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INSTINCT-インスティンクト-  作者: 空のアルカリ単4電池
1.COMENZANDO-コメンサード-
4/15

4.BUKALEMUN-ブカルムン-

本能ってなんやねん。

俺の頭の7割はこれで占めていた。

どっかの優等生のようで優等生じゃないような奴に説明はされたが

まだまだわからないことだらけだ。


この小説の主人公、-湊 心-(みなと しん)は

動物の本能を身にまとっていた。

今はのんきでいるが、

彼は本能を身にまとっていることがどれほど重要なことか

今後、思い知ることになる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


電車の中。

香水の匂いは何度嗅いでも慣れない。

というより毎日違う匂いな気がする。

ひょっとしたらこの女子高生共は日によって香水を変えているのだろうか。

だが、香水の中に嗅ぎなれないが知っているような匂いが混じっている気がした。


「やあ」


昨日聞いたばかりの声。

その声は聞きたくない声だ。

振り向いた先に奴はいた。


「昨日は痛かったよ」


鷹の優等生だ。

俺は一歩後ろに引いた。


「ちぃッ」


俺は右手をキツく締めた。

180cm近くある優等生は少し笑った顔で見下していた。

やはり昨日、ちゃんと片付けておくべきだったか。

俺は少し後悔していた。


「昨日片付けておけばよかった。そう思ってる?」

「ー!?」

「鷹は目がいい。目をみれば、そしてそいつの性格が大体わかっていれば、僕の知能で何を考えているのかわかる」


読まれていた。思っていたことを。

しかしチートだそんな能力は・・・

そしてそれ以上に俺はコイツから離れたくなる理由がほかにあった。


「さすがにもう何もしないよ。昨日負けたばかりだし、それにここは電車の中。公共の場だ」

「・・・ナルシスト」


俺がそういってからしばらく沈黙が続いた。

多分コイツは本当に戦う気はないんだろう。

優等生は昨日とは目つきが違っていた。

こほんー

優等生が咳をした。


「とりあえず、昨日は痛かった」

「だからなんだよ。謝れってか」

「いや、そうとは言ってない」

「じゃあ何だ」

「肩が外れた」

「あっそう」

「本能の力があれば傷の治りが早い」


優等生はさり気なく本能の特性を教えてくれた。

しかしこれは矛盾が生まれたな。


「お前昨日、本能は日常生活に役に立たないとか言ってたよな」

「昨日君に肩を外されてわかったことだ。まあ最後は自分で治したがな。痛みはもうない」

「へえー」

「君の傷もそうだ。昨日僕がつけた頬の傷もすっかり治ってるじゃないか」


そういえばそうだ。

朝、洗面所で顔を洗った時に気付いたとこを思い出した。


「あの猿に付けられた傷もどうだ」

「そういえば・・・」


優等生は猿のヤンキーとの戦いをどこかで見ていたのだろう。

猿のヤンキーにつけられた腕の傷を知っていた。

普通ならせめて一週間は痛むはずの傷だが、

包帯を外したときには何ともなかった。

特に気にしてはいなかったが本能というのはこういったところでも役に立っていたのか。


「僕は君に少し感謝している」

「は?」


何を言い出したかと思えば・・・。

コイツに礼を言われるのはとてつもなく違和感があった。


「君のおかげでわかったことがたくさんある。だから感謝する」

「お、おう・・・」


なんだか気持ち悪かった。

昨日は殺す気で戦っていた相手にこうして話しをされるのも

何か裏があるのではないかと疑ってしまう。


「ところで・・・」

「ん?」


そう思っていたのに、俺は話題を振ってしまった。


「あの猿がどうなったのか、わかるか?」

「気になるのか?」

「少しな」


優等生は答えてくれるのだろうか。

もし猿のヤンキーのことを知っていたとして、

コイツはなんて答えるだろう。

考えてみたが見当がつかなかった。


「うん、知ってるよ。猿がどうなったのか」

「知ってるのか?!」

「だからそう言ってるだろ」


優等生は答えてくれた。

そして優等生は知っていた。

猿のヤンキーがあのあとどうなったのかを。


「どうなったんだ?!あいつは」

「そんなに大きな声を出すなよ。あいつは総合病院に入院している」

「びょ、病院・・・?なんで」

「君が殴ったからだろう」


本能使いは傷の治りが早い。

ならばと思って聞いてはみたが、

まさか入院までいくとは思っていなかった。


「俺のせいか・・・」

「君のせいだ」

「俺が殴ったからか・・・」

「当たり前だろ。じゃなかったらなんで入院する」


優等生は不思議そうに横目で俺をみていた。

自分でも不思議だ。

あの時は本気で殴った相手を、今は心配してる。


