしく思えて自嘲気味に笑ってしまった。勿論笑い声は“押さえ付けて押し殺した”。


 う~ん、なんか違うなー。

 色々な抱き付き方を試してみたがイマイチしっくりこなかった。

 やはり座っている状態と横になっている状態とではベストポジションが違うらしい。

 記憶の糸を手繰り寄せて映画を観ていた時の体勢を思い起こす。

 抱き付き方は両手両足だから変わらないはず……だとすれば頭の位置かな?

 映画を観ている時は颯太の肩に寄り掛かっていた。言うなれば颯太が枕だったのだ。対して現状はいつも愛用しているダウンピローだ。今はいつもの状態とは違う特殊な状況。それなのに普段通りの枕で眠ろうとしていること自体が誤りなのではないか? と思考を巡らせ、どうにかして颯太を枕にしようと考える。

 ……そして。


「えいっ!」


 愛用のダウンピローをどかして颯太の腕を枕の位置に合わせた。これは俗に言う腕枕をするためだった。

 おずおずと頭を颯太の腕に乗せてみる。何度か左右に頭を動かし、程なくしてベストポジションを発見した。限りなく肩に近い(かいな)。高さ的にも柔らかさ的にも丁度良い具合だった。

 眼前には穏やかな表情を浮かべている颯太の顔が見える。吐息を吹きかければダイレクトに伝わる距離感だ。少し試してみたい気もしたがそんなことをすればこそばゆく感じて起きてしまうかもしれないので、呼吸の度に上下する胸に顔を埋めた。


「あっ……んんっ」


 足を深く絡ませ、腕を胸板にまわし、颯太の濃密なにおいを嗅ぐ。

 鈴奈は“上がった息を整えてから”程よい疲労感に目を瞑った。


「おやすみなさいそーにぃ」


 そう告げてから、朝どんな顔をして会えばいいのかと鈴奈は思い悩んだのだった……。

『ラベリング・エフェクト』について


 この効果は非常に効果的なものであると初めに言っておきます。

 意味は対象者を自分の思惑通りの人物にするためにラベリング=レッテルを貼ってしまうということです。人は期待を掛けられるとそれを裏切らないように行動する傾向があります。これは『ピグマリオン・エフェクト』と呼ばれています。

 この『ピグマリオン・エフェクト』を逆手に取って対象者にレッテルを貼る。

 すると何が起きるかというと、対象者はその人の期待に沿って行動するようになります。


 例えば対象者の試験の結果が悪かった場合にダメだしのみをすると『ゴーレム・エフェクト』によって逆にダメ人間になっていってしまいますが、良かったポイントを褒めてそれとなく「これなら次はもっと凄い点数が取れちゃうんじゃない? この得意教科なら」と言ってみましょう。すると対象者は期待を掛けられたことに喜び、みずから点数を上げようと勉強をし始めます。


 よくある褒美で釣るタイプの場合は、1度物を手に入れてしまうと欲求が高まり「次回はもっと点数を取れば凄いのがもらえるぞ!」という状態にし続けなければ持続することは不可能です。これは提供者にも負担が掛かってくる上に、豪華な褒美がもらえなかった場合の反動が大きいため、後の無い1,2回でならば効果的かと思います。



 話しが脱線してしまいましたが“恋人のここがダメね~”や“友達のここが嫌いだな”と思うようなことがあれば、ぜひこの心理効果を実践してみることをオススメします。



 ※一部飲酒に関する表記がありますが、未成年者の飲酒は法律で禁止されております。

 ※当作品は未成年者の飲酒行為を助長する意図はありません。

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