プロローグ 今日も可愛い茅野先輩
私には、昼休みになると必ず向かう場所がある。
校舎の真ん中にぽっかりと空いた中庭。手入れの行き届いた芝生と、季節の花が咲く花壇。その中央に置かれた白いベンチ——そこが、私の定位置だ。
正確に言えば、私の定位置になってしまった場所、なのだけれど。
「……あ、来た」
ふわり、と春風が吹いた。
陽の光を受けて、パステルカラーの髪がきらきらと揺れる。
ベンチに寝転がっていたその人は、猫みたいにゆっくりと上体を起こして、私を見つけると嬉しそうに目を細めた。
「こんにちは、久留米ちゃん」
茅野先輩。
春風高校三年生で、中庭の主で、そして——
「今日のおべんと、なぁに?」
究極のかまってちゃん。
「……はいはい」
私はため息をつきながら、左手に持っていた弁当袋を先輩に差し出す。
これがもう、日常になってしまっているのが怖い。
茅野先輩は、あざとい。
甘え上手で、距離感が近くて、何を考えているのかよくわからない。
それなのに。
「久留米ちゃんのおべんと、おいしくてすき」
そう言って笑う顔が、あまりにも無防備で。
この人が学校中で有名な“無口な先輩”だなんて、誰が信じるんだろう。
——このときの私は、まだ知らなかった。
先輩には私だけに見せている顔がある、と言われることを。
心当たりはなく、日常の顔を見ても、その全部が可愛すぎて、
どれのことなのか、さっぱりわからなくなる未来を。
私的な癖を詰め込んだ初GL作品を、どうぞよろしくお願いします。
'26 1/6 〔日間〕現実世界 恋愛 でランクインしました。
ありがとうございます




