食堂
長い間放置していました。
すみません。
「さてっ!ここが食堂よ!」
元気の絶えないフィリアに連れてこられたのは俺がいた村の集会所より広い部屋だった。
等間隔に柱が伸びており、奥になんらかの小部屋があることを除いて特に仕切りのない部屋。
彼女曰くここが”食堂”と呼ばれるところなのだろう。
移動中フィリアに言われたが、ここは書いた字の如く食べ物を食すところだそうだ。
置いてあるものでパッと目に入るのは丁寧に並べられた長机と椅子。
そしてまばらに座っているのはほとんどが俺と同じ人だ。
多種多様な枝を体から伸ばし、あたかもそれが普通であるかのように楽しく話しながら見たことのない料理を食している。
中には何も生えていない人も見られるが、おそらくまだ生えたばかりの初期段階である人か職員だろう。
ふと、俺と同じくらいの背丈の植物が生えているのが目に入った。
「なぁ、フィリア。あの植物って…まさか…」
するとフィリアはいきなりプッと小さく笑い、思わず吐き出してしまった息に続くように俺の質問の内容を察したのかそれに対して答えを言った。
「いやいや、あれはただの木だよ。人から成った木じゃない…人であった木は日光を直接浴びれるように外に生えてるよ」
そうだったのか…………しかし、もう一つ疑問が生まれたため続けて質問する。
「じゃあさ、なんでただの木がここにあるの」
今度は笑い一つなく、まじめに答えてくれた。
「うーん、ほら木を見たり傍にいるとさ、なんだか心が落ち着くじゃん?」
彼女のいきなりそんな返答が来た事に軽い疑問を持ちつつ、その言葉を肯定するために無言で頷く。
「だから私の勝手な想像なんだけど、これは私たち木化病患者の心を落ち着かさる為にあると思うんだ。心を落ち着かせて、心のストレスが溜まらないようにほぐしてくれてるんだと思う。ほら、ちょっと前にリガヤさんも言ってたでしょ、笑えば病気の進行を遅らせることができる。たぶんそれも心をほぐしているからじゃないかな。ああやって傍にいるだけで笑うことと同じことが私たちの心のなかで起きているんだと思うんだ」
彼女の言葉は俺の心に深く染み込んでいった。
心は木の傍にいるかのように安らぎ、落ち着いていく。
「まぁ地面を芝生にしてみるとか、もっと自然に近づけてみるってのもアリだけども、ココ食堂だし…衛生上の問題があるからなぁ」
と軽い愚痴のようなものをフィリアがこぼしていると、あることに思い至ったのでそれをフィリアに投げかけた。
「でもさ、ただの木だからといって室内の明かりの下で生きていかないといけないってのもなんだか悪い気もするね。俺たちも木も同じ”生きている”のに扱いが違うからさ」
フィリアは俺の言葉に少々驚いたかのようにパチクリと目を見開いていた。
そして、目を閉じ体の中に溜まった空気を吐いてから反論する。
「んー確かにその意見も一理あるけども、私に言っても困るなぁ。どうしようもできないし」
「あ、はい」
「でもその考えはいいと思うよ。生きている………ねぇ。なんかないかリガヤさんとかに聞いてみよっか?」
「いや、いいよ。俺の愚痴みたいなもんだし」
「あら……そう。それじゃご飯食べよ!何食べる?病気の進行が進むと人が食べるようなものは殆ど食べれなくなるからいっぱい食べることをお勧めするよ」
なんか聞いてなかった恐ろしいことを聞いた気がするが……今は気にしないでおこう。
彼女は俺の手を引っ張て食堂の奥に突き進んでいく。
彼女の顔はいたって普通の笑顔だった、曇りのない太陽のような笑顔。
どこかその笑顔に懐かしいものを感じられた。
「何食べるって………何があるのさ!」
手を引っ張る彼女に問いかける。
「んーーーいろいろと。ハヤシライスとかカレーとかポークシチューとか」
…知らない料理。
「まぁエリルは結構辺境の村から来たってリガヤさんに聞いたからさ、知らない料理が多いと思うけどどれも美味しいからチャレンジしてみなよ」
恐らく全て知らない料理だろうな。
ハヤシライスって何だろう……………ハヤシさんが作ったライスの盛り合わせなのか、はたまた林のように盛ったライスなのだろうか。
興味はあるが名前から想像できない分恐ろしい。
ポークシチューってクリームシチューに豚肉を突っ込んだのかな…?
これはある程度想像できる分食べることに躊躇いはない。
カレーは…………わからない。
ただ辛いものということだけは想像できる。
何となくだが。
「お、フィリア。見ない顔連れてんな。新人かい?」
その言葉にフィリアが立ち止まったので俺も立ち止まる。
すると突然天井に配置された照明の光が何かに遮られ目の前に陰りができた。
後ろからニュウッと現れたので後ろを振り向くと大男が立っていた。
三~四メートルだろうか。
それほどまでに大きい男だ。
「あ、そだよロウダス。今日来た新人さんで、いま案内ついでに昼飯食べに来たんだ」
どうやらこの男はロウダスという名前らしい。
大きな体に見合った隆々とした筋肉。
筋肉の盛り上がりのように生えた木。
そして手入れをしていないように見える顎鬚。
その男は俺の顔を一目見て何やら困った顔をし、顎鬚を擦りながら言った。
「ほう…………。まぁ坊主、新しくきた輩は皆俺の体を見て驚くが、そんな怖がらんでもいいから着やすく接してくれや。そっちのほうがオレとしても助かる。俺はいずれバオバブちゅう大きな木になるロウダスというもんよ、よろしく」
そう言いつつ俺に大きな手を伸ばして来たので握手と解釈しその大きな手を握る。
「俺の名前はエリルです。金木犀………ですね。よろしくお願いします」
「おうよそんなかしこまらんでええ、気楽にいこうや。………………ところでフィリア」
「ん?」
ロウダスは手を握ったまま再び話の対象をフィリアに戻した。
「おぬし、さっきハヤシライスとかカレーとかポークシチューとか言ってたけども、なんでそれをチョイスしたんだ?全部茶色じゃねえか」
茶色なのかハヤシライス。
白、もしくは林を表現してみましたということで野菜を混ぜて緑色なのかと思ったが………茶色なのか、幹の色なのか。
そしてポークシチューもミルク色かと思いきや茶色なのか。
いったい何を混ぜて茶色にしているのやら。
「いやぁ、おいしいもんを特に考えず挙げてみたらこんなことに」
「他にもあっただろう………」
彼女はなにも握っていない手で頭部を掻き返答し、ロウダスは頭を垂らした。
「まぁ、エリル。こいつ勢いだけで突っ走るところがあるが、仲よくしてやってくれ」
「あぁ」
「アンタは私の母か!?」
握手している手を再び強く握りしめ、フィリアは少し身を引いてツッコんでいた。
「よし、それじゃ行くよエリル。歩いていくよ」
「いや…そういう意味じゃないかと」
フィリアに腕を引っ張られたのでロウダスの手を放し、軽く手を振って引っ張られるがまま彼女についていく。
ロウダスが再び頭を垂れていたのは気にしないでおこう。
さて、何があるか分からないが何を食べようか………。
彼を離れてから俺の頭の中はそのことでいっぱいだった。




