女神サマがくれたレアスキルは「同情」でした
青一つない曇天の空。
世の中的にはゴールデンウィークとかいう「金の七日間」
金ないやつはどうすりゃいいの?
そんな疑問が湧いてくる。
この世に生を受けてからxx年。ゴールデンなウィークなんてあった記憶はない。
「ふっ」
……自虐的に笑うアニメのキャラクターの真似をして笑ってみたが、一瞬も面白くなかった。
「あーあ。第三のビールでも飲むかー」
お供は柿ピー。失敗してピーナツ多めを買ってしまった。柿の種だけ食べたかったのに。とりあえず柿の種だけを食べつつ、ビールを飲む。
ピーナツばかり溜まっていく袋を覗き込み、わずかな柿の種を探していると、どこからともなくリンゴンリンゴンと鐘の音が聞こえてきた。
聞きなれない音なので、携帯のアラームではないと思う。
♪リンゴンリンゴン…鳴り続ける鐘の音。
気にぜず袋をシャカシャカと振り柿の種を探す。
しかし止まない鐘の音は真上から聞こえると思って見上げると、天井にぽっかりと穴が開き、光の中を3人の天使がクルクル回りながら降りてきた。
「ほえ?」
天使の背後には犬がひくリヤカー。
「もう疲れたよね?」
一人の天使がそう言い「はい。乗って乗って」と、私は無理矢理リヤカーに乗せられた。
状況が理解出来ないまま、リヤカーは天井の穴を通って青一つない曇天の空へ昇っていく。
「夢?えっ?えっ?」慌てて振り返ると、自宅の屋根には大きな穴が開いたままだった。
「あれ閉じなくていいの?つか閉じてよ」午後から雨が降るって天気予報で言ってたし。
天使に向かってそう言うと「チッ」と舌打ちし、オムツ?パンツ?の中からキラキラした星のスティックを取り出して、ブンッと一振りした。
すると「ドーン!!」という音と共に自宅にトラックが突っ込んだ。
あんぐりと口を開ける私をフンッと一瞥する天使。
その後何事もなかったように飛び続ける天使たちに、私も何も言わなかった。(言えなかった)
ふわふわ飛び続けるリヤカー。
リアルな浮遊感で、三半規管が対応出来なくてきぼちが悪い。人生初の「リヤカー酔い」に、おえっぷおえっぷとあがってくるものをなんとか堪える。
リヤカーをひく犬がゼェゼェしてるのを見るのがしのびなかった。
雲を抜けると、モコモコした大きな雲が一つ浮かんでいた。
吸い込まれるように雲の中に入ると、そこは神殿のようだった。
神殿に入ると急に犬からリヤカーが外れたため、リヤカーが急停止。
ゴロゴロと床に放り出された私は、我慢していた第三のビールと柿の種をぶちまけた。
犬はよろよろと神殿の端に行きバタリと倒れた。
ハッハッハッハッと、荒い息遣いが聞こえる。
相当重かったよね。ごめんよ。でも私も気持ち悪くてそれどころじゃないんだ…
体を起こし、膝を抱えて座り込む。
吐き気も少し治った頃、さっき星のスティックを出したとは別の天使がおもむろに、オムツ?パンツ?の中からラッパを出し吹いた。
♪ぱ〜ぷ〜
豆腐屋かっ!と、心の中でつっこむと「豆腐屋か!」と声がし、女神のような鬼神のような女性が現れた。
女性はゆっくりこちらに向くと「よくおいでくださいました。あのまま自宅で寝ていたら、トラックに轢かれるところでしたね」そう言って優しく微笑んだ。
「は?いやいやいや。あれ、そこの天使が…」そこまで言うと、天使は酸っぱい顔をし、女神は鬼神の顔になっていた。
「あ〜…あ〜…助かりました?」空気を読める日本人パワーを発揮すると、みんなにっこりしたのでどうやら正解。
そのあたりから女性を「女神」として見れなくなった。2択のうちの女神が消えたとなれば、残りは必然的に「鬼」だ。
「あなたには「私の庭」…あなたからみると…そう、異世界になります。そこでその異世界の未来を救って頂きたいのです」
胸に手を当て、祈るように鬼が言う。
「あ〜…え〜っと…ありがたいお話ですがお断…「行って下さるのですね!ありがとうございます!あなたにレアスキルを与えます!」
人の話を遮った鬼がスッと手をあげると、3人目の天使がドヤ顔で箱を目の前に置いた。
「このスキルは天界でも大変珍しく、取り扱い注意の棚にねむっ…大切に保管されていたものになります」鬼が言うと、ドヤ顔天使が顎をくいっとし「ほら、開けてみな」みたいな目ぇしてる。
…こういう時気をつけないと、だいたい変なもの出てくるからなぁ…
気をつけながらそっと蓋を開ける。
