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9.INICIO-イニシオ-

9月が始まってから俺の人生はおかしくなった。

いきなり駅でヤンキーに喧嘩を吹っかけられ、

猿のビジョンを見せられたときは頭がおかしくなりそうだった。

そう。それを本能と呼ぶそうだ。

そしてそれを操るものを本能使い。

すなわち“インスティンクト”。

それから俺は三人のインスティンクトに出会った。

鷹、カメレオン、馬。

インスティンクトはインスティンクトに近づくとその成長を早めるらしい。

俺は四人のインスティンクトに接触し、

俺に宿った本能、犬の本能の成長は大きく進んだ。

そこで一人前のインスティンクトになったところで気になっていることがある。

この犬の本能は何故俺に宿ったのか。

それが今の俺の中で大きな疑問だ。

俺はまだインスティンクトについて知らないことがたくさんある。


みなと しんは本能についての“謎”を探ろうとしていた。

インスティンクトという“謎”に。


「心?何考えてるのー?」


声をかけられた。


「どうしたの?驚いたような顔して」


柳瀬やなせ 美沙みさだ。

彼女とは毎朝犬の散歩ついでに噴水の公園で待ち合わせをしている。

いや逆か。

待ち合わせのついでに犬の散歩か。


「最近ずっと考え事してるよね心。」

「あはは、ごめん・・・」


俺はベンチに座る彼女の隣で考え事をしてしまっていた。

インスティンクトについての考え事を。


「なー美沙」

「ん?」

「インスティンクトって知ってる?」

「え?」

「いやなんでもね」


俺は美沙に何も考えないで聞いた。

知るわけもない。

彼女は自分に本能が宿っていたことすらわかっていなかったんだ。


「最近変だよ?心。」

「そうだなー。なんかおかしいわ俺」

「真面目に言ってるんだよ私。」


ちょっとだけ怒られてしまった。

少し気不味くなり何も返せなかった。


「私そろそろ帰るね。明日も来る?」


美沙は公園の真ん中にたつ時計台を見てから言った。


「ああ、わかった。明日もくるよ」

「わかった。じゃあまた明日ね」


俺と美沙は立ち上がって公園を出ようとする。


「心。」


俺とは反対方向の出入り口に向かっていた美沙が走って戻ってきた。


「なんだ、どうしたんだよ」

「心、何か悩み事とかあるの?」

「え、別にないけど・・・」

「そう?」


美沙は不安そうな顔で聞いてきた。

急に走ってくるから少し驚いてしまった。


「わかった。じゃあ言えるようになったら教えて」

「え、いやだからないって」

「じゃあね!」


悩みなんてない。

そう言おうとしたら美沙はまた走って行ってしまった。

バレてしまっていたか。

俺のこと心配してくれてるのかな。

なんか嬉しい。

すると飼い犬のジョニーがとことこと戻ってきた。

なんだか元気がなさそうだ。


「どうしたんだジョニー。なんかあったか?」

「最近ショコラちゃんが元気ねえんだよ・・・」

「へえ、なんで急に?」

「なんでもショコラちゃんの飼い主に言葉が通じなくなったとか言っててよお・・・」

「あー、なるほどな」


前に俺は美沙に宿った本能を抜き取った。

美沙は本能を抜き取られる前、動物と会話ができていたのだが、

本能がなくなってから動物との会話ができなくなっていた。

それも謎だ。

そもそも動物と会話ができるインスティンクトは俺と美沙だけだった。

俺が知っている範囲で、だが。

そしてもう一つの謎があった。

記憶だ。

以前俺は馬の本能使いと戦い、そいつの本能を抜き取った。

それから馬の本能使いは本能に関する記憶どころか、

本能が宿ってから本能が抜かれるまでの記憶を失っている。

だが美沙は本能を抜き取ってから記憶を失っていないんだ。

自分が動物と会話ができていたことも、

自分の体から本能のビションが出たことも。

俺との一週間をちゃんと覚えている。

何故だ。

俺は美沙の後ろ姿をみながら考えていた。


「おい心。何またボーっとしてんだよ」

「ああ、すまん。帰るか」


和田に聞けばわかるだろうか。

しかし和田も記憶に関しては疑問に思ってたみたいだし・・・。

とりあえず放課後、和田のところに行ってみるか。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「高根沢さんって誰が好きなんだろうなー」


