10.SERPENTE-セルペンテ-
時計の針が午後の7時半を知らせようとしている。
俺は約2時間、電車の中で揺れていた。
「今確認できている本能使いの場所に明日の夜8時にそれぞれ向かって欲しい」
昨日、和田はそういってPCのキーボードを叩き、
顔写真がのった何かの一覧のようなものを開いた。
「なんですか?これ」
「関東地区にいる本能使いのリストだよ」
その数は両手を使って数えられるだけの人数だった。
そこに一人。顔にバッテンマークが入った本能使いがいる。
「このバツがついた人は?」
「もう処理済みの本能使いさ。彼は亀の本能を使っていたよ」
和田がインスティンクトを本能使いと呼ぶと何か違和感がある。
しかし亀の本能使いか。和田が処理したのだろうか。
「で、今回君達に処理してもらいたいのは・・・」
和田はそういってリストの中から二人の本能使いを表示した。
片方は俺。もう片方は高根沢が担当するらしい。
しかし和田が俺に任せた本能使いは、
これまで俺が戦った本能使いとは大きく異なる点がある。
場所は俺も高根沢も反対方向の隣の県。
「じゃあ任せたよ。高根沢 京、湊 心」
目的地に一番近い駅に到着した。
考え事をしていると時間が経つのが早く感じる。
俺はホームに立ち、
一度背伸びをし、あくびをしながら改札を抜ける。
あまり緊張はしてなかった。
理由は自分でもハッキリとわかる。
俺はケータイで目的地までの場所を、
地図アプリで確認しながら道を歩いた。
改札を抜けてから約10分。俺は和田に指定された場所に着いた。
そこは全く人気のない、言ってしまえばただの道だ。
ヤンキー共が喧嘩をする時に使いそうな場所だな。
ケータイで時間を見れば7時45分を過ぎたところだ。
とりあえずあと15分、ここで待つことにした。
俺は電信柱に寄っかかり、ケータイゲームで暇を潰していた。
俺は完全PC派の人間なのであまりケータイゲームはやらなかったが、
やってみると意外と面白いな。
ん、この匂い・・・
ーコツ、コツ
俺が来てから人は一人も通らなかった道に足音が聞こえた。
俺は続きをやりたいところだがここは我慢。
ケータイを閉じ、ポケットにしまった。
電信柱から顔を覗かせてみれば一人、こちらに歩いてくる人物がいる。
するとその人物はスッと足を止めた。
「この感覚。風のようでそうではないもの。肌で感じる。そこにいるの?」
バレた。まあ当たり前か。
本能使いは本能使いを見分けることができる。
俺がコイツを本能使いと見分けることができたように、
コイツも俺を本能使いと見分けることができる。
俺は電信柱から体を出し、道のど真ん中に立つ。
「その体温、やっぱり。戦いにきたの?でも冷静。とてもそうは思えないけど」
今から戦う本能使いを前にしてコイツの言った通り冷静でいられた。
コイツは俺が今まで戦った本能使いとは大きく違った点がある。
俺が冷静でいられた理由はそこにあった。
目の前の本能使いは右腕につけた腕時計をみた
「8時ピッタリ。やっぱ戦いにきたのね。そしてあなたは今までの相手とは違う。ずっと待っていた」
「なんのことだ?」
「その冷静さ、今まで多くの本能使いを狩ってきたからなのか、それとも私が女だから?」
そう、コイツは女だ。
和田は俺をどういうつもりでコイツの前に立たせたのだろう。
俺の実力をそんなレベルにみているのだろうか。
高根沢の相手は確か男だった。
一応俺は高根沢も倒したのだが・・・。
任せる相手を逆に間違えたのか和田は?
あー、でも和田は俺が高根沢を倒したことを知らないのか。
高根沢の奴俺に負けたのが悔しいから言わなかったんだな。
「ずっと黙って何を考えてるの?」
「あー。ごめん考え事をしちゃう癖があるんだ。」
「友達みたいに会話するのはやめたほうがいいと思うの。私を処理できなくなるわよ?」
「あーそう。んじゃやめとくよ。でも敵だからって・・・」
ん、待てよ・・・
「おい何でお前、俺の目的を知ってる?」
「わかりきった質問しないで。8時ピッタリに私がここを通ることを知ってるってことはそういうことでしょ?」
「どういうことだよ?」
「あなた私を甘く見すぎよ。あなたたちってみんなそうなの?」
「あなたたち・・・?」
「そう。あなたたち。でもあなたがここに来るのをずっと待ってたわ。あなたたちが私を狙うように私もあなたを狙っていた。」
「・・・・?」
「やっと復讐できる。待ってたわよインスティンクト。」
インスティンクト?
その呼び名は和田が本能使いをそういってただけじゃないのか?
