5.REGRET-リグレット-
昔のことを思い出した。
昨日世界が終わる日は何をしようなんて考えていたからだろうか。
特にやりたいことはなかった。
ただやり残したことはあった。
これだけはちゃんとやっておけば良かったと思ったこと。
それは中学校の時だ。
中学2年に上がった時、クラス替えがあった。
当時の俺は内気で、コミュ力のなさなら誰にも負けない自信もあり、
話せる相手を作ることを誰よりも努力していた。
そんな俺にとってクラス替えとは地獄でしかなく、
やっとの想いで話せるようになった奴とも離れてしまった。
それだけじゃない。
部活の軟式テニスでペアになり、
唯一気を使わずに喋れるようになった親友とも呼べる奴がいたが、
学年が上がると同時に転校してしまったのだ。
新学年早々、俺は机の上で頭を抱えながら悩んでいた。
そんな時、一人の女の子が俺に話しかけてくれた。
その子は明るい子で、コミュ力は人一倍あり、
なんていうかその子は、俺にとって眩しかった。
いざ行事の班決めで同じ班になり話す機会を得ても声が出せなかったり。
その子が落としたハンカチに誰より先に気づいても、
拾って渡そうという勇気が出せず、結局他の女子に拾われてしまったり。
俺はずっと一歩踏み出すことができないままだった。
そしてその子の眩しさは、俺の心に恋心を作った。
その子のことを好きになってから二年がたちそうだった。
とうとう来てしまった。
中学校を卒業する日だ。
式は特に何事もなく終わり、
それぞれが自宅に帰ろうとしていた。
その時俺は決心していたことがあった。
“あの子に告白する”
絶対だ。
今日こそは絶対告白する。
俺は一度もまともに話したことがない女の子に告白しようとしていた。
俺は校内を探して回った。
一つの目的を絶対に達成しようと言う気持ちで
走って汗をかいた。
そして生徒用の靴箱で、帰ろうとしているあの子を見つけた。
いよいよだ。
俺はこの二年間ずっと言いたかったことを言う。
ずっと伝えたかったことを今、ここで伝えるんだ。
「やな・・・」
俺は声が出なかった。
足が止まってしまった。
どうやら俺の意気地なさは天性のものらしい。
くそッ動け。
口を、動かせ・・・!
ここで動けなかったら一生後悔する。
俺は必死だった。
今までにないくらいに。
だが俺はこの人生で一番でかい後悔を作った。
気がつけば、靴箱にいるのは俺だけだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
朝。
湊 心には最近習慣づいたことがある。
飼い犬のジョニーの散歩だ。
この日の散歩はいつもより会話が少なめだった。
俺はずっと二日前に和田が言ってたことを考えていた。
「今、世界は危ない方向へ進もうとしている」
俺を憂鬱にさせたのはこの一言が始りだ。
「それは世界のバランスが大きく崩れてしまうと言うことですか?」
「そういった方がよかったかもしれないね。君が言ったことそのままだ」
何言ってんだこの二人は。
そしてこの高根沢って優等生は和田が言ったことをちゃんと理解できたのか。
なんであんな唐突すぎる、しかも世界がどうって話をすぐ理解できる。
「僕も少し考えてました。その力はどれくらいの人間が使えるんだろう。そして、この力を人類が自由に操れるようになったら、この世はどうなってしまうのだろうって」
「そうだ。それが一番恐ろしいことなんだ。もしインスティンクトを世界の科学者が研究し、その能力を誰でも操れるように、ひどい場合は能力を商品のように売られてしまったらこの世界はどうなってしまうと思う?」
確かに。
そんなことになってしまえばバランスが崩れるどころじゃない。
まるで別世界じゃないか。
しかし俺はそんな話を聞いて想像することができなかった。
想像したくなかった。
「あ、有り得ないでしょ。そんな話・・・」
「どうしてそう言い切れる?」
睨まれたのか今?
そう思ってしまうほど和田の顔は真剣だった。
「いや、だって有り得ないでしょ普通。俺らの能力は俺らしか見えませんし」
「もし現時点でどっかの科学者に本能が宿ってしまっていてはアウトじゃないか?」
「でも・・・」
「僕だって一応科学者だ。もし僕が本能を悪用していたらとっくに終わっていた」
何も言い返せない。
返す言葉が見つからない。
「それに君、もう当然のように思ってるようだから元の感覚を思い出させてやるよ」
高根沢はそういったが何のことだろう。
当然に思ってること・・・?