「でも、なんで知っているんだそんなこと。もう観察はやめたんじゃないのか?」

「・・・・」


優等生は少し黙り大きく息をついてから答えた。


「奴は僕の知り合いだよ」

「え」


驚いた。

てっきり優等生とヤンキーは一言も喋ったことのないのだと思っていた。

しかし当たり前だ。こいつらは“優等生”と“ヤンキー”なのだから。


「僕と奴は中学からの仲だ。名前は斎賀さいが 遥平ようへい。僕と斎賀はそこそこ仲がよかった」


俺は少し聞き入ってしまった。


「僕は毎朝駅で斎賀と挨拶を交わしていたよ。時間があるときは話もした。放課後には一緒に飯だって食ったしたまにゲーセンにもいった」


駅で電車が停まり、乗客が乗り降りする。

目の前の席が空き、俺と優等生は腰をかけた。


「だがな、僕はあることを機に斎賀と顔を合わせるのをやめた」

「あることを機に・・・まさか、」

「そうだ。斎賀に本能が宿った」


なんとなく話は見えてきた。


「斎賀に本能が宿った時、僕は見て判断できるほど成長していなかった。ある日の朝、いつもの場所で僕を待っていた斎賀は少し様子がおかしかった。いやおかしいなんてものじゃないな。斎賀の背中には猿の本能が見えていた。」


優等生の口からは、

俺が予想していたことが面白いほどそのまま出てきた。

しかし、笑えなかった。


「周りをキョロキョロしていた斎賀に俺は気づきその日は学校を休んだ。次の日からは電車は使わず親に学校まで送ってもらったよ。駅で待ち合わせている斎賀にあわないためにね。そういう日は何日も続いた。」


どうりで今までこいつを電車で見ないと思った。

思い出せばこいつは高校二年の後半までは電車に乗っていたんだ。

背が高いから無駄に目立っていた。


「いくら友達とはいえ斎賀は何をするかわからないからな。僕が本能使いと知ったら喧嘩を挑んでくるかもしれない。あいつに猿の本能はピッタリだ」


優等生は悲しそうに話していた。

それもそうだ。コイツは友達との友情を崩したくなかったんだ。


「僕は今後斎賀がどんな行動をとるのか見ていたよ。次第に僕の目は成長し、斎賀が本能を出さなくても本能が宿っているんだとハッキリわかるようになった」


互いに目線は違うほうを向いていた。


「そんなある日斎賀が一切本能を出さない日があった。どうしたのかと思って見ていた。すると他に見慣れない本能が目に入った」

「・・・俺か」

「そうだ。斎賀は俺より先に君を見つけたんだろうな。俺が見た時には本能は出さず君をずっとみていた。その日の放課後は駅で君が来るのをずっと待っていた」

「・・・・」

「次の日に斎賀は病院にいた。奴の本能は小さくなっていた。探すのに一苦労だったよ。見舞いにも行ったが斎賀は俺が本能使いだと気付いていないようだった。それほど本能が弱りきっていた証拠だ」


優等生の口調は少し荒くなった。


「そうさせたのは紛れもなく君だ」

「ーーッ!?」


突然すぎる。

まさかこうくるとは思ってなかった。

俺の左側に座っている優等生からの攻撃がきても防げるように、

左腕を少しあげてしまった。


「んん。身構えなくても、僕はもう君と戦う気はない」

「何考えてるんだお前・・・」


ビビらせんな。

思わず本能を出すところだった。

しかし殺気を感じたぞ。今のは

コイツはひょっとしたら、心のどこかで俺を恨んでいるのかもしれない。


「昨日までは君を恨んでいた」


さっきので俺に警戒心が戻った。

コイツはいつ何を仕掛けてくるかわからない。

ゴクリ・・・

息をのんだ


「でも、君に殴られて少し目が冷めたよ」

「・・・え」

「君のせいじゃない。僕のせいだ」


なんというか、意外だった。

しかし、さすが優等生だ。

今回の出来事を自分のなかでちゃんと整理できている。

まあ、俺は元々悪くないんだけどな。


「僕は今君と話して整理できたよ。もう僕は君の敵じゃない。いろんな意味でね」


いろんな意味で。

どういうことだろう。

優等生が言った言葉は、俺にはすこし難しかった。


「ここで降りる。そうだ、放課後この駅に来てくれないか?」

「あん?なんで」

「君に合わせたい人がいる」


地元駅から二つ目の駅。優等生の学校へ行くにはここを降りたほうが近いらしい。

放課後は特に予定はないので断りはしなかった。

優等生が電車の開けるボタンを押した時に気付いた。


「おい、何時だ?あとどこだ?この駅広いだろ。もっと詳しく・・・」

「大丈夫だ。この駅に来ればきっとわかる」


優等生からそう言われた時、電車のドアは閉じてしまった。

駅に来ればわかるってどういうことだ・・・。

優等生ってのは何を考えているのかサッパリわからない。

揺れる電車の中、俺は悩んでいた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「俺、高根沢さんに告白する!!!」


