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INSTINCT-インスティンクト-  作者: 空のアルカリ単4電池
1.COMENZANDO-コメンサード-
1/15

1.PERRO-ペロ-

人生最後の夏休み。

就職活動に追われ、休みという休みがない高校生が多いのではないだろうか。

だが、それとは真逆な生活を送った高校生がここにいた。

毎日同じメンバーでオンラインゲームを続け、気づけば昼夜逆転し

集合時間に起きてはゲーム。気分で終わしては寝てを繰り返し、

二学期始業式の前日で夏休みを振り返る。

別に普通と思う読者は理解できるであろう。

夏休みを一日残らず無駄にしたこの小説の主人公、-湊 心-(みなと しん)は

23時28分。大きな悩みを抱えていた。


「課題やってねえー・・・・」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


二学期の成績は就活に影響はでないと登校日以来話してすらいない高校の友人にアドバイスをもらい

布団にダイブしたはいいものの、昼夜逆転生活に慣れてしまった体はどうも動き足りないようだ。

時刻は1時56分。目を閉じてから二時間半、時計の秒針はワンテンポ狂わずに進んでいる。

もういっそのこと寝ずに学校に行こうと考え、PCに体を向けていた。

いつものオンラインメンバーはちょうど戦場に出掛けた瞬間で、ゲームの仕様で合流はできそうにない。

暇過ぎた。始業式前日でとうとう本当に無駄になってしまいそうな夜だった


「いや当日だな」


ネットサーフィンや考え事などで時間をつぶし、かれこれ時刻は4時ジャスト

やっと眠気がきたかと思い二時間は寝れることを確認し、布団に入ることを決めた。

椅子から立ち上がり足を運ぶ。一歩二歩三歩。

四歩目の時。全身に天から落ちる稲妻のごとく激痛が走った。

声は出なかった。

振り落ちた稲妻は体の動きをゼンマイ切れのカラクリのごとくぴったりと止めてしまい、

俺はそのまま布団に入ることに成功したのである。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


犬が鳴いていた。

目覚めた時に確認できたことはこれだった。

時刻は6時3分。目覚ましをセットしそこねた時間に起きることができたようだ。

ムクッと立ち上がり洗面所で顔を洗う。

鏡越しに映る親父はリードを左手に飼っている犬の散歩に行こうとしていた。


「ちょいまって!!」


親父を呼び止めた。


「なんだよ。今からお前がほったらかした犬の世話をするところだよ俺は」

「俺がいくよ、たまには俺が面倒みる。リードくれ」


親父は口をポッカリあけたまま俺に左手に握っていたリードを奪われた。

犬もポッカリとしていた。そんなに俺が面倒をみるのが不思議でならないのか。

構わずリードをつなぎ、犬を歩かせた。

ふと気がついた。

何故俺は自分で飼うと言って三日たらずで親父に役目をバトンパスした犬の世話を急にしたくなったのだろう。

考えてる間に学校の支度をする時間がどんどん減っていることに気付いた。

ダッシュで犬小屋に犬をつなぎ、餌をサッと盛ったあとふと話しかけてみる。


「すまん、今日はこれくらいで許してくれ。明日はもうちょい早起きするわ」

「気にすんな。さっさといけ、帰りにジャーキー買ってこいよ」


あぁん??

何か異変に気付いた時、

親父に急がされ、考えるのを後にした。

学校への支度を済まし原付で駅へ向かった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


少し眠かった。

揺れる電車の中でまぶたが重いのを感じていた。

いくつかの駅で止まる度にクラスメイトと合流し、二人の友人に同じことを聞かれた。


「また寝ないでゲームやってたのか?」


さすが、三年間も同じクラスだったやつは俺のことをよくわかっていた。

でもそうじゃなかったんだ。夜のあの激痛。一体なんだったんだろうか・・・

質問を受ける度に同じことが頭の中を過ぎった。


終点に着き、学校へ向かうためそこで降りる。

学校は駅から30分ほど歩いた場所にあった。

いつもは友人と話しながらのんびりと歩いて向かうのだが・・・


「なー、今日バスのらね?」

「確かに今日は暑い。8月が終わっても夏は夏なんだなー。賛成だわ」


どうやらこの二人は200円を犠牲にするようだ。


「あー、俺いいや」


バス停に向かいかけていた二人が足を止めた。

俺もなんで断ったのか少し疑問だった。

いつもなら「ホント暑い!200円なんて惜しんでられねーわ!」とか言ってバス停に向かっていた。

だが、断った理由が言えるちゃんとした気持ちはあった。

ただ歩きたかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今日は始業式だけだったので昼前で帰りのSHRは終わった。