「僕らに宿っているこの本能、これそのものが有り得ないんだ。これからさきどんな有り得ないことが起きても可笑しくはない」
なんで頭のいいやつはこうなんだ。
さっきまでそんなことないと思っていたことが
コイツらがサッと話をしただけで今にも恐ろしいことが起きそうな気がしてきた。
「でもどうするんですか?そんな世界がどうって話を俺たちだけで何とかできるんですか?」
「それなんだが・・・」
もしその世界どうこうって話がこれから始まると仮定して、
そんな大きな話を俺たちだけで解決できるわけがない。
「僕は世界中を旅して回ったよ。この力を扱える人間がどのくらいいるのか調べにね」
この人はいくらお金をもっているんだろう。
「そしてその調べの結果。この力を操れる人間、インスティンクトは地球上のこの日本、そしてその中でも僕たちが住む関東地区にしか存在しないことがわかった」
「ん・・・?」
地球上の日本、しかも関東地区にしか本能使いは存在しない。
それなら希望は見えてきた。
しかし高根沢はこの話を聞いた途端、
何かを疑問に思ったようだ。
「何故日本の関東地区にしか存在しないのでしょうね?」
「それだ。僕も調べようとしているんだが、今はそんな余裕はない」
「現時点では関東地区にしか存在しませんが、これから世界各地でインスティンクトが現れる可能性はどうなんでしょうか」
「それも調べようと思うが調べられないことでもある。とりあえず今は目の前の出来事を処理するべきだと僕は考えている」
高根沢は何をそこまで疑問に思っているんだ。
「関東地区にしか確認できていないなら俺たちにとって都合のいい話なんだからそれでいいんじゃないか?」
「そうだ。これは都合のいい話なんだよ。都合が良すぎる話じゃないか」
高根沢が疑問に思ってることが俺には疑問だった。
しかし考えれば考えるだけ理解できなくなりそうな話だ。
「細かいことは今はいいじゃないか。僕たちは今、目の前の問題を解決することに意味がある」
和田が話を切り始めた。
「それでも僕は構いませんが、関東地区に存在するインスティンクトをどうするんです?」
確かに。
それは俺も気になるところだ。
「僕が今考えている中では、インスティンクトの本能をすべて削り取ってしまおうと考えている」
「え・・・」
それはなんというか残酷な話だ。
「仕方がない。インスティンクトは元々この世に存在しちゃいけないんだ。それ以外に方法は見つからない」
「俺たちがやるんですよね・・・?」
「そういうことになるが安心してくれ。人間から本能が抜き取られてもその人間は死なない」
「本能が抜き取られて、その人間は体に何の影響もでないんですか?」
高根沢の質問は何か鋭い。
和田も高根沢から質問を受けて少し焦っているようにも見える。
「強いていうなら、本能に関する記憶がなくなることくらいかな」
「それはその人間から本能に関する情報だけがスッポリなくなるってことですか?」
「そこまで詳しくは本人じゃないとわからない。それに確かめようがないし現時点でわかっていることだ」
何か高根沢が聞くことはあまり関係ない気がしてきた。
「そういうことなんだが、すまん。少しだけ力を貸してくれ。世界を救うには今君達の力が必要なんだ」
和田は両手のシワを合わせ頭を深く下げた。
俺は特に嫌って気持ちはないので了承するつもりでいたが、
「俺は別に・・・」
「湊、頼まれごとはもう少し考えてから返事をするものだ。何も考えもしないで気分任せに返事するとロクなことにならないぞ」
高根沢は真剣な顔で俺に言った。
さっきの和田のように。
「そうだな。君たちにも考える時間が必要だよね」
和田は頭をあげ、PCをいじり始めた。
そして何かを確認した後に言った。
「一週間後、今日と同じ時間でいい。またここに来てくれないか」
「わかりました」
「よかった。ドアの暗号は知っているから大丈夫だね」
「君はどうするんだ。湊」
高根沢は和田の頼みにすぐに答えた。
そして俺も高根沢に聞かれ、返事をする
「別にいいですけど・・・」
「よかった。それじゃあ来るときのために暗号を教えておくよ。暗号は、6051だ」