朝のホームルームが終わり、

俺の隣では友人がまた訳のわからないことを言い出した。

コイツはいつも言うことと行動が急すぎる。

例えば飯を食いに行った後、食後の運動とか言ってゲーセン行った時もだ。

今なら出来るとか言い出し、太鼓の仙人の鬼をやりだした時は、

5コンボもいかずイントロを過ぎたあたりで周りの目が恥ずかしくなって

その場を立ち去ってしまったり。

だが今回の告白宣言には少し興味があった。

女の子に告白なんてそこそこの度胸がないと無理だ。

俺だってこの人生告白なんてしたことがない。

話を戻すがコイツは高根沢たかねざわ 沙由梨さゆりに告白をするらしい。

しかし高根沢さんに告白とは・・・何とも。

あの高根沢さんに告白するというのは、

相当自分に自信がある自惚れた奴か、

何も考えていないただの馬鹿だ。

何故なら彼女は悪趣味な男子生徒たちが作った、

校内美人ランキングトップ3に入るほどの顔の持ち主だ。

それだけじゃない。トップ3に入ったのはスタイルにも理由があった。

彼女の体型はまさに男の理想そのものだった。

男なら誰でもお近づきになりたいのではないだろうか。

そしてトップ3に入るのは校内美人ランキングだけでなく、

学年の成績にもその数字は入っている。

これほど完璧な女性は他にいるだろうか。

今まで100という男を振り続けてきたという噂もきくが、

俺の友人、本田ほんだ 高雄たかおのメンタルは

どこまで強いのか。少し楽しみだ。

もちろん成功するとは思っていない。

しかし、告白か・・・。


時は過ぎ、放課後。

俺と本田は高根沢 沙由梨を廊下で待ち伏せる。

待ち伏せせてから約5分。ターゲットが現れた。

ターゲットはこちらに歩いてくる。


「おおぉぉ、きたぞ心」

「んーホントだ」

「本田だけに?」

「意味分かんねえよ」


本田は息ががっている。少し気持ち悪い。

コイツでも緊張はするんだな。

そりゃあそうか。一応人間だ。


「いかねえの?」

「いく!」

「はよいけや」

「いくぞおぉぉ」


本田は歩いて行った。

後ろ姿をみていると、だんだん歩く速度が速くなっている気がする。

気のせいではない。本田は今走っている。

何を考えているんだこの馬鹿は。

その時、本田は飛んだ。

そして着地した時、なんということだろう。

本田は膝から着地した。

そのまま滑っていき本田は高根沢の足元でピタリと止まった。


「ぼ、僕と!正式におちゅきあいしてくださぁぁあああぁぁぁぁぁい!!!」


おおぉぉぉ!!

こ、これがジャンプスライディング土下座と言うものか!

恥ずかしい!実に恥ずかしいぞ本田!!

しかも噛んでいる!

俺はもうコイツと一緒に歩きたくはなあぃい!