一度この女と和田は会って話でもしたのだろうか・・・
「と言っても、あなたにはあまり興味はないの。私が本当に復讐したいのは鷹の本能使い。」
鷹の本能使い?!
高根沢のことか?
ってことはコイツにインスティンクトの呼び名を教えたの高根沢か。
しかしこの女は高根沢を恨んでいるようだが・・・
一体二人に何があったんだ?
「驚いたってことは鷹の本能使いのことを知っているようね。丁度いい。教えてもらうわ」
まあ何にせよ、コイツを処理しなければいけないことに変わりはない。
しかしあんまり殴りたくないな。
顔見れば結構可愛いし。
「また考え事してるの?呆れる人。女を前にしてそういうのってちょっと失礼じゃない?」
「俺らって敵だろ?礼儀とかいるの?」
「あっそう。そういうことなら早く始めましょうよ。あなたもそれを望んでるんでしょ?」
ーブワッ!
女の体から紫色の本能が飛び出すように浮き出た。
女の体から浮き出た本能はこちらを睨んでいる。
その本能は、“蛇”のようだ
蛇の本能は女を巻き付くように動き女の首に噛み付き、姿を消す。
そして女の目つきは大きく変わり、蛇のようにこちらを睨む。
「別にあなたがリンクする間に攻撃しようなんて考えはないわ。でもあなたにもわかるでしょ?本能とリンクすると闘志しかわかないの。」
女は一歩二歩。こちらに歩いてくる。
「私に宿った本能が私の意思を食う前にあなたもリンクしてもらえる?あなたには本気で潰れてほしい」
「ためらってないでさっさと来りゃあいいのに」
「後悔は先に立たないわ。でも安心して。あなたを潰す前にこの世への未練を私ができる範囲で消してあげる。鷹の本能使いについて聞いたあとにね」
蛇の女は右手の爪を立て、蛇が噛み付くように掴み攻撃を向かわせてくる。
まさかとは思うがこの手に掴まれたら毒が流れてとかそういうのはないだろうな・・・
しかし遅いな。やっぱ蛇だ。
この程度の攻撃なら・・・
俺は体から犬の本能を出す。
犬の牙を向かわせる先は俺ではなく、女の右手。
俺は犬の本能を女の右手に噛み付かせ、右手に溜まった本能を削り取った。
俺は本能が抜けたただの女の右腕を右手で掴み、女の動きを止めた。
さて、このままコイツの本能を全部抜き取るとするか。
俺は犬の本能を女の体に飛びつかせた。
しかしこの攻撃は当たらず、蛇の女は俺の右側をすり抜け、
右腕を掴まれたまま、俺の真後ろに回り込んだ。
そして蛇の女の攻撃が続く。
蛇の女の左手が俺の左脇を通り右肩より少し下のあたりの服を掴む。
背中には柔らかい感触。
「・・・え??」
蛇の女は優しく俺を抱いていた。
本当に優しく、さらにギュッと
なんだこれ。
暖かい。安心する
そしてこの背中の感覚はあれだな。
なんというか癖に・・・
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー!!!」
蛇の女はそのまま俺の体をキツく、固く締め付けた。
そういうことか。コイツはそっと抱きしめると思わせ、
蛇の締め付ける力を利用したんだ。
マジでこれ反則だろ。
すっげー変わった不意打ちだ。
これ男だったら誰でも引っかかっちゃうよ。
「なんだと思ったの?一瞬私の腕を掴む力は緩んだようだけど?」
「く・・・っそ・・・あ゛・・・ぐっ・・・」
苦しい。
呼吸ができない。
しかし本気じゃないぞこの力は。
俺はまだ本能とリンクしていない。
それなのに俺の骨がつながっているってことは、
この痛みはどんどんと大きくなっていくだろう。
蛇の女の腕を掴む右手に力がだんだん入らなくなっていく。
「このレベルで止めておこうかしら。死なれちゃ困るからね」
そうか、コイツは俺に高根沢について聞きたいって言ってたな。
危なかったな本当に。
そんなもんがなかったら俺はとっくに死んでいた。
しかし早くリンクしなければ・・・
そうは思ったがこの呼吸もろくに出来ない状態で本能を操るのは難しかった。
「教えて。あの鷹の本能使いは・・・」
「その前に・・・一つ、・・聞かせてくれ・・・」
「何?」
「蛇の本能とリンクした・・お前の手に掴まれたら・・・毒とか流れるのか・・・?」
「試してみる?」
俺の服を掴んた左手が離れ、
爪を立ててまた戻ってくる。
その瞬間。
俺から左手が離れた瞬間だ。
一瞬だが俺を締め付ける力が緩んだ。
俺は消えた犬の本能を出し蛇の女の左手に噛み付かせ、
溜まった本能パワーを削り取った。
「ーなッ!?」
俺は犬の本能を俺の腹に突っ込ませる。
犬の本能は貫通するように俺の体をすり抜け、
蛇の女に噛み付こうとする。
「くっ・・!」
蛇の女は後ろに大きくジャンプする。
