茅野先輩の噂
「莉子ってさ、茅野先輩と仲良いよね?」
1カメ、2カメ、3カメ。
「……へ?」
私の間抜けな顔をぜひ別角度で写して欲しい。
私立、春風高等学校。白亜の校舎とローズガーデン。美味しい料理のカフェテリアと、メルヘンな制服。自慢の学校である。
そんな我が校で大変有名な先輩の名前が、今、親友である篠原海の口から出た。
「中庭でいっつも戯れてるじゃん?」
にやにやと揶揄うように私を笑う海。
吊り目がいたずらな猫のように細められている。
「茅野先輩と?私が?仲良し……?」
スペースキャット、スペースキャット。
「……いや、よくしてもらってるけど、他の人と同じでしょ」
へら、と笑うと、海は台パンして力強く言い放った。
「違うね!!茅野先輩にはあんたにしか見せない顔があるっっっっ!!」
いや、そんなこと……ないと思いますけど……。
件の茅野先輩は、この学校の三年生である。
眉目秀麗、文武両道、才色兼備、深窓令嬢。
……いや、最後のやつはちょっと違うけれども。
とにかく、ありとあらゆるすごい四字熟語が当てはまってしまう人なのだ。
成績表の上位十名の中にいなかったところを見たことがない。
そんな先輩は、人によれば。
曰く、クールだとか。
曰く、氷の姫だとか。
曰く、……近づくなオーラがあるだとか。
私にとって先輩はラブリーで桜の精でじゃれつくねこちゃんなのだが。
みんなは先輩を誤解している!!
あんなに柔らかく笑う人を私は知らないのに。
中庭に向かって、先輩の姿が見えた時、
桜色の髪が風に舞う様子に。
淡いラベンダーの瞳が長いまつ毛に伏せられる様子に。
白い手が文庫本のページがめくる様子に。
私は、すこし、心惹かれる。
「こんにちは、久留米ちゃん」
なんて、少し優しい声が私に向けられるのが、私はすこし、気に入っている。
「……こんにちは、茅野先輩!」
私は今日も、茅野先輩のお弁当係で、
茅野先輩の、お世話係。
「今日のおべんと、なぁに?」
……あれ、もしかして。
ふわりと首を傾げる先輩を見ながら思う。
『茅野先輩にはあんたにしか見せない顔があるっっっっ!!』
『茅野先輩?クールだよね〜』
『ぜんっぜん笑わないらしいよ!「氷の姫」だって』
『近づかないでオーラっていうの?壁あるよね』
……先輩って、私にだけとくべつ?
「久留米ちゃん?どうしたの?」
うぅ〜……ん?
「?」
私を覗き込む先輩。
「……そんなわけないですよね〜!」
笑って先輩の隣に腰掛けた私に、先輩は言う。
「なに急に」
茅野先輩の笑う顔は、いつも通り、
「超可愛い〜〜‼︎」
「今日いいことあったんだね〜久留米ちゃん」
今日も可愛い茅野先輩と、噂に疑う日々。
私、久留米莉子は果たして先輩を知っていけるのでしょうか…?