学校で昼休みを教室で過ごしていると、

隣で本田ほんだ 高雄たかおが話しかけてきた。


「知らねえよ。まだ諦めてなかったんかお前」

「男ってのは一度くらいじゃあ折れちゃいけねえんだよ!」


スルーされて顔をグシャグシャにしてた奴がよく言うぜ。

コイツは前に高根沢たかねざわ 沙由梨さゆりという校内トップ3レベルの美女に、

はっずかしーい告白をして見向きもされずに戻ってきた。

しかしまだ諦めてないとは。

コイツのダイヤモンド並に硬い心をすこし分けてほしい。


「高根沢さんの趣味ってなんだろ?!」

「しらん」

「好きなことは?!」

「しらん」

「誕生日!」

「しらん」

「血液型!」

「しらん」

「身長!」

「しらね」

「体重!」

「しらねえって」

「バスト」

「しるわけねえだろ」

「スリーサイズ」

「うるせえなお前!バスト知らないのにスリーサイズ知ってるわけねえだろうが!こんのアホンダラがあ!!」

「今のダジャレ?」

「意味わかんねえから」


こいつ疲れる。


「あーあー。高根沢さん好きな人でもいるんかなあ」

「なんで」

「だって今までたっくさんの男を振ってきたんだぜー。一人くらいOKしてもいいと思うんだ俺。なのになんでなんだろ。なんか理由でもあんのかな」


ちょっと嘘ついてみるか。


「あー俺知ってるよ。高根沢の好きな人」

「ほんとうか!?ってかいたんだー好きな人。早く言えよな馬鹿心。で、誰なんだよ?」

「いちいちウザイなお前」

「いいから教えろよ」

「俺。」

「は?何が」

「高根沢の好きな人」

「あーはいはい。面白いわそれ」


うわうっぜえー。


「つまんねえ嘘つくなよなー。大体俺が振られるのにお前がOKな理由がわからん。女の子の100人中100人は絶対俺を選ぶぜー?」


うるせえ。

てかお前よりはモテる自信はある。

ーガシャン

教室のドアが勢いよく開いた。

そしてそこに立っていたのは・・・

高根沢?

なんでうちのクラスに。


「おーう高根沢さんっ!やっぱり俺が恋しくなったんだなー」


隣で本田が喚いている。

そんなわけあるか。

しかし他にどんな理由があるんだろう。

まさか本当に本田に用があるのか・・・?

だとしたら悔しすぎて泣くぞ俺。

高根沢は教室を見渡している。

誰かを探しているようだ。

そしてこちらを見たときに何かを見つけたような顔をし、

ズンズンズンとこちらに歩いてくる。

え、まさか本当に本田?

そう思った時、高根沢は俺の前で立ち止まった。

そして高根沢は静まりかえった教室で大注目を浴びている中、俺の胸ぐらを掴んだ。


「え、なんで」

「ちょっときなさい」


そう言って高根沢は俺をグイグイ引っ張る。

高根沢に連れて行かれる時に本田の顔をチラッと見たが

口をポカーンと開けていた。

しかし力強いなこの女。

俺はそのまま屋上へと連れて行かれた。


「いってえな。なんだよ、ボタン外れちったよ」


俺は高根沢に引っ張られて取れたYシャツの第二ボタンをみながら言った。

しかし本当に何の用だろう。

俺は彼女になにかしただろうか。


「なんか用があるんだったら普通に呼べば行くのに。何の用だよ・・・」

「どうやったの?」

「へ?」


どうやった?何をだ。

俺が何にどうしたんだ?


「どうやって京と話したの?」


京?誰だそれは

コイツは一体なんの話をしてるんだ


「何言ってんだお前」

「京と話してたでしょ!電車の中で!それをどうやったかって聞いてるの!」

「ちょっと待てよ、誰だ京って。俺そんな奴しらね・・・」

「高根沢 京よ!すっとぼけてんじゃないわよ!!」


高根沢 京?

それって鷹の優等生の高根沢か?

あーアイツ京って名前だったっけか。

ん・・・?高根沢?


「ああ、アイツか思い出した。で、何だ。どうやって話したって普通に話しただけだぞ?」

「その普通がわかんないの!」


なんで怒ってんだコイツは


「何なんだお前。なんかあんのかお前ら?アイツのこと好きなの?」


そう言った時高根沢は顔を赤くしてキッと睨んできた。

え、図星なのかな・・・


「ち、違うわよ」

「じゃあなんでそんなこと聞くのさ。バレバレじゃん」

「違うって言ってるでしょ!」

「は、はい。すみません」


こええこの女。

でもわかっちゃうでしょそれくらい。


「京は弟よ。双子の弟」


へーそうなん・・・・

ええええええええええええええええええええ?!


