0 花ヶ崎紗英
時系列としては第2章7の後の話です。
作中には一部実在の心理学的表現を使用していますが、作品全般としてはこの物語はフィクションです。
実在又は歴史上の人物、団体、固有名詞、地名、国家、その他全てのものとは名称が同一であっても、一切関係はありません。
又、誤字、脱字を発見していただけましたら、報告していただけるとありがたいです。
「紗英ちゃんお疲れ様。かなり良い感じだね~! 一旦確認の休憩入れるからゆっくり休んでおいてね」
「はい! 頑張りまーす!」
ふぅー。疲れた。けどガッコに行ってるよりは全然楽しいから問題なし。
来月号のためにわざわざ桜の木の無い公園で撮影。スタッフさん曰く、5月号のコーデ特集に桜の木が写ってたらおかしいでしょ? とのことらしい。読者のみんなだって4月に撮影してるってことぐらい分かってるハズなのに、今更気にする必要があるのかなーと思う今日この頃。
ふへ~。難しいことを考えるのはやめよう。せっかくの休憩なんだしカフェでぐてーっとしてこよう。そうしよう!
「すみません、ちょっとカフェ行ってきていいですか?」
「なんか飲みたいものでもあるの? 私が買いに行ってくるけど?」
あ、あぁぁ。マネージャー手強し。
飲みたいとかじゃなくて、誰もいないとこでぐてーっとしたいだけなんだよー。なんて言えないし、どうすれば……あっ!
「えっと、お手洗いにも行きたくて」
「そういうことね。それなら早く行きましょう。紗英、サングラスとマスクちゃんと付けてね」
せっかくの妙案だったのにぃー! マネージャーついてこないでいいのにぃー! ってそんなことが無理なのはさすがにわかってる。むしろついてきてくれなかったら職務怠慢? になると思う。よくわかんないけどね!
マネージャーに言われた通り顔バレ? 対策のサングラスとマスクを装着して準備万端を伝える。
「はい。お願いします」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
歩くこと数分、駅前にあるカフェが見えてきた。
平日の午前中は人通りもまばらでかなり快適。今着ているノースリーブの赤ギンガムチェックのシャツが、オフオワイトのミモレ丈のチュールスカートと合わさって、かなりアイドルライクな見た目になっているウチには結構救い。ウチは普段こんな感じのコーデはしないのでかなり恥ずかしかったりする。まぁーデニムシャツ羽織ってるんだけどね。
「なんか目当ての映画でもあるのか?」
「……ん? 特には無いのだけれど、どうせなら大きい映画館に行ってみたいわ」
「大きいねぇ~ここらへんならあそこの映画館が一番デカかったな。よし! ならあっちだ」
「……ん」
む?
むむむ!?
カフェの入り口まであと数歩のところに来て、中からでてきた制服姿の男女をガン見してしまった。
別に、平日にガッコをサボってデートとか羨ましいなー、なんてことで見ている訳じゃない。
あの声といい、スタイルといい、ツヤツヤ黒髪ロングといい、エリーだよね?
エリーはマスクをしてたけど、かえってそれが小顔であることを最大限に際立たせていて、どっかの芸能人が顔バレ対策をしているようにしか見えなかった。うん。ウチなんかより全然オーラあるよ!
「普段ここいらへんは来ないのか?」
おっとっと……エリーばっかりに気がいってたけど、一緒にいる男の子は誰なのだろう?
あのエリーとデートするくらいなんだから、よっぽどのイケメンなのかな?
“うち”の制服着てるから同じガッコなはずなんだけど……マスクしてるしメガネしてるし良くわかんないや。
「……ん。城戸くんはよく来るの?」
そんなエリーの言葉を聞いてピンときた。
城戸くん……城戸……あっ! もしかして階段の!? 言われてみればこんな声だったよーな。
遠ざかるふたりの背中を見ながらウチなりに一生懸命考えてみた。
城戸くんはきっと階段で助けてくれた城戸颯太くんで間違いないハズ。
……だって昨日エリーから「“あなたなら知っていると思って”」って、珍しくTELがきて教えてあげたもんなー。
むっふっふ~報酬のエリーお手製カヌレとカンノーロが楽しみ……ぐへへ~!
「急に立ち止まってどうしたの紗英? ……それと、ぐへへ~、ってなに?」
「ぐッ!? なんでもないです! 大丈夫です!」
「そう?」
危ない危ない! いつの間にか口にしてたっぽい? う~ん。口にしたいのはカヌレとカンノーロなんだけどなー。
まぁいっか!
エリーにはどうなってんのか聞いてみたいし、早く撮影終わらせればお昼休みには間に合うかな?
よしっ! がんばろー!
「はい! 休憩したらもっと頑張ります!」
あっ! けどまずは休憩してからだけどねー! むっふっふ~。
……それにしても随分とエリーに信頼されてるな……。ちょっと城戸くんにジェラちゃうなぁ~。




