0 水瀬愛理
作中には一部実在の心理学的表現を使用していますが、作品全般としてはこの物語はフィクションです。
実在又は歴史上の人物、団体、固有名詞、地名、国家、その他全てのものとは名称が同一であっても、一切関係はありません。
又、誤字、脱字を発見していただけましたら、報告していただけるとありがたいです。
いつもと何ら変わり映えの無い朝を迎え、いつも通りの目覚まし時計のアラームで起きる。
そんな今日はいつもとは違う1日の始まりだった。
高校の入学式。世間的に見れば入学試験に合格した者が晴れて志望校に通い始める、といったそんな日。
中高一貫校の私立桜咲高峰学園に通う私にとっては内部進学、俗に言うエスカレーター方式の進学だったので、感動もなにもあったものではなかった。
「つまらない」
シャワーを浴びながら、まだぼんやりとしていたからなのか、思っていたことがストレートに零れてしまった。
起き抜けから私はなんてことを言っているのだろう。
思わず自嘲気味に薄笑いをしてしまった。
また3年間も同じような日々が続くのかと思うと、どう考えても「つまらない」の一言に尽きる。
「変わらないかな……」
私ごときが平凡でありふれた日常生活に変革を望んでも、周りは変わらない。
むしろ周りは変革を望んでなんていないかもしれない。
私は周りの人からは孤高で、孤立していると認識されている。
話す相手には困らないけれど遊ぶ……対等に付き合える相手はいない、といったそんな存在。
まぁ、そうなるように仕向けたのが私自身であることを十二分に理解はしているのだけれど……。
そんな鬱屈とした思考を巡らしながらもテキパキと身支度を整え終え、自室からリビングへと向かう。
「お父さん、お母さんおはよう」
「あぁ、おはよう愛理」
「おはよー。愛理ちゃんパンでいい?」
「はい」
毎朝のルーチンをこなしながら、思わず心の中で笑ってしまった。
決まり決まった朝の遣り取りが何の変哲も無く、唯々淡々とごくありふれた日常であるが如く繰り返されたことにたいしてだ。
今日は曲がり形にもひとり娘の入学式だというのに。
今更そんな些末な事で文句を言うほど私も子供ではない。
両親が懸命に働いてくれるおかげで私はなに不自由なく生活できている訳で、それ以上のことを両親に望むのは、私のワガママなのだろうと思う。
「ごちそうさまでした。行ってきます」
「愛理今日は早いな」
「いってらっしゃい愛理ちゃん」
――訂正。やっぱり私は子供だ。お父さんの何気ない言葉に、些細な反抗をして憂さ晴らしをしてしまう程度に。
普段ならば食べ終えると食器をシンクに運ぶが、今日はそれをそのままテーブルに放置して、両親からの言葉を背に受けながら足早に家を出た。
「外部生でも来たらいいのに」
そんな希望的観測を呟きながら私――水瀬愛理の高校生活は幕を開けた。