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14.BUAYA-ブアヤ-

高根沢姉の心配性が俺に移り、

和田か高根沢を探しに学校を出る。

しかしどこに向かえばいい?

とりあえず駅に向かって走ってはみるが…

ひょっとしたら別に何も起きていないかもしれない。

俺が高根沢姉のように心配しすぎているだけで。

それならそれでいいんだ。むしろそっちであってほしい。

ただ今は心配で仕方がないんだ…

アイツらが今どっかの本能使いと戦っていて、

ヤバイ状況にいるんじゃないかって。

だとしたら守らなきゃ

記憶を失うことなんかより、何百倍も怖い。

仲間を失うことが。

駅に着き、時計と電車の時刻表を交互に見てみれば

和田の部屋に近い駅に向かう電車がくるまで

あと15分ほど時間があった。

待つか?電車が来るまで…

しかし和田の部屋に行ってもどうにかなるという保証はない。

恐らく和田の姿は見えないだろうし。

どうする…

そうだ。

こんな時に役立つ鼻スプレーじゃないか。

俺はバッグをあさって和田に渡された鼻スプレーを取り出す。

そして鼻に向かって二回プッシュし、鼻から大きく酸素を吸い込む。

しかし俺が期待していた感覚はなかった。

二人の匂いを感じ取ることができない。


「なんで…」


そう声に出した時、気付いたことがあった。

確かこの鼻スプレーって追跡用みたいな感じだ。

高根沢や和田の匂いはなんとなく覚えている。

しかしこの場から感じ取れる決まった範囲内にその匂いが残っていなければ、

匂いを感じ取ることはできない。

つまり追跡ができないということ。

どうする…

これじゃあどうしようもないぞ。

俺は鼻スプレーをバッグに戻す。

その時。

俺はもう一つの鼻スプレーを見つけた。

藤原からもらった鼻スプレーだ。

俺はその二つ目の鼻スプレーを取り出す。

これに賭けるしかない。

頼む。

俺は希望を詰め込んだ鼻スプレーを二回、プッシュした。


「くっそ…」


なんだこれ。

匂いを感じ取るどころか鼻が詰まった時みたいに

何の匂いも感じ取ることができない。

なんでこんなもん渡したんだ藤原さん。

全くの希望を失った時だった。

ーズキ…

俺の鼻にそんな感覚が走る。


「いって…?」


思わずそんな声を出してしまう。

しかし痛みの他に別な感覚もあった。

何かいる。

俺は痛みを堪え、もう一度大きく酸素を吸い込んだ。


「本能…?」


ここから少し離れたところ、

三つの奇妙な存在を感覚で捉えた。

恐らく本能使いだ。

三つ…

その内二つは高根沢と和田のものとなんとなくわかった。

そしてもう一つは多分今回の相手だ。

なんだ…このゴツゴツとしてて鋭くて、

なんというかデカイというか重いというか…

それに対し高根沢と和田は小さく感じる。

例えるならライオンとネコ。

迷ってる暇はない。

このままだと確実に高根沢たちは負ける。

俺は高根沢たちのほうに向かう電車に乗り込む。

電車は乗った直後すぐに発進し、俺が感じ取った

奇妙な感覚の方へと車輪を回した。


「いっつ…」


スプレーを使ってから鼻がおかしい。

鼻で呼吸をすれば空気がまるで冷たい刃になって

鼻の中を切り裂きながら体内に入っていくかのように激痛が走る。

しかし匂いを感じ取らなければ高根沢たちのところに

たどり着くことはできないだろう…

しばらくは口で呼吸をし、必要な時だけ鼻を使おう。

電車は俺が乗ってから一つ先の駅に着き、一旦車輪を止めた。

電車のドアが開いた時、俺は鼻で大きく酸素を吸い込む。


「いってええええええー!!!!」


車内の人間は一斉に俺を視界の中心に入れた。

俺は半泣きになりながら匂いを探る。