「あああ???お前の弟??じゃあお前が姉か?!」

「だからそうって言ってるでしょ。」


ビックリした。

そういえばコイツら同じ苗字だしな。

顔も言われてみれば少し似てる気がする。


「ひゃー。そうだったんだ。しかしどうやって話したってなんだよ?」

「そのまんまの意味よ」

「んー?やっぱ血が繋がってるとそういうのあんの?」

「違う。前まではちゃんと話してた。でも急に京が私を避けるようになって話せなくなったの」


アイツが人を避けるようになった?

猿のヤンキーの時みたいだな。

でもコイツには本能の匂いはないし、

なんで避けてるんだ・・・?


「それっていつからだよ」

「確か、高二の後半くらいかな」


高根沢(弟)に本能が宿った時くらいだ。

この話に本能が関係しているのは確かだな。


「帰りも最近遅いし。そもそも違う学校のアンタがなんで京と話せるのよ!」

「し、知らねえよ・・・それなりに事情あんじゃねえの?」


沙由梨は下を向いて何か考えているようだ。

コイツも心配してるんだろうな。

しゃーない。


「今度聞いてやるよ」

「え?」

「京になんでお前を避けるのかーって。聞いてやる」

「ほんと?!」

「ほんとだよ。とりあえず俺戻るから」


俺はそういって階段のドアを開けようとした。


「あ、でも待って!!」

「なんだよ」

「京に、私の名前は出さないで」

「それじゃどうやって避けてること聞くんだよ」

「そ、そか・・・ええと、じゃあ・・・」


俺は少し、ため息をついた


「まあ、うまく話しとくから」

「う、うん。絶対だかんね!絶対!」

「わかったわかった」


俺はドアを開けて階段を降りた。

教室のドアと開けたとき、また教室は静まりかえった。

またしても大注目。

俺は少し焦ったが、構わず自分の席に向かう。

すると本田が机で突っ伏していた。


「ほ、本田・・・?」

「俺はもうお前と友達をやめる」


絶交宣言されてしまった。

ううん・・・

まあ、いいか。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


放課後。

俺は和田に呼ばれていつもの倉庫に向かった。

倉庫に着き、ドアの前まで行くと鷹の本能使い、高根沢たかねざわ きょうが立っていた。

怪我をしたのだろうか。

左手に包帯をグルグル巻きにしてギプスをつけている。


「よう。」

「ん、君か。久しぶりだね」

「どうしたんだその手。だいぶ酷そうだな」

「ちょっとね」


詳しいことは教えてくれなさそうだ。

ドアの暗証番号を入力し、俺と高根沢は中へ入る。

中では和田がコーヒーを飲みながらPCの前に座っていた。


「お、君達。きてくれたんだね」


和田はコーヒが入ったマグカップを置き、立ち上がった。


「まあ座ってくれ。今お茶を入れるよ」


俺と高根沢はソファに腰をかける。

和田は俺と高根沢の前にあるテーブルに紅茶を二杯置いた。


「二人とも、紅茶派か・・・」


和田はつぶやきながらマグカップを手にとり、

一口、マグカップに口をつけた


「一応もう一度聞こう。君たちは本能使いの処理を手伝ってくれるということで、いいかい?」

「はい」


和田がインスティンクトのことを

本能使いといったことに違和感があったが、俺は即答した。

実は既に返事はしてあった。

美沙が入院している時に何度か和田も見舞いに来てくれていて、

その際に答えておいた。

Yes,と。

だが高根沢は答えなかった。

元々この質問は、質問を受けた一週間後に答える予定だった。

この質問をされてから一週間はとっくに過ぎている。

高根沢がここに来ていると言うことは、

高根沢もYesと答えたものだと思っていたのだが・・・。

俺は高根沢の名前を呼んだ。


「高根沢?」

「・・・・。」

「どうするんだい?高根沢君」


和田が問いかけた時、

高根沢の口は開いた。


「勘違いしないでください。僕はあなたの計画に協力する訳じゃない。この世のためです」


俺は思わず「は?」と言いたくなった。

少し間が空き、和田が口を開く。


「それでいい。君がどこまで知ったかは知らないけど、本能使いを処理してくれるならそれでいい」


また始まった。

俺に理解できない話だ。

というよりこの状況は誰だって理解できない。

どうやらこの二人は人を置いて話をするのが好きなようだ。


「それじゃあ改めて、よろしくね」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「・・・」


高根沢は無言だった。

全くコイツはいつも何考えてんだ。

俺は紅茶に砂糖とミルクを入れ、スプーンでかき混ぜながら飲んだ。


「じゃあ早速だけど、今確認できている本能使いの場所に明日の夜8時にそれぞれ向かって欲しい。今から言うからよく聞いてくれ」


俺と高根沢はそれぞれ指定された場所に向かうことになった。

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