「えちえち♡えんじぇる。誘惑編…」
箱の中から出てきたのは、ピンク色の髪の天使が涎掛けをし、セクシーポーズをしている写真集だった。
瞬間「えちえち♡えんじぇる」は青い顔したドヤ顔天使に奪われ「同情」と書かれた本に変わっていた。
奪われた「えちえち…」は、ドヤ顔天使が慌ててパンツの中に押し込んでいる。
それを見た星のスティックを持つ天使。
ドヤ顔から「えちえち…」を取り上げ、床にパァンッッッ!と叩きつけた。激おこでドヤ顔天使を殴っている。無抵抗のまま殴られるドヤ顔。どうやら二人は恋人同士っぽい。
鬼が「まあまあ許したげて」なんて笑顔で仲裁。その隙に、ラッパ天使が赤い顔しながらえちえち♡えんじぇるを夢中で見ている。
カオスである。
えちえち♡えんじぇる…
普段から裸の天使にしてみれば、涎掛けしている方がチラリズムでエロなのかな…
なんて考えながら「同情」をぱらりと捲る。
すると「同情」が、しょぼっとしたカスっぽい光を放った。
あまりの光のカスっぽさに、今の今まで混沌だった鬼と天使たちが私に同情の目を向けた。
ラッパ天使が「えちえち♡えんじぇる」を私に差し出して、肩をポンポンと叩いて去って行く。
「え?くれるの?でもこれ、ドヤ顔の…」
スティック天使にボコボコにされたドヤ顔は「いいってことよ…」みたいな「助かった」みたいな顔で微笑んだ。
「ささ、遠慮なく!」とでも言わんばかりに笑顔のスティック。
空気読める日本人としては、とても「要らない」とは言える雰囲気ではなかった。
まあ、もらっておいてゴミに捨てるという大人の対応すれば良いかと、一旦もらっておく事でここは収める。
それよりも異世界行きの話は断固として断らなければならない。
鬼が「異世界を救って」と言っていたので、救わなければいけないヤバい世界ということだろう。道のりが困難なのは目に見えている。
たとえ今の暮らしに不満があったとしても、わざわざ困難に立ち向かうほど馬鹿ではない。異世界の食事もトイレも不安だ。
昆虫系の魔物が出ると想像しただけで死が見える。
それに「レアスキルを授ける」とか言って、まさかこの「同情」がレアスキルだとしたら…
初っ端から「同情」を得るような立場からのスタートという事だ。
うわ…最悪。
ん〜……でも、待てよ?
もしかして「わらしべ長者」のように、同情だけでのし上がっていける?
魔王と対峙した時、同情されて世界を救うとか?ありかも?
「いやいや、ないわ〜」
とにかく私は行かない。行きたくない。
家にトラックが突っ込んでいたとしても、今、私は生きているのだから。
家は補償でなんとかなるだろうし。
意を決して、立ち向かうべく鬼に目を向ける。
そこには号泣中の鬼。
「あの…どうしました?」
「だってっ!…あなたが可哀想で……私に騙されて異世界に送られるなんて不憫すぎて…家も天使がトラックを突っ込ませちゃったし…リヤカー酔いでゲロまみれだし…どうせこの先長くないのに…」
ひっくひっくとしゃくりあげて子どもみたいに泣いている。
「え〜…」
先が長くないって…言わないで欲しかった。
自責の念により、ひとしきり泣いた鬼が意を決した様に立ち上がった。
「…私は本当に女神なの?そうよ!私は女神よ!この人を救わず誰を救うというの?こんなちっぽけな人間も救えずに女神を名乗る資格はないわ!」自問自答が声に出てる。
鬼は私と向き合うと「私があなたを救って差し上げます!あなたを元の世界に戻します!いままで通りのつまらない生活をさせてあげましょう!」そう言ってにっこり笑って見せた。
「ちっぽけ」とか「つまらない生活」とか。いちいち癪に障る言い方するよね。
自分を女神だと言った鬼は、スティック天使から星のスティックを取り上げると、ブンッと一振りした。
。。。
気がつくと私は自宅にいた。
手には「柿の種多め!」と書かれた柿ピーと、第3のビールじゃないビール。
屋根に穴も開いてないし、トラックも突っ込んでない。
「なんだったんだろう……」
そう呟きながら床に落ちている「えちえち♡えんじぇる。誘惑編」を拾ってゴミ箱に捨てた。
その後。
「ん?今、同情された?」みたいなモヤっとすることが増えた気がする。
★「青ひとつない曇天」はコロン的に「なんとなく気分が上がる」今一番のお気に入りのパワーワードです。
★誤字修正のお知らせ、ありがとうございました!助かりました。
お読みくださりありがとうございました。