まだ先だ。

激痛の中に高根沢たちの存在をハッキリと感じ取ることができた。

それから二つ目の駅。

同じことを繰り返し、あの奇妙な感覚はもうすぐそこと言っている。

近づくにつれ、もう一つの本能の正体が何なのかわかってきた気がした。

これは本当にヤバイかもしれない…

俺は電車を降り、抜けた改札から一番近い出入り口から外に出た。

もう一度、鼻で空気を吸い込まなければ…

俺は痛みを堪える覚悟を決め、鼻を抑えていた手を下ろす。

そして、あの奇妙な感覚を求める。


「あ…れ…?」


痛みはない。

さらにもう一つ、感覚がない。

奇妙な感覚だけではない。

鼻の感覚そのものがなくなっていた。

その後、何度も何度も鼻から酸素を取り入れるが、

その感覚はなく、存在どころか匂いを感じ取る

嗅覚そのものがブッ壊れたようだった。

まずい…

このままでは高根沢たちのところにたどり着くことができない。

どうすれば…


「おい、お前!ちょっと助けてくれないか!?」


俺は無意識に声を出していた。

俺よりも高い位置に立っている、真っ黒なカラスに

喉や腹から出す声ではなく、心の声で。

カラスは何かに気が付いたように、

周りをキョロキョロしている。


「俺だよ俺!こっちだよ!下だ!」


俺はもう一度カラスに話しかけると

カラスを顔をこちらに向けた。


「俺の声が聞こえるか?」

「はあ?!お前が喋っているのか人間?!」


カラスは(くちばし)をポカンと開けて言った。


「驚くのはあとにしてくれ。急で悪いが頼みたいことがあるんだ」

「人間と話しているのかオレは…」


ーブワッ

俺は犬の本能をカラスに見せるように出した。


「ヒッ…!お、オオ…」

「コイツが見えるか?!」


カラスは驚いたように見えたが、

俺は構わず質問をした。


「あ、アンタもそんなモノをもっているのか…」

「?!、他で見たことがあるのか?!」

「ああ、ついさっきだ。変な奴らがソレを出したりひっこめたり妙な喧嘩をしてたもんだから逃げてきたんだ。あんなもの見たことねえよ。今日は変な日だな…」

「すまん、そいつらどこで喧嘩してた?道を教えてくれないか?」


俺は人生初めてカラスに頭を下げようとした。

下げてはいなかったが。


「アンタ、この街初めてきたんじゃないのか?」


上から見下ろしながらカラスは言った。


「そうだけど…」

「道なんて言ってもわかんねえよきっと。複雑なんてもんじゃねえぞあそこは」

「それでも行かなきゃなんねえんだよ!教えてくれれば後は自分でなんとかするから頼むから…」

「ついてこい」

「…は?」

「案内してやるからついてこい。だけどそのあとは一切関わらないでくれ。そう約束してくれるなら案内する」

「…頼む。」


俺は飛んでいくカラスを走って追っていった。

カラスは俺のペースに合わせてくれているのだろう。

途中で電柱などに止まって待ってくれている。

ここまでカラスに感謝したことは初めてだ。

ほぼ全力で走って五分くらいだろうか。

たくさんの十字路を左右に曲がっていると、

カラスは足ならぬ羽を止めた。

俺もその真下で息を切らしながら足を止めると


「この先を真っ直ぐいけ。オレはこれ以上近づきたくない」

「ああ、ありがとう。助かったよ」


カラスは羽を広げ、来た道を戻っていった。

俺はカラスの言ったとおりそこから真っ直ぐ走る。

そして視界に飛び込んてきたものを整理し、


「おい!!!」


俺は叫んだ。

目の前には、二人の本能使い。

高根沢と相手の男だ。

高根沢は仰向けに倒れ、相手の本能使いに

左手を踏まれ、もう片方の足で

まさにとどめを刺される一歩手前といったところだった。

その男は高根沢に落とす予定だった足を下ろし、