友人とラーメン屋にいくことになり、昼食はそこで済ませた。

食後の運動!とか言い出した友人とゲーセンで野口二人をメダルにし、

地元の駅に着いたころには日が暮れそうだった。

暗くなる前にさっさと帰ってしまおうと考え、原付をとりに駐輪所に向かう時だった。


「おい。ちっとこいや」


声をかけられた。

声の主は駅から歩いて5分もかからない場所にあるヤンキー校の制服を着ている。

その時に理解できたことは始めて喧嘩を吹っかけられたということ。

今まで気に食わない奴は何人も見てきたが、喧嘩という発想はなかった。

よって俺は喧嘩をしたことがない。

逃げようという考えが生まれたが、それは男としてプライドが許さない。

だが今俺は高校三年の二学期を迎えたばかりの人間。

ここで問題でも起こせば今後の進路に響いてしまう。

いや、ひょっとしたらコイツは何か聞きたいだけなのかもしれない。

そうだ、俺みたいなヒョロヒョロした奴なんてコイツにとっては喧嘩の対象にもならない。

きっと何かを聞きたいだけなんだ。

声をかけられた理由を考えながらヤンキーについていく。

足が止まった場所は人気のない線路を跨いだ道路の下だった。

これは完全に喧嘩だ。

大体何か聞きたいならその場でよかったじゃないか。

ちっとこいやの時点で逃げとけばよかったんだ。

後悔しても遅かった。

こいつはもうバリバリの戦闘態勢に入っていた。


「なあお前、相手しろよ」

「いや俺喧嘩したことないしさ、俺みたいなのを相手してもつまらないと思うぞ」

「今日はお前みたいのを相手するのがいいんだよ」


うわこいつタチ悪い。

弱いものいじめ絶対大好きな奴だ。

そんな感想をもった瞬間ヤンキーはダッシュでこっちに向かってきた。

挙げられた右手は俺の顔面に落ちようとしている。

顔面に落ちようとしている。俺はそれを理解できている。

俺はこの突きの機動を読むことができていた。

左の掌で突きを綺麗に防いだ。自分でも驚いた。

喧嘩したことなくてもパンチ一つちゃんと抑えることができるのか。

ちょっとした優越感に浸っていたが、それは完全な無防備になってしまった。

次にきた攻撃。左足での回し蹴りは見事に俺の横腹に入り、俺の体は1m近く飛んだ。

威力たっけえぇ!