6051?誕生日でもなさそうだしどうやって決めたんだろう。
覚えづらいな。この番号は。
「あ、あの。どうやって覚えればいいですかね?」
「ケータイを出してくれ」
そう言われて俺は黙ってケータイを取り出す。
「どこでも書き込めるところに、英数字でそれがガラケーと思って“ほんのう”って打ってみてくれ」
「66666 000 55555 111・・・あーなるほど」
「そういうことだ」
なるほど。
単純で覚えやすい。
「では僕はそろそろ帰ります」
そういって高根沢は帰ろうとする。
俺もそろそろ帰るか。
「それじゃあ俺も行きます」
俺はバッグをもってドアを出る。
ドアを閉めようとする時、和田が口を開いた。
「湊君」
「はい?」
「君の本能には世界を救う力がある。それをどうか忘れないでほしい」
俺は少し考え、黙ってドアを閉めた。
「お前何をそんなに疑問に思って和田さんに聞いてたんだ?」
帰り道、俺は高根沢に話しかけた。
「言っただろ。あの人の話は都合が良すぎる。それだけだ」
「何を言ってるんだお前は・・・?」
「君には理解できないよきっと。ただ一つだけ言っておく。あの人は信用しないほうがいい」
「お前が俺を和田さんのところに連れて行ったんだろうが」
そういうと高根沢は立ち止まった。
俺も立ち止まり高根沢のほうを振り向く。
「僕も最初から信用はしていなかったが、あの人の考えてることは何となくわかっている」
高根沢は何が言いたいんだろう。
というより何を考えているのだろうか。
「湊、一つ質問していいか?」
「なんだよ」
突然だな。
一体何を聞いてくるんだろうか。
「もしこの世界が終わってしまうとしたら、君はどうしたい?」
大きな風が吹いた時、高根沢は聞いてきた。
「おい心!心ってばよー!」
ジョニーに話しかけられた。
昨日のことを思い出している内に公園の前まで来ていたようだ。
「早くリード外してくれよ!いつまでボーっとしてんだ!」
「お、おう。すまん」
俺はジョニーのリードを外してやる。
「ショコラちゃあああああああああああああああああん」
ジョニーは叫びながら走っていった。
俺は自販機でミルクティーを買い、ベンチに腰をかける。
「結局質問には答えられなかったな・・・」
俺はため息をついた。
世界が終わる日、俺は何をするだろうか。
考えてでてきたのは昔作った後悔の原因くらいだ。
この後悔がなければ悩むことは多分ない。
この後悔を取り消すことさえできれば。
俺は昨日の夜からずっと考えていた。
「あれ、湊君?」
誰かに呼ばれて顔を上げてみれば。
「や、柳瀬・・・?」
そこには願ってもいなかった。
中学の時に告白しそこねた、
俺がずっと好きだった、
そして後悔の原因にもなった女の子。
柳瀬 美沙が立っていた。
「びっくりしたー。誰かと思えば湊君がいるんだもん」
びっくりしたなんてもんじゃない。
心臓は爆発するかと思った。
「な、なんでここに・・・?」
「なんでって犬の散歩だよ?湊君もでしょ?」
「そ、そうだけど・・・」
「でも驚いたなー。ジョニー君の飼い主さんは湊君だったんだね」
「お、おう・・・変な名前だけどな」
俺は焦りながら、ぎこちない口調で会話をしていた。
「そうかなー。面白い名前だと思うよ?」
「あはは・・・柳瀬の犬の名前はなんていうの?」
「うちの犬はショコラだよ。ジョニー君と仲がいいみたいだし、よろしくね」
またドキッとした。
よろしくって言われたんだ今。
あ、ショコラちゃんの飼い主って柳瀬だったんだ。
なんか運命感じるな。
「あ、ごめんもうそろそろ行かなきゃ」
「え、帰るの?」
「うん、今週日直だから早いんだよね。まあ今日で終わりだけど」
「そ、そか・・・頑張ってな」
「うん。あ、明日土曜だけどここ来るの?来るんだったらお話しようよ。また明日」
体が固まった。
口を開けたまま答えることができなかった。
体の動作はガチガチに固まっている中、
心臓だけがいつもの倍近く動いていた。
「まだわからない感じかな?じゃあ来れたらきて!私行くね」
そういって柳瀬はショコラの名前を呼んで行ってしまった。
そうするとジョニーが帰ってきた。
「いやー。ショコラちゃん帰っちゃったよ。飼い主が用事あるって最近は早いんだってさ」
