表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/18

第15話 閑話① SIDE:春姫 手を差し伸べられた女神様

 私『龍田母春姫』の半生は、ドラマチックと言っていい。

 それは私の両親によるところが大きい。

 母は英国貴族の血を引く日英ハーフで、父はカナダ系オーストラリア人。そんな二人は仕事で出会ったと聞いている。


 仕事第一の父と私優先の母の生活は、次第に嚙み合わなくなって最終的に二人は離婚。

 母は私を連れ去るようなカタチで日本に帰国、私はストレスからか体重が増加した。全ては私の体に流れる白人の血のせいだ。


 胸が大ききくなったり顔が整っていることだけはメリットだと思うけど、太りやすいのは女の子的には気になる。


 来日したばかりの頃に私は日本語があまり得意でなかったので、よく話しかけてくれた男の子のことが好きになって告白そして振られた。

 その時は悲しくて一晩中泣いた。


 あれはそんな日のことだった。

 振られたショックから私は学校が嫌いになって、学校を休みがちになっていた。


 でも外にでないといけない気がして夕暮れの公園でブランコに座っていた時のこと、夕立が降り始めた当然傘なんて持っていなかったから、ずぶ濡れになるんだと思っていると、同い年ぐらいの男の子が声をかけて来た。


「傘ないの? あげるよ。女の子が体冷やしちゃだめでしょ?」


 リュックサックを背負った少し丸い男の子が傘をくれた。

 特別イケメンという訳じゃなかったけど、傷心の私の逆立った心に染みた。


 このことを勇気くんに話した時に「『滑り台行き』か『豊橋送り』かよ」と言われた。


(滑り台行きってなによ? 文脈からしてフラれた女の子が滑り台にいるのは、判るけど……あと豊橋市に失礼でしょ?

 それに傘を差し伸べてくれたのは君でしょ。忘れてるみたいだけど……)


 と少しだけモヤモヤした。


 悲しさから怒りに感情が反転し、私を振った男を振り向かせて振るために自分磨きを始めた。

 傘を差し伸べてくれた男の子のことが気にならなかったと言えばウソになる。

 だけどあんな再会になるなんて……




「お母さん再婚しようと思うの」


 高校入試を控えた私に対して、母は寝起きの朝一番に相談というカタチで決定事項を告げた。


「私寝起きなんだけど急過ぎない? こういう話はランチかディナーの時に言おうよ。朝一番では流石に重いって……」


「じゃあ詳しい話は帰ってからね。朝ごはんは作ってあるからお昼は適当に食べてね」


 母は自分の言いたいことを言うと仕事に向かってしまった。


 最近外食や出来合いのものが多かったせいで、野菜室で萎びかけていたキャベツを消費するため、お昼は餃子、夕飯には回鍋肉を用意していた。


 母はイギリス人のハーフなのにワインよりもビール、特に日本式のものを飲んでいる。キンキンに冷やしたビールを喉越しで楽しむのは、ドイツビールにない美味しさがあるのだとか……。


 母も素面では話辛いのだろう、帰宅そうそうビールの缶を開けた。

 毎日の光景ではあるが、今日ぐらいはそう思いたい。


「はい。枝豆と中華冷奴」


 小鉢に移した冷凍枝豆はともかく、豆腐は賞味期限の都合上、明日の味噌汁の具材か昼食の麻婆豆腐になる予定だったので好都合だ。

 豆腐に、豆板醤とスーパーで買った調味料をぶっかけた手抜きお通しを食卓に置く。


「ありがとうー。春姫は料理上手ねー」


「はいはい。いま餃子と回鍋肉焼いてるから待ってて……」


「朝も言ったけどお母さん再婚しようと思うの」


「朝も訊いたよ……いい人が出来たんだ良かったね。ワタシに遠慮せず再婚しなよ」


 お母さんは女手一つで私を育ててきてくれたんだ。

 幸せになる権利はある。


「普通『どんな人なの?』とか『子供はいるのか?』とか訊くでしょ?」


「はあ……訊いたって仕方がないでしょ? お母さんが私に相談するってことは二人の間では再婚は既定路線なんだし、そんな二人に冷や水をかけるぐらいなら私は応援するよ? それとも絶対に認めないって、結婚を反対する新婦側の頑固親父見たいな敵役をしてほしかったの?」


 人間幾つになっても色恋をしていいと思っている。私としては別に母の再婚に反対するつもりはない。

 女手一つで義務教育まで育て上げ、ひと段落ついたのだから、自分の人生に華を添える事自体に、異を唱え(わだかま)りを作るつもりはない。


 しかし相手がどんな男性か分からないので、諸手を上げて歓迎とは言えない。

 例えば相手がフリーターとかだと、幾ら職に貴賤はないと言う建前とはいえ、万人に喜ばれる仕事ではないし。


 逆にいい年した母が娘とそう変わらない年齢の女性を掴まえて来たら、犯罪ではないモノのもやっとすると思う。


「そうじゃないけど……我が娘ながら面倒な娘ね」


「そんな娘に育てたのはお母さんでしょ? 私が日本語覚えたの漫画とアニメだったし……」


「そうだったわね。理解してくれてありがとう熊雄さん持ち家だから引っ越すことになるから荷物を纏めておいてね」


「判った。お母さんの分も準備しておく」


「よければ事前に熊雄さんと会ってほしいの……」


「判った」


 私としても続柄上、自分の父になるのだから事前に顔合わせぐらいはしておきたかったので渡りに船だ。

 もし私に手を出そうとする変態親父なら、心苦しいが反対しなければならなくなる。


「そう言ってもらえると思って、先方の都合に合わせると言ってしまってね……あの人気が弱いから心の準備をさせた上で逃げ道を塞がないと」


 思わずジト目でお母さんを見る。

 お母さんそれはセッティングとは言わないよ。

 ただ単に私と熊雄というらしい再婚相手の退路を断っただけだよ。


 それに何? 熟年夫婦のような相互理解は……母の女としての部分をまざまざと見せつけられる私の気持ちにもなってほしい。


 どうせ、私が結婚に反対しても「まぁそう言わずに、会うだけでいいのよ。スタバでも飲む?」とでも言い、何かと理由を付けて面談には持っていくつもりでセッティングしていたのだろう……


「息子さんは来れないらしいから三人で会うわよ」


「息子いるんだ……」


「そ、春姫と同い年で同じ高校へ進学予定」


「えぇー」


「仕方がないでしょ?」


 何を言っているんだ? とでも言いたげな表情を浮かべるその顔は酒のせいか赤かった。


「ちゃんとおねえちゃんしてあげるんだよ?」


「私どちらかというと頼りがいのある人が好きなんだけど……」


「男なんてのはね。女の子の掌の上で転がすのが一番なのよ? 私も若いころはそれで失敗したし……ああ、どうして若いころってオラオラ系が格好良く見えるのかしら……やっぱり承太郎よりも仗助みたいな男とがいいのよ!」


「私はジョナサンみたいな誠実な男が好き……」


 お母さんは私のことを鼻で笑うと。


「リードされたいってのはお姫様願望なのよ。理想の男を探すより理想の男に育てた方が良いと世の女性は気が付くべきだわ!!」


 どうやらアルコールが回って脳が機能していないみたい。

 

「光源氏じゃないんだから……」


 私は半ば母の言動に呆れていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