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憂いし

作者: 灰
掲載日:2013/02/02

僕は、正常だ。



そんな正常な僕は病室にいる。


ここがどこの病院で、なぜ僕がこの病室にいるのかは知らない。

興味がない。



食事、入退室、持ち物、ほぼ全てが管理されている。


女性の看護師が決まった時間に食事を用意してくれる。

入退室は1週間のうち3日は出てもよいことになっている。

持ち物は、この病室の好きな場所に置いたりしてもいいらしい。


もはやここは僕の部屋だ。


といっても、今持っている物は1冊の本しかないのだが。

読む気になれない。


唯一の自分の持ち物なのに。

気が向いたら読むとしよう。





午後4時。




いつから僕はここにいるのかは覚えていない。

つい最近のようにも思えるし、最初からここにいたようにも思える。


コンコンッと、ドアがノックされて女性が入ってくる。


彼女は、毎日頻繁に僕に会いにくる。

といっても、僕は彼女のことは知らない。

まあ、看護師だからだけど。


僕の専属看護師といったところか。


「何か用はありませんか?」


ない。


「それでは、また来ますね。」


午後9時。


食事を終えた。


暇だ。


病院生活で最も暇だと思った。


読もう。

本を読もう。


そう思いながら、僕は唯一の所持品である本を読んだ。

それはそれはとても奇妙な本だった。

タイトルは「憂いし」。

精神病院に通っている少年の話...だ。

だけど、よくわからない。


結局少年はどうして自殺をしたのか。

結局少年は何を思ったのか。


訳が分からない。


気が付くと、いつもの就寝する時間だったので僕は眠ることにした。







ああ、どうしてあなたは、殺したのですか。

他人を殺し、自分を殺し、それでも生きている。


なぜ私を殺さなかったのですか。 こんなに愛してるのに。

私の右腕も、左足も、耳も、目も、あなたに捧げたというのに。






目が覚める。


この部屋に唯一ある高い窓が朝であることを教えてくれる。


窓を見ても、空しか見えない。



コンコンッと、また彼女が食事を持って入ってくる。

「用はありませんか?」


ない。


「それでは、また来ますね。」




そういえば、僕は彼女以外の人間を見ていない。

この部屋に訪れるのは彼女だけだし、週に3回だけ外で運動する日も、

彼女だけが僕についてくる。


病院なのに、狭くて、不気味。


そういえば髪が長くなった。

目に入って痛い。

次彼女がきたときに切ってもらおう。

鏡があれば、自分できりたいものなのだが...


この病院には鏡がないので自分が見えないのだ。

だから、僕にとって人間とは、彼女以外には知らない。

昔の記憶も、分からない。



数時間がたって彼女が来る。

「用はありませんか?」


「髪をきってくれ。」


「わかりました。」


そういうと、彼女はポケットから銀色のハサミをとりだして、僕の髪を切りやすいように

態勢を整えさせる。


擬音を表すのが苦手なので、おおざっぱにいうとジョキジョキと髪の毛が切られていく。

中々のものだ。


ハサミで前髪を切り始めたとき、一瞬だけ、一瞬だけ。


ハサミに自分の顔が反射した。


それは、とても違和感があり、

その違和感は、僕に向けられたものではなく、

その違和感が、彼女に向けられた。


奇声が聞こえる。

ああああ、なのか、うううう、なのか。

分からない。


でも、その奇声を出しているのは

まぎれもない、僕だった。


ああ あああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああ ああああああああああ  ああああ  ああああ あ  ああああああああああああああああああああああああ あ ああああああああ  ああああああああああああああ   あ あ あ ああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああ ああああああああああああああ あ  ああああああああああああああ  あああああああああああああああああ   あああああああああ  ああああああ  あああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああ ああ あ    ああああああああああああああああああああ ああああああ あ       ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ あ あああ あああああああああああああああああ ああ あああああああああああああああああああ あああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああ ああああああああ        ああああああああああ  あああああああ あああああああああああああああああああ ああああああ   ああああああああああ あああああああああああ ああああああああああああああ  あああああああああああああああ  ああああ ああああああああああああああああああああ  あああああああああ あああああああああああ   あ   ああああああ あああああああ ああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああ あああああああああ ああああああああああああ ああああああああああああああああああああああ あ ああああああああ あああ ああああああああああああ  ああああああ あ ああああああああああ ああああ  ああああああ あああああ ああああああああああああああああ ああ あ ああああああ ああああああああああああああああ あああああああ ああああああああああああ あああ あああああ  あああああああああああああ  ああああ ああああああああ あああああああああ ああああ あああああああああああああ ああああああああああああ  ああああああああああああ あああ ああああああ  ああああああ  あああああああああああああああああああああああああああ  あああああああああああああああああ     ああああああああああ



ああ。ああ。ああ。


なぜ僕は気づかなかったのだろうか。

それとも、忘れさせられていたのか。


彼女は。

彼女の顔は。

片耳を失い、片目を亡くし、曲がってしまった鼻。


彼女は、僕の。


唯一の妹だった。


彼女の顔が普通とは違うことに気づくには、比較対象がなかった。

だからこそ、彼女が異常であることには気づかなかった。


でも、自分の顔と彼女の顔を比較して、すぐに分かった。


そして、顔以外も。


右腕の動きはぎこちないし、左足はよく見ると義足だ。



なぜ、彼女は

なぜ、僕の妹は


いや、分かる。 すべては僕のせいだ。






その時僕はまだ特殊急襲部隊、SATに入隊して5年がたとうとしていた。

僕の家族は、義務教育を終えるまでに亡くなってしまった。

唯一の家族は、妹だけだ。


そして、僕がこうなってしまった事件が起きた。

3年間追いかけていた、テロリストを追い詰めることに成功した。

そいつらは、ビルに立てこもっていた。


そして、その立てこもりを攻略した。


素早い手際だった。早急に爆弾を解除し、人質の救出。

リーダーと、その部下との銃撃戦を終え、体中に銃弾を受けたリーダーの仮面をとった。


それが地獄だった。


リーダーは、僕の妹だったのだ。


なぜこんなことを。


彼女曰く僕のため。なぜ?


僕は夢中になって死にかけの彼女を連れだした。

チームを何人か殺した。



その事件に最も貢献したのが僕で、最も罪を犯したのは僕だ。

連れ出して逃げたあとは、簡単につかまり、


そして。僕は


僕は狂った。




「お兄ちゃん、ごめんね。」


彼女は、妹は

その言葉を残して。

今、ここで、自殺した。


たった今。


自分の文章のつくりが狂っている。

僕は、何もなくなった。


何も残せないし、何も伝えられなくて、何も。


そして僕は頭に拳銃をつきつけて死んだ。

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