俺はジョニーの言葉が耳に入らなかった。
帰り道。
ジョニーにリードをつながずに歩いていた。
俺の心臓の音はまだ聞こえる。
しかし驚いたな。ショコラちゃんの飼い主は柳瀬だったなんて。
こんな運命的な出会いはほかにあるだろうか。
「しかしショコラちゃんの飼い主はいい人間だな。今日はジャーキー三本くれたぜ」
「そ、そうなのか?!なんだよお礼言えば良かったなー」
まあ言えないんだけどな。どっちにしろ
「あの飼い主いつも暇そうにしてるからよー教えてやったんだよ」
「何を?」
「俺の飼い主も暇そうにしてるからよかったら話してこいーって」
「それで俺の場所を教えたのか」
「そういうことー!」
くっそこの犬っころめ。
やるじゃねえか。
グッシャグシャに撫で回してやろうかと思ったが、
俺はおかしなことに気がついた。
俺は立ち止まってしまった。
まさか・・・
「おいジョニー。俺の場所、どうやって教えた」
「どうしたんだよ立ち止まっちゃって」
「いいからどうやって教えたのか聞いてんだよ!」
俺は声を出して聞いてしまった。
動物に通じる心の声ではなく、喉から出す声で。
「でけー声だすなようるせえな。俺も最初びっくりしたけど、どうやらあの飼い主も俺と会話できるらしい」
何言ってるんだこの犬は・・・
「ショコラちゃんとも会話できてるみたいだし。最近の人間はすげーなー」
「嘘だろ・・?」
「嘘じゃねえよ。だったらどうやって心の場所教えたってんだ」
まさか本能使い・・・?
しかし柳瀬から本能使いの匂いはしなかった。
本能使いじゃないとして柳瀬はどうやって犬と会話をしたんだ。
やっぱり本能使いなのか・・・?
「おーい、いつまで立ち止まってんだ。おいてくぞ」
何が何だがサッパリだ。
俺はそこで立ち尽くしてしまい、
その日の学校は遅刻していった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
放課後。
俺は和田に聞きたいことがあった。
あの倉庫がある駅で降り、西口から歩いて約5分。
俺はその道を走り、1分もかからず倉庫に着いた。
息を切らしながらドアの前にたち四つの暗号を打つ。
ドアの鍵が開いた音が聞こえた瞬間、
音をたてながら勢いよく中に入った。
「和田さん!」
奥の扉からガシャガシャと音が聞こる。
そして扉が開いた。
「な、なんだよびっくりしたなー。まだ二日しかたってないじゃないか」
「本能使いは身体能力が上がり、傷の治りが早い。それ以外にありますか?!」
俺は今日ずっと気になっていたことを和田に聞いた。
朝の電車で高根沢に聞こうと思ったが、
乗り遅れてしまったので会うことはできなかった。
「どうしたんだよ湊君、そんなに慌てて。とりあえず座って」
俺はそう言われて特に急ぐ用でもないと冷静になり、
ソファに腰をかけた。
「コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
「紅茶で・・・」
俺は肩で息をしながら呼吸を整えようとする。
和田はミルクと砂糖を別に、
湯気のたった紅茶をソファの前のテーブルに置く。
コーヒーカップを片手に和田は反対側のソファに座った。
「まあとりあえず飲んで、落ち着こう」
俺はミルクと砂糖を使い、紅茶をスプーンでかき混ぜて口に流した。
「それで、本能使いがなんだって?」
和田は俺に合わせてくれた。
そうか。
和田は本能使いをインスティンクトって呼んでいることを忘れていた。
「いえ・・あの、インスティンクトは・・・」
「いいよ。君の話しやすいように話してくれ」
コーヒーカップに口をつけながら和田は言ってくれた。
お言葉に甘えよう。
「はい。本能使いのことなんですが」
「うんうん」
「身体能力を上げるのと傷の治りを早める他に、生活する上で特別な能力はありますか?」
「うーん、今のところ確認できているのはそれくらいだけど。何かあったのかい?」
恐らく動物と会話できる本能使いは俺だけだ。
高根沢から説明された本能についての話の中にも動物との会話はなかったし、
そう考えて間違いないだろう。