だが少し手応えはあった。
犬の本能は少しだけ蛇の女に当たっていたようだ。
鎖骨が痛い。
さっき掴まれた時にやられたか・・・
「ゲホッ、ゲホッ・・・」
「その攻撃、鷹の本能使いがやっていた本能とのリンクを解いて本能そのものを出し、相手の本能に触れる攻撃ね。あなたたちインスティンクトってそういう攻撃が好きなの?」
咳き込みならが蛇の女の話を聞いていた。
何言ってんだコイツは。
お前だってインスティンクトだろうが。
まるでそれを集団のように言いやがって。
しかしなんだ。
その発言はなんか引っかかるぞ・・・
どういう意味で言ったんだコイツは。
「鷹の本能使いに教わった技だからな。これは結構便利だぞ」
「そうね、あなたたちインスティンクトにとっては便利かもね」
まただ。
「なあお前、その“インスティンクト”ってどういう意味だかわかって言ってんのか?」
「これ以上知りたくないってほど知ってるわよ。あなたたちにどれほどの本能使いがやられたことか」
「どれほどって・・・待てよ。高根沢が何言ったかは知らねーけどまだ俺たちはそんなに戦ってないぞ?」
「それ以上につまらない冗談って今まで聞いたことないわ。あなたたちインスティンクトはどういうつもりで本能使いを狩ってるのかしら」
「その言い方やめろよな。いちいちインスティンクトと本能使いって使い分けやがって。何を基準にしてんのか知らねーけどお前だってインスティンクトじゃねえか」
「私がインスティンクト?それも冗談よね?私はあなたたちに手を貸した覚えは全くないんだけど?」
「はぁ??」
「それとも私は以前あなたたちと組んでいたけど、何かを機にお得意の記憶を消す能力で私から記憶を奪ったのかしら?」
なんだこの会話。
とりあえず全く話が合ってないぞ。
もうよくわかんないな。
いっそズバッと聞いちゃうか。
「インスティンクトってなんだ?」
「さっきの質問ってそういう意味で聞いてたの?ホントにどうかしてるわ。私をなんだと思ってるのよ」
「いいから答えろよ」
「私がインスティンクトをどれくらい知ってるか確認するために聞いてるの?そんなこと知ってどうするのよ。結局は記憶を奪うんでしょ?まあそうはいかないけど」
俺は少し、蛇の女を睨んだ。
「わかったわよ。そうね、私は本能使いを片っ端から潰してる組織と思ってるんだけど。違う?」
インスティンクトが組織・・・?
コイツの言い方からして俺もそれの一員ってことか。
しかしコイツのこの情報はどっから来たんだ。
高根沢が吹き込んだのか?
何のために?
あとで高根沢に確認する必要があるな。
そして高根沢が何もしらないようなら、
今度は和田に確認する必要がある。
「もうあなたが何かを考えてる時間待っているのはうんざりよ。でもいい事を聞くことができたわ」
いいこと?
俺何か言ったか?
「鷹の本能使い。名前は高根沢っていうのね」
蛇の女は少し笑いながら言った。
あーやっちゃったな。
無意識に鷹の本能使いじゃなくて高根沢って言っちゃったのか。
俺は少しため息をつきながらもう一度犬の本能を出す。
そしてそれを俺に噛み付かせ、リンクする。
「やっとその気になったのね。何が引き金だかはサッパリわからないけど」
ちッ
コイツが鷹の本能使いの名前を知ったところでなんだってんだ。
どうせここで俺が潰すんだ。
コイツの本能も。ここで戦ったって記憶も。
「目つきが変わった。ちゃんとリンクしたのね」
くっそいちいちムカつくな。
なんで俺はこんなにイライラしてんだ。
本能とリンクするとこんなんだっけか。
「それじゃあいくわよ。言っとくけど手加減はしないからね。確実に聞き出して確実に潰す」
「安心しろ。お前が手加減しなくても俺が手加減してやる。だが潰れるのはお前のほうだ」
ここでコイツの相手をしているより、
早く高根沢と和田に聞きたいことがある。
さっさと終わしたいところだが、
本気でやっちゃったらマジで殺しちゃいそうだ。
つっても体も細いし骨の一本や二本はしゃーないよな。
それくらいの気持ちで丁度いいだろう。
「でも遊ぶ気はない。さっさと終わそう」
「そのつもりよ。手加減するのは勝手だけどその加減を間違えないようにね」
闘志に満ちた二人の体からはオーラ、というより
蒸気のようにそれぞれの本能が漏れていた。
投稿遅れてすみません。
ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルのイベントで
推しキャラがきてしまったため、そちらに集中し、
INSTINCT-インスティンクト-を書き進めるのが遅れてしまいました!