廊下が本田の大声で静まりかえった。

気になる高根沢の反応だが・・・

ど、どういったことだろう。

高根沢は本田の存在をそこに置いてある障害物のように避け、

何事もなかったようにこちらに歩いてくる。

本田。お前はよくやった。

校内度胸ある男ランキングがあったならお前は必ずトップに君臨するだろう。

高根沢はこちらまで歩いてくる。

俺は窓に肘を起きながら本田に顔を向け、

俺の横を過ぎようとしている高根沢を横目で見る。

すると高根沢は一瞬俺を見た。

その瞬間つまずいたように一度立ち止まり、

驚いたような素振りをみせ、キッと睨んできた。


「え」


高根沢はプイッと俺とは反対側を向き、

そのまま通り過ぎていった。

俺は何か悪いことでもしたんだろうか。

少し焦った時、本田は俺の元へ戻ってきた。

顔を見れば涙やら鼻水でぐしゃぐしゃになっている。

昨日のジョニーを思い出す。

俺は本田の肩をたたいて言った。


「お前は頑張った」


本田は何も言わなかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


放課後。

俺が乗る電車は優等生に呼ばれた駅に着いた。

しかし優等生はこの駅に来いと言っただけで、

駅のどの辺に来いとは言っていない。

この駅は他の駅と比べ広いのでどこで優等生は待っているのかわからない。

どうしたものかと考え、電車を降りた時少し奇妙な感覚を覚えた。

なんとなく奇妙な感覚の原因は俺から後ろのほうかと思った。


「・・・西口?」


何故そう思ったのかはよくわからない。

この感覚は駅の西口に原因があると感じた。

俺は改札を抜け西口に向かった。

奇妙な感覚は、西口に近づくにつれ大きくなっていく。

西口を抜け、感覚の強い右側を向けば、


「やあ」


優等生がいた。


「やはりわかったか。予想はしていたが君の成長のスピードには驚かされるよ」


優等生の言うことはいつも回りくどい。

だがこの時の発言は何となくわかった気がした。


「お前は放課後までに俺がお前の位置がわかるようになるって予想したのか」

「そうだ。この通りちゃんと君は僕の前にいる」


コイツの頭はどうなっているんだ。

少し恐ろしくなってきた。


「そんで?何の用だよ」

「こっちだ。ついてきてくれ」


優等生の背中を追っていく。

そういえば会わせたい人がいるとか言ってたな。

やはり本能使いだろうか。

全くこの世に本能使いは何人いるんだ。

今までは何も考えないで生きてきたが、

知らないところでは恐ろしいことが起きているもんだ。


「ここだ」


西口から歩いてから約5分。

優等生は足を止めた。

何かの倉庫のように見える。

麻薬の売買でもやっているんじゃないかと思うような場所だ。

俺が倉庫を見渡していると優等生は一つのドアの前にたった。

ドアの横にはいくつかのボタンがある。

このドアの鍵は暗証番号を入力することによって開くようだ。

優等生が4つのボタンを押すとドアは開いた。


「入ってくれ」

「お、おう」


優等生にドアを抑えてもらい、

恐る恐る中に入る。

すると目の前には外見とは大きなギャップを感じさせるような光景が広がっていた。

まるで何かの研究所のようだ。

モニターの数を数えきることができない。


「和田さん。連れてきたよ」


優等生は誰かを呼んだようだ。

連れてきたと言うからには俺のことを話したんだろう。


「わかった。今いくよ」


奥の扉のほうから声が聞こえた時、その扉はゆっくりと開いた。

扉の向こうからは20代前半くらいの白衣を着た男性が現れた。

白衣の男性はサンダルを履いてゆっくりとこちらに来る。


「君だね。もう一人のインスティンクトは。うん、どうやらそのようだね」

「インスティンクト?」

「本能使いのことだよ。僕たちはそう呼んでいる」


聞きなれない単語を聞いたときその意味を優等生が教えてくれた。


「なるほどなるほど。成長はどれくらい進んだのかな?」

「すみません。自分じゃあよくわからないんですが・・・」

「恐らく他のインスティンクトの位置がわかるまで。駅で僕を見つけることができています」


俺なしでも話が進められているじゃないか。

優等生がわかっているなら俺がいる意味は一体なんだよ。


「あ、失礼。自己紹介が遅れたね。僕は和田わだ。下の名前はコンプレックスなので聞かないでもらえると助かる」


白衣の男性は和田と言うらしい。

しかしこんな言い方をされると少し下の名前が気になってしまう。


「そういえば僕も名前を言ってなかったね。僕は高根沢たかねざわ) きょう)。よろしく」


お前は遅すぎなんだよ。

まあ俺も名乗ってないが。


「俺は湊 心です」

「湊君ね、了解。ところで肝心な君の本能を聞いてもいいかな?」


やっと答えられる質問がきた。

優等生、いや高根沢が答える前に答えてやろう。


「犬です」

「犬?!」

「なるほど、犬ね」


何故か高根沢は驚いていた。

一度戦ったから知っているはずなのだが。


「犬ってことは、鼻だね」

「ん、何がですか?」

「インスティンクトを見分ける方法だよ」


和田はインスティンクト、本能使い見分ける方法を“鼻”と言った。

鼻というのは匂いということだろうか・・・。


「インスティンクトを見分けるには操る本能、つまり宿った動物の優れた能力で判断することができる」

「えと・・・何ですか?」

「例えば高根沢君が持っている鷹の本能。鷹っていうのは目がいい。つまり視界にインスティンクトを入れることで、そいつをインスティンクトと判断することができる」


理解に苦しんだが何とか理解することができた。

前に高根沢が言った二つ目のポイントはそういうことか。


「そして君の本能、犬は鼻がいい。よって君は」

「匂いで判断することが出来る」

「その通りだ」


なるほど。だから俺は駅で高根沢の位置を

見もしないで判断することができたんだ。

しっかり理解したところで少し気になったことがあった。

さっきから和田には本能使いの匂いがしないのだ。

ひょっとして和田は本能使いではないのだろうか。


「あの、和田さんは本能つか・・インスティンクトじゃないんですか?」

「僕?僕もちゃんとしたインスティンクトだよ」

「いや、でも高根沢と同じような感覚がないんですが」

「あー。そりゃあそうだ」


和田は少し笑ってポケットから小さなビンのようなものを取り出した。


「君が僕をインスティンクトと見分けることができないのは、これを使っているからさ」

「これは・・?」

「香水さ」


香水?

しかし毎朝電車の中で鼻に入ってくる女子高生のような強い刺激はない。


「んー、香水というよりは匂いつけスプレーだな。これで匂いを作ってる」

「匂いを作る?」

「僕はインスティンクトに見つからないように匂いを上乗せしているんだ。そうすることによって君のようなインスティンクトは僕を見分けるのことが不可能になる」


なるほど。

匂いが被さればインスティンクトの匂いは消えるのか。

しかしそれだけでは匂いで判断する本能使いしか回避できていないわけだが、

鷹の目をもつ高根沢は判断することはできているのだろうか。


「匂いがわからなくても高根沢みたいなインスティンクトに見られたら意味ないんじゃないですか?見つからないようにって言いましたけど」


そう聞いたとき、和田は少し自慢気な表情を浮かべた。

同時に高根沢は少し困ったようなため息をつき、口を開いた。


「和田さんの本能はカメレオンだ」


カメレオン?

なんだかパッとしない。

知ってはいる、というレベルだな。

一体どんな特性があるんだろう。


「カメレオンは皮膚の色を変えて身を隠すことができる。よって僕の本能は皮膚に特性があり、高根沢君に見られても見分けられることはないという能力があるのさ」


なんだそれ。

匂いもダメ、見てもダメ。

ひょっとして和田を見分けるポイントなんてないんじゃあないか?


「それじゃあ和田さんはインスティンクトに見つかることは絶対ないってことですよね・・・?」

「いや、そうでもないんだ。ちょっと待ってくれ」


そういって和田はPCが置いてある机の引き出しをゴソゴソし始めた。

そして取り出したのは、鼻スプレー?


「こいつ両方の鼻の穴に使ってみてくれないか」


そういって俺は和田から鼻スプレーを受け取った。

言われたとおり鼻に使ってみる。

すると。


「うわ、なんだこれ・・・!」


俺の鼻は何倍にもよくなった気がした。

高根沢の本能の匂いも大きく感じることができる。

それだけじゃない。

和田の匂いの中から微かに本能の匂いを感じ取ることができた。


「こ、これは・・・」

「すごいだろ。特性鼻スプレーだ。君にあげよう」

「すごいですねこれ!これがあれば匂いを隠されても見分けることができますよ」

「んー。だがそれを使うことは君の弱点を大きくすることになる」

「え?」


弱点を大きくする。

どういうことだ?

鼻がきくようになって何故弱点という言葉がでる。

和田は扉の中へ入りガサゴソしている。

しばらくして袋をもった和田がでてきた。


「ここに一ヶ月以上洗ってない靴下がある。これを君に投げるとどうなると思う?」


そういうことか。


「でもそう考えると鷹の目ってすごいな。和田さんみたいに特殊な肌を持ってない限り隠すことはほぼ無理じゃん」


俺は思ったことをそのまま口にした。

しかし実際はそうでもないようだ。


「いや、そういう訳でもない。鳥目って聞いたことないか?」


鳥目?暗くなると見えなくなるってやつか。


「僕は夜になるとインスティンクトを見分けることができなくなる。生物学的には鷹は夜になっても人間並みには見えるそうなんだが」

「んー?じゃあ昨日俺と戦った時少し暗かったけど、あの時は俺を本能使いだって見分けることはできてなかったのか?」

「そういうわけでもないんだが・・・説明するのは少し難しいな」

「ふーん」


とりあえず高根沢は夜になると本能使いを見分けることができなくなるらしい。

あまり大したことはないな。


「よし!じゃあある程度本能を理解することが出来たところで本題に入る!」


和田が手を叩いて喋りだす。

どうやら本題にはまだ入っていなかったようだ。

すると和田からは思いもしないことを聞くことになった。


「今、世界は危ない方向へ進もうとしている」


高根沢が真面目に聞く中、

またしても俺は理解に苦しんでいた。


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