「あの俺、動物と会話ができるんです」
「ふむふむ」
「驚かないんですか?!」
「僕たちには知らないことがまだまだある。その中のを一つ知っただけさ」
和田は冷静に聞いていた。
逆に俺が驚いてしまったようだ。
「あの、この能力は本能使いのものとみて間違いないですか?」
「十中八九。間違いない」
やっぱりか。
だが柳瀬には本能使いの匂いはなかった。
それについてだが・・・
「例えばの話なんですけど、もし他に動物と会話ができる人がいたとします。でもその人には本能の匂いはしなかった。この場合は」
「そう言う人に出会ったのかい?」
柳瀬のことは伏せておくつもりだったがそうは行かないらしい。
俺は正直に話始めた。
「会いました・・・」
「その人が動物と会話できるのは間違いないのかい?」
「飼い犬もそう言ってたんで間違いないです」
「うーん・・・」
和田は考えながら二杯目のコーヒーを注いでいた。
「その人が動物と話せるようになったのはいつだかわかるかい?」
「いえ・・・」
そう答えたあとにふと気がついたことがあった。
ショコラちゃんと初めて会話した時と、
コンビニで拾った猫との最初の会話に違いだ。
コンビニで拾った猫は俺と会話できたことに驚いていた。
しかしショコラちゃんは俺と会話できるのは当たり前のようだった。
恐らくショコラちゃんは俺と話す前から柳瀬と会話している。
ようするに俺が初めてショコラちゃんと話したのは二日前なので
それより前になるな。
「二日前には多分・・・」
「なるほど・・・」
和田は二杯目のコーヒーを一口飲んだ。
「恐らくまだ成長しきっていないか、鼻じゃ見分けることができない本能か。だな」
「やっぱり本能使いなんですね・・・」
「そうとしか思えないなー・・・また別な能力でもあるのかなー・・・」
コーヒーカップをテーブルに置き、腕を組んで考えている。
俺は少し冷めた紅茶を飲んだ。
「いまのところはわからないけど、僕は鼻では見分けることのできない本能使いとみたね」
「じゃあこういうのはどうです?今度俺がそいつの写真をこっそり撮ってきます。それを和田さんが見ればいいんですよ!」
「盗撮かい?」
「いや、それは・・・」
確かに、確かに盗撮になるかもしれないが・・・
それでも俺は確かめたかった。
「それに写真じゃ見分けることはできない。実物を見なきゃダメだ」
「そうですか・・・」
「う~ん・・・」
和田は悩みながらコーヒーを飲んでいる。
俺はどうすればいいんだろう。
この先柳瀬とは、関わっていけるのだろうか・・・
「とりあえず今わかることは、その子にはあまり近づかないほうがいい」
「え・・・」
「インスティンクトはインスティンクトに会うことで急激に成長を早めるんだ。君のようにね」
「それだけは絶対嫌だ!」
俺は立ち上がって言った。
和田は驚いて少し固まってしまい、
焦りながらコーヒーを飲む。
「あいつともう関われないなんて絶対に嫌だ・・・!やっとあの時のできなかったことができるかもしれないのに・・・やっとあいつと話せるようになったのに!!」
和田は飲み終わったコーヒーカップをテーブルに置いた。
「その子は、湊君の大切な人かい?」
「とても。何があっても関係を断ち切ることなんてできません」
「そっか・・・」
俺は残った紅茶を眺めながら言った。
「よしわかった。その子は君に任せよう」
「え、いいんですか・・・?」
「ただし条件をつけさせてもらう」
条件?なんだろう。
だがどんな条件だろうと関係ない。
俺は柳瀬との関係をここで終わしたくない。
「もしその子が本能使いだったとして、本能を悪用したり、君に襲いかかったしでもしたら。その時は君がその子の本能を抜き取るんだ」
「わかってます。それくらいは覚悟できています」
「いいね。その本能が君に宿ってよかった」
俺は決心した。
柳瀬の本能は俺がなんとかする。
そして、もう二度とあの時みたいな後悔は作らない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
朝の5時。
いつもの30分早く起き、
リードを持ってジョニーの犬小屋の前に立つ。
「起きろジョニー。散歩の時間だ」