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第08話 女神様とデート最も大切なことそれは、適度な緊張感


 翌日、僕たちは街にお出かけすることになった。

 目的は清潔感のある洋服を買うこと。

 

 休みの日に義理の姉弟とは言えど男女が二人で出かける……これはデートと言って差し支えないだろう。

そんな事実に気づいてしまったので、緊張で眠りが浅くなってしまった。



それも家から一緒に出かけるのではなく、わざわざ駅前で待ち合わせになっているのだから、これは完全にデートと言っていいだろう。


 僕にとって人生最大のイベントと言っていい。



 はやる気持ちを抑えベッドから起き上がって風呂場に向かう。

 さきに使った人がいるようで湿気を感じる。


「春姫さん先に使ったんだ……」


 僕のために大切な時間を使ってくれたことが申し訳ないという気持ちが溢れる。当然別に他意はない、ないったらない。

 全身をくまなく洗い青髭が残らないように丁寧に剃り、クリームを使って保湿する。


 身だしなみの基本はやはり清潔感だと言うことを、身に染みて理解させられた。

例えば洋服に皺があるだけでも、ずいぶんみすぼらしく見える。


 義母さんがアイロンをかけてくれるおかげで楽が出来ている。

男所帯だと細部にまで気が回らないから、異性の目の重要性を痛感した。

 

人は中身なんていうけれど、結局は見た目が第一。


 春姫さんのレッスンを受けるようになってからの僕は、数割マシで格好良くなったと思えるぐらいには自信が付いてきた。

 メンズメイク……とまではいかないまでも、日焼け止めは塗るようになった。


 春姫さんに紹介された美容室で教わった通りにドライヤーをかけて、ワックスを使ってセットした髪型が、どうにも以前より悪く見える。


「大分慣れて来たな……」


 でもなんか足りない。

 違和感が拭えない。


 髪を切ってもらった直後は、数割マシに格好よく見えたのだがいまはなんか微妙だ。

 やっぱりプロと素人とは違うらしい。

 両手に良くなじませたワックスの量が悪かったのだろうか?


 それでも鏡に映る自分が別人のようで、少し毛先を整えるだけでここまで変わるものなのかと感心した。

 行きつけの床屋で十分だと思っていた俺は、春姫さん一押しの慣れない髪型を見慣れず鏡越しにじろじろと見てしまう。


「やっぱり人にやってもらうのと、自分でやるのは大違いだな」


 時計を見ると時間がやばい。


「前髪が決まらないとか、恋する乙女かよ! 今日日秋元先生でも多分そんなベッタベタな歌詞かかないよ!」


 焦りながらワシャシャワシャ、クシュクシュと毛束を作り前髪を整える。


「まぁこれでいいか……」


 クローゼットの中にある僕の洋服は、中学生丸出しの英語Tシャツやガイコツなどの痛々しいものばかり、その中から事前に厳選しておいた無難なモノを組み合わせる。


「難しい……」


 今日男性向けファッション誌を買い参考にするか、マネキンコーデ一式を何セットか買うのが無難だとおもう。


「これってデートなのかな?」


 不意にそんな言葉が口を付けば、そわそわとした感情が胸の奥底から溢れ出してくる。


(意識するな相手は義理とは言え姉だぞ? それが義弟と恋愛なんて……それなんて再婚系ラブコメ? 最近流行ってるよね再婚系とあまあま系……個人的にはもう少しストーリーがある作品が好きなんだけど……)


いかんいかん。つい動揺から思考がそれてしまった。


「落ちつくんだ……『素数』か『円周率』を数えて落ちつくんだ……『素数』は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字…わたしに勇気を与えてくれる。2、3、5、7、11、13、17、19、21、23……」


 『世界を一巡させた神父』がやっていた精神統一方法思い出し試してみるも、あまり効果はなかった。


 今日の僕の服装を一言で現わせば地味の一言で終わる。

 無難に黒色を基調としたセットアップコーデに、インナーにスエットを合わせ、ウエストポーチを肩から流すだけ。

 スニーカーも履き慣れた靴を履いて待ち合わせ場所に向かった。


 僕は恥ずかしながら、少し緊張した面持ちで待ち合わせ場所である駅の東口二階のペデストリアンデッキに、一足先に到着するとスマホを弄り今日の予定を確認していた。

 周囲には僕と同じように待ち合わせの男女が多く少しばかりいたたまれない気分になる。


「待った?」


 バッチりと決まった美少女が人混みのなかから現れた。

 絹糸のようなサラサラの茶髪は、陽光を反射し天使の輪が浮かんでいる。


 パステルカラーの薄手の外套の下にはワンピースのような上下一体型のTシャツのような服を着ていた。

 綺麗さの中に可愛さも同居した二律背反の様相は、まあなんとも雰囲気がある。としか表現できないのが語彙とセンス、それに知識に乏しい僕の限界だった。


 とにかく素材がいいのかシンプルなファッションながら大変似合っており、まるでファッション誌や写真集の一ページに写り込んだ芸能人を生で見るような情景に僕は思わず息を呑んだ。

 一拍遅れて彼女の言葉に返事を返した。


「ううん。僕もいま来たところだよ」


 それはなんのお面白みのないお約束のやりだった。

 彼女は頭のてっぺんから爪先までじろりと眺めるとこういった。


「こうしてお洒落着をしてみると、トレーニングの成果を感じない? ウエストが緩くなんたとかシャツがきつくなったとか?」


 そう言うとクルリと回る。

 裾がめくれ上がり、色白なふとももと魅惑の三角形が見えた。


(エッッッッロッ!!)


 三月ともなれば四季を感じ辛くなってきた日本と言えども、外気温は高くなってきている。

 天気が良く暑いのか、主張の激しい胸の谷間が露わになっている。

 僕のマイサインがヤる気を出し始めるのを感じる。


ムッ! ムクムクムクムククククク――ゥっ!!


「うん、感じるよ。ウエストとシャツが緩くなった。受験シーズンのストレスや運動不足も相まってかなり太ってたみたい……」


 シルエットラインを崩さずに、パンツラインを調節する方法を教えて貰ってよかった。

 

 

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