咳き込みながら思った。しかし攻撃は容赦なく続く。

顔面に風を切りながら飛んできた蹴りは目の前まできていた。

両手で蹴りを抑える。その時の反動は蹴られた横腹にも響いた。


「ーッ!」


痛みをこらえながら足を左手でしっかりと掴む。

そのままヤンキーの足を挙げながら立ち上がった。

確か似たようなプロレス技があった気がする。

ヤンキーの体は浮き上がり、頭から地面に落ちようとしていた。

足りない。空いていた右手でコイツの顔面にパンチ入れてやろう。

右手は既にギッチリと締め、顔面に向かわせた。

この振り落ちた拳はしっかりと顔面に入った。

ヤンキーの頭はスピードを上げアスファルトに後頭部を打つ音を響かせた。

その時少し後悔した。

これはちょっとまずい。

下手したら死んでしまうかもしれない。

ヤンキーは地面にぐったりとしていた。

喧嘩に勝ったはいいもののこの後どうするべきかわからなかった。

その時。


「その動き、やっぱりか」


ヤンキーから声がした。


「お前喧嘩したことないって言ってたよな。だがやり慣れてるみてーじゃんか」


ヤンキーはムクッと体を起こし、言い続けた。


「だったらこんな茶番は終わりだ。俺たちにはちゃんとしたやり方があるだろ。」


頭を打っておかしくなったのかこいつは。

無事そうで少し安心したが、別の心配をした。

しかし、その心配はこの人生で初めてのものになった。


「うおおおおおおおおおッ!!」


ヤンキーは声を上げたその時だった。

ヤンキーの背中から赤いオーラ、というよりビジョンが浮き出てきた。

驚いたなんてものじゃない。

俺は勢いよく地面に腰を打った。

俺は頭は打ってない。打ったのはヤンキーのほうだ。

俺はおかしくなってない。おかしくなったのはヤンキーのはずだ。

いや、確かにこいつはおかしくなっている。

だが、おかしくなるってこういうことを言ってるんじゃない・・・


「何ビビってんだよ・・・見えてるってことはそういうことだろ」


ヤンキーは気味の悪い笑みで言った。

背中から浮き出るビジョンは猿のように見える。

その猿はヤンキーを食うようにヤンキーの中に入っていった。

ドクン。

ヤンキーの心臓だろうか。そういう音が聞こえた

同時にヤンキーはぐったりとしてしまい、まるでゾンビのように立っていた。

何が起きているのだろう。

考えても仕方がない。

どうせ考えても答えなんて見えない。

どうなるのか、俺はただヤンキーをみていた。


「シャァァァァアアーーッ!」


ヤンキーは勢いよく頭を上げ、唾を撒き散らした。

俺はビクッと体を跳ねさせ目をまん丸にしていた。

ヤンキーは右手を振り下ろしラリアット、というよりひっかき攻撃をしてきた。

ビビったというのもあるが両腕で攻撃を防ごうとする。

だがひっかき攻撃は俺の両腕にザックリと傷跡を刻み、体を5m先に飛ばす。

背中でズリズリとアスファルトに摩擦熱を起こした。

傷ついた両腕を顔の前からどかし、ヤンキーをみた


「どうした!早くリンクしろよ!お前の本能は何なのか、見せてみろよぉ!!」


叫んだヤンキーの声は理解するには難しい言葉だった。

どうすればいいのかサッパリだった。

恐ろしいなんてものじゃない。

震えて頭も回らなかった。


「どうやらそこまで成長はしてねえみたいだな・・・」


ヤンキー何かを理解したようなことを言った。


「だがさっきのパンチは痛かったぜ。そんなもんじゃ気がすまねえ。もうちょい仕返させてもらうぞ」


獣の如く飛びついてくるヤンキー。

俺は逃げようと立ち上がろうとするが、ヤンキーの飛びつくスピードに遥かに劣っていた。

ヤンキーは左手で俺の片腕を掴み体を地面から浮かせた。

ヤンキーが右手を握った拳はアッパーで俺の腹を突く。

初めて吐血した。

俺の体はさらに3m近く浮き上がった。

そしてヤンキーは追い打ちをかけてくる。


「今回はお前の本能をみることができなくて残念だ。だが待ってやるよ。リンクできるようになったらまた俺の前に来い。」


もう一度、横腹にめがけられた回し蹴り。

俺はそれを防御することなく攻撃を受け入れた。

飛ばされた先で俺はぐったりと倒れこんだ。

ヤンキーはその場から去ろうとしている。

ボヤけた視界でそれを見ていると一つの発想がでてきた。

普通だったらこのままやり過ごすであろうこの状況で

俺はこいつをぶん殴ってやろうと思った。

それは湧き上がる闘志でしかなかった。

咳き込みながらゆっくりと体を起こす。

それに気付いたのか、ヤンキーは足を止めた。


「お前、まだ・・・?!」


ヤンキーは言葉を止め、驚いているように見えた。


「お前をぶん殴らねえと気がすまねえ・・・」


俺は血が流れる口を開いく。


「お前・・・まだそこまで成長してないんじゃ・・・」


俺の体からは青いビジョンが浮き出ていた。

その姿は、


「い、犬・・・?」


ヤンキーは俺をみて言った。

俺の体からは青い犬のビジョンが浮き出ている。

そのビジョンは俺を噛み付き、姿を消した。

ドクン、ドクン・・・

心臓が高鳴る。

目の前のコイツを殴りたい。

跪かせ、さらに顔面に蹴りでも入れてやりたい。

俺の中には闘志しかなかった。

今ならコイツを寝かせられる・・・!

俺は両手両足で地面を蹴る。

ヤンキーとの距離を縮め顔面を右手で掴もうとする。


「やりゃあできんじゃねえか」


ヤンキーは言いながら俺の右手を掴んだ。


「今の俺の握力は猿並だ!てめーのこの手をへし折ってやるぜ!」

「だったら俺の握力は犬の顎並に上がっている!お前は顔面の代わりにこの左手を砕かれることになる!」


バキキッ・・・

掴みあった手から聞きなれない音が聞こえた。

血が流れる腕から音と同時に骨が砕ける振動を感じた。

ヤンキーの表情は大きく変わる。

俺はそのまま手を引っ張った。

近づいてくるヤンキーの顔に空いた左腕を曲げ、肘打ちを入れる。

ヤンキーの顔は表情を変えずへこまされた。

同時に右手を離し、拳を作る。

ついにこの憎たらしい顔をもう一度殴れる。

バランスを崩したヤンキーは防御に入れず、俺の拳を顔面に迎え入れた。

まさにデジャヴ。

ヤンキーの後頭部はアスファルトを叩き、音を立てた。


「弱ぇ。お前の闘志じゃあ俺の拳を掴むことはできねえ」


倒れたヤンキーの横に血の混じった唾を吐き捨て、

湊 心は駐輪場に原付をとりにいき、ジャーキーを買いにコンビニへ向かった。


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