俺をギロリと睨んだ。

まさにあの動物のように…


「湊…?」

「なんだてめえ…」

「そいつの仲間だよ…今すぐ離れろ」

「へえ~仲間ねえー。仲間なんていたの」


男は踏んでいる高根沢の左手を

タバコの火を消すようにジリジリと地面に押し付ける。

高根沢はその激痛に叫びをあげた。


「離れろっつってんだろ!!今すぐ離れねえとブッ殺す!!」

「ああ?」


男は足を止め、わざと高根沢の左手に

体重を乗せてからこちらに歩いてくる。

制服を着てることから高校生ということがわかった。

しかしその男の体型は意外なもので、

身体中に無駄な肉がなく、ホッソリとした体つきをしていた。

髪は金髪でガチガチにセットされている。

その男はズボンにかけたチェーンでジャラジャラと音を立てながら

俺の方へ足を動かしていた。


「ブッ殺すだぁ?…お前そんな口叩くほど力あんだろうなあ??」


俺は持っていた荷物をその場に下ろした。

ーダンッ

男は地面を蹴った。

その瞬間、男は飛ぶように俺に近づき、

右手を広げ掴むように攻撃をしてきた。

刹那、

俺は本能とリンクし、男の右腕を左腕で払う。

そして右手で拳を作り、男の腹に目掛けて肘を伸ばす。

しかし男の防御は早かった。

俺が肘を延ばし始めた時には左手を腹の前で開いていた。

俺は肘を止め、左足で男の脇腹に回し蹴りをする。

その攻撃は見事に命中し、男の体は蹴った先に飛ばされた。

男は地面に体を擦ることなく、両足で摩擦に対抗する。


「湊…お前まさか…」

「どういうことだあ?知ってるような戦い方だなあ…俺の本能を」

「知ってるよ」


高根沢の言葉を遮るように喋った男に俺は答えた。

高根沢は驚いているように見えるが、

男の表情は全く変わらない。

しかし二人共、次の言葉を待っているかのようにも見える。

俺は口を開いた。


「ワニだろ。お前の本能」


男は少し笑った。


「へえー、よくわかったなお前。どうやって知った?」

「言う必要はねえがあえて答えてやるよ」


俺は右手の親指を鼻に向けた。


「匂いだよ。俺は匂いでお前の本能を見破った」


電車を降りる頃にはもう気付いていた。

もう一つの本能の正体を。

恐らく藤原がくれた鼻スプレーの効果だ。

あのスプレーの効果は本能を見破ることができる。


「なるほどね。便利な能力だなあーそれ」


ワニの男は両手でパチパチを拍手をして言う。


「まあそんなこと知ったところで…」


そしてその手を止め、両手で拳を作った男は


「てめえが死ぬことに変わりはねえよなあ!!」


地面を蹴り、一気に距離をつめてくる。

速い。

さっきのダッシュとは比にならない…!

ワニの男のスピードに動体視力を追いつかそうとする。

しかし


「あっけなくなっちまうなあ…まあ仕方ねえか…」


ワニの男は既に俺の顔面を右手で掴んでいる。

指と指の間から見える男の表情はニヤリと笑みを浮かべた。


「さ よ な ら ってなあ…ッ!」


少し笑いながら発せられた言葉の次に、

俺の顔を掴む手に力が入った。


ーバキキ…

この話を書き終わったあと、ふと考えたことがあります。

心が鼻スプレーを使い激痛に耐えながら高根沢たちを探していましたが、

その激痛についてもうちょっと具体的に説明できるのではないかと…

そこで思いついた痛みの表現なのですが、

今度温泉などに行ったとき、サウナで思い切り鼻で息を吸ってみてください。

ちょっと危ないかもしれないので最初は若干ビビリながらやったほうがいいかもしれません。

心の鼻の痛みは、それの冷たいバージョンと考えてもらって結構です(